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【11/1コミカライズ連載開始】魔術師の杖 短編集 ネリアとレオポルドのじれじれな日常  作者: 粉雪@『魔術師の杖』11月1日コミカライズ開始!
連載開始四周年記念SS

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お泊まりおでかけ with 副団長③

挿絵(By みてみん)

眼鏡ユーリ(変装中)

(絵:よろづ先生)

 目的地のコルト湖は晴れた空を映し、湖面はキラキラと鏡のように輝いていた。


 今回の出張依頼はレオポルドを通じたもので、湖に面した時計塔に設置された、百五十年前の魔導時計を修理することになっている。


 なんと王城の大広間にある魔導時計の設計者、第八代目の錬金術師団長ドルゲの作らしい。


 まずは対岸の町コルトに着いて領主館に立ち寄り、領主館で保管されている設計図をだしてもらい、それを見ながら説明を聞く。


 精巧な作りの魔導人形が動き回る、大広間の華やかな時計とは逆に、湖の対岸にある町に時を告げる、質実剛健といった感じの時計塔だという。


「それでも錬金術師団長の作ですからな。水位計や風速計なども備え、天候の変化や災害なども予測したとか」


「へえぇ……」


 副団長の説明を聞きながら図面に見入っていると、領主のコルト夫妻がにこにことあいづちを打つ。


「コルトの民には時計塔の鐘が、時を告げる大切なものです。ところが年越しの晩に鳴るはずの音が、いつまでたっても鳴りません」


「町の魔道具師ではお手上げで……もう壊れたのかもしれませんが、生き返らせられるなら、あの音色をとり戻したいのです」


 魔導時計はときどき油をさして、魔石を補充するぐらいだったという。


「私がまず夫妻から相談を受けて、王城でも魔導時計のメンテナンスを任されている、カーター副団長ならと推薦したのだ」


「ふむ……最近はオドゥに任せていたが、たしかにあの時計なら私も手入れをしておりました」


「それでこちらは助手のかたですか?」


 コルト夫妻がふしぎそうにわたしを見る。いかにも素人くさい小娘が、ひっついているんだもの、そう思うのも無理はない。


 わたしたちを案内した領主館のスタッフは、レオポルドとカーター副団長の顔だけを知っていたのだろう。


(どうしよう、ここは助手のふりでもしとこうか……)


 一瞬そう思いそうになったところで、レオポルドの腕が伸びてきて、わたしの肩を抱き寄せた。


「ひゃっ⁉」


「ご紹介が遅れて失礼した。私の婚約者で錬金術師団長を務めるネリア・ネリスです」


「私の上司でもあります」


 副団長がつけ加えたけれど、夫妻の目がまん丸になって、口があんぐりと開いて、わたしはいたたまれなくなった。


「ヨロシクオネガイシマス……」


 わたし仮面取らないほうが、よかったんじゃないかなぁ……。夫妻は目配せをしたあと、夫人がにこやかにわたしへほほえむ。


「ま、それは失礼を……でしたら部屋は湖に面した続き部屋にしましょうか?」


「お気遣いなく。まだ婚約したばかりで、贈りものの手配も済んでいませんから」


 そう言ってふいっと顔をそらしたレオポルドに、コルト夫妻だけでなく部屋に居合わせたスタッフまでが、息をのんで目を潤ませる。


「まぁ!」


「それはそれは……我々はお若いふたりに、貴重な時間を割かせてしまったようだ」


「いやあの、そういうお、お気遣いは不要なので……」


 ワタワタと両手を振ると、コルト夫人はにっこにこで夫に話しかける。


「そうだわ、お忙しいおふたりですもの。一緒におでかけされたことは、あまりないのではないかしら。晩餐まではまだ間がありますし、湖畔の散歩を楽しまれてはいかが」


 何そのお見合いみたいな、『あとはお若いおふたりで』みたいな気遣い……と思ったら、コルト氏も目を輝かせてうなずく。


「それがいい。ぜひこの地で思い出を作って帰られるといい。妻と私の思い出の地でもありましてな、晩餐ではその話をお聞かせしましょう」


「まぁ、あなたったら。お客様がくるたびにその話ばかり」


 いやわたしたちは仕事で、魔導時計の修理をしにきたのであって。ところがカーター副団長までも、ギロリと目を光らせてうなずいた。


「すぐ作業にはかかれません。私が点検箇所を抜きだしておきましょう。アルバーン魔術師団長、ネリス師団長の案内を頼みます」


 ……副団長まで!


 そしてレオポルドは顔をそらしたまま、思案するように指で髪を右耳にかけ、銀の長いまつ毛を伏せた。


「そうだな。機会があれば案内したいと思っていた。ちょうどいいか……」


 黄昏色にきらめく瞳がわたしに向けられ、大きな手が差しだされる。


「ではコルト夫妻の言葉に甘えよう。きっときみも興味を持つはずだ」


 なんかレオポルドって……いつも断れない状況で手を差しのべてくるよね⁉





 ぽーいっ。わたしたちは盛大にお見送りされて、ふたりきりで湖畔の散歩をすることになった。


 対岸にある大理石でできた、白亜の時計塔が湖面に映りこみ、美しいコルト湖にはわたしたちの他にも、景色を楽しむ人たちでにぎわっていた。


「ええと、くる前から案内してくれるつもりだったの?」


「ああ」


 さくさくと砂を踏みしめながら、彼はゆったりとした歩調でわたしをエスコートしてくれる。ええと……この歩きかたにも、まだ慣れない。


 だってレオポルドが歩くときって……スタスタという擬音が似合うほど、長い脚が前後に動いて、そこをわたしが小走りでついていく感じだったのに。


 それがピッタリ寄り添って歩いてくれるんだよ⁉


 レオポルドがおかしくなったとしか思えないよ!


「……またきみは頭の中でぐるぐる考えているのか?」


「えっ?」


 頭の中でわちゃわちゃ考えていたら、彼が立ちどまってわたしの顔をのぞきこむ。おっしゃる通り、ぐるぐるしてました!


 そして顔がいい。顔がいいのはわかってるけどドキドキするのは、きょうのレオポルド、なんか楽しそうなんだもん。


「ここはコルト夫妻にとっても思い出の地なようだが、私たちにとってもそうなのだ」


「私たち?」


 わたしここきたの、はじめてだけど?


 ぽかんとしたわたしを見おろして、彼はおかしそうに口の端をかすかに持ちあげた。


「迷宮絵本で見たことがあるだろう。モデルとなった水の迷宮が、この地にはある。きみがもっと見たいと言っていた湖底都市だ」


 ……なんですと⁉

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