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【11/1コミカライズ連載開始】魔術師の杖 短編集 ネリアとレオポルドのじれじれな日常  作者: 粉雪@『魔術師の杖』11月1日コミカライズ開始!
連載開始四周年記念SS

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お泊まりおでかけ with 副団長①

カーター副団長とネリアたちのおでかけ。

時系列的にどこに入れるか決まらず、連載には載せられなかったエピソードです。

 わたしがレオポルドと竜騎士団の竜舎にやってくると、カーター副団長が先にきていた。


「カーター副団長も収納鞄買ったの?」


 彼が肩から下げている収納鞄に気がついてたずねれば、彼は重々しくうなずいた。


「師団長がこの鞄ひとつで王都にやってきたさまは、私にとっても衝撃でしたからな。中は私に合わせ、カスタマイズしてあります」


「あとで見せてもらえる?カーター副団長のカスタマイズなんて、ユーリも後で見たがるんじゃないかな」


「そうですかな。ですが……」


 首をちょっとだけひねって、カーター副団長はギラリと目を光らせた。


「たとえ王太子であろうと、タダでは見せませんぞ。もちろん師団長であってもです!」


「あ、じゃあわたしの鞄もあとで見せるよ」


「……それならいいでしょう」


 わたしの申し出にカーター副団長の態度は豹変し、うれしさを隠しきれないのか、ニヒョニヒョと顔をゆがませる。


 ……笑顔が不気味だから!


 そういえば工房でも師団長室でも、こんなふうにねっとりとした視線が飛んできたなぁ。





 竜騎士たちの詰め所から紺色の騎士服を着たライアスが、大股に歩いてこちらにやってくると、さわやかにレオポルドへ笑いかける。


「レオポルド、アガテリスの仕上がりは上々だ。いい旅になるように」


「感謝する」


 緑髪の副官のデニスはわたしとカーター副団長にマントを渡し、トレイに並べたミスリル製の護符からいくつか選ばせてくれた。


「ふだんミスリルの精錬をされていても、実際に装備されるのははじめてでしょう。使用感をぜひ確かめてください」


「ふん。私が効果を付与したものか」


「どれがどんな効果なの?」


 ビロードが敷かれたトレイに並んだ護符は、ミスリルの輝きに魔石がきらめいて、キラキラしたアクセサリーのようだ。カーター副団長はどれも見覚えがあるのか、ひとつひとつ説明してくれる。


「指輪は力を強化し、剣をふるうスピードを上げ、剣戟の重さを増します。耳につけるものは幻覚や記憶障害を防ぎ、精神を護ります」


「髪飾りや髪留めもあるんだね」


「戦いの邪魔にならないよう、小さなものですが。集中力を高めたり、爆音から耳を護る効果もあります」


 わたしは爆音から耳を護るという、水色の魔石がついた小さな髪留めを日にかざす。


「うわぁ……キレイ……」


「きみは私の護符もよく、うれしそうに眺めているな」


 輪っかになっていて髪の束を留めるシンプルな護符、そういえばレオポルドも似たような、魔石の飾りをいつも髪につけている。


「あ、うん。どこをとってもキレイっていうか、形だけでなく魔石も、あと描かれた魔法陣や術式にも、つい見とれちゃうんだ」


 レオポルドの護符を見つめながらニコニコと返事をすれば、カーター副団長が渋い顔でツッコミを入れた。


「ネリス師団長……見とれる対象が違うと思いますぞ」


「え、他に何かある?」


 こんなみごとな護符があるのに、他は何に見とれればいいのだろう。


 するとカーター副団長は、無表情のまま立っているレオポルドに目をやり、じっと護符を眺めてからわたしに視線を戻し、残念そうに首を振ってため息をついた。


「たしかにみごとな護符ではありますが……」


「副団長もあとで見せてもらう?」


「いいのですか?」


 パアァッっと副団長の顔が明るくなった。ハッとして我に返り、レオポルドの護符をガン見しながら、モゴモゴと口の中でつぶやく。


「だが……しかし、魔術師団長の護符を間近で……この機を逃しては……う、ううむっ」


「宿に着いてからなら」


 レオポルドがあっさりうなずいた瞬間、好奇心に負けた副団長は、前のめりに身を乗りだす。


「お願いしますっ!」


 レオポルドは平然としたまま、まばたきをしただけで副団長に応じる。


「かまわない、術式の調整に意見をもらえればありがたい」


「喜んでっ!」


 興奮にほほを上気させた副団長は、張り切ってエンツを飛ばす。


「カディアン、記録石をありったけ持ってこい。竜舎だ、今すぐ!」


「……は⁉」


 エクグラシアの王城で、第二王子をこき使うのは副団長ぐらいだ。まぁ、弟子だもんね。


 ほどなくしてカディアンではなく、補佐官のオーランドが茶色のケースを持ってあらわれた。


「お待たせいたしました、記録石がご入用とか。文官が使用しているものを、急ぎお持ちしました」


「うむ」


 すっと差しだされた記録石を箱ごと受けとり、カーター副団長はオーランドに念を押した。


「返却はせぬぞ?」


「心得ております。費用はカディアン殿下の交際費よりまかないますので」


「それならいい」


 カディアン……ちゃっかりお小遣いを減らされたらしい。副団長は収納鞄にケースをしまって、わたしたちに向きなおった。


「お待たせしましたな」


「だいじょうぶ、副団長のほうが先に来てたんだもん。それにアガテリスなら、ひとっ飛びだよ」


 キュウ……。


 白銀の鱗をきらめかせ、紫の瞳をすがめた優美な白竜は、頭をさげてわたしに額をすりつけた。


「わたしとカーター副団長を乗せてもらうの。今日はよろしくね、アガテリス!」


 ギュオオオオオォウ!


 アガテリスがひと声高く鳴き、バサリと翼を動かしただけで、竜巻のような風が巻き起こる。


「わぷ。やっぱドラゴンてすごい……」


 グオオオオオオオォウゥ……オオオオォッ!


 吹く風に目をパチパチしていたら、間髪入れずに竜舎の奥から、凄まじいおたけびが聞こえた。


「ミストレイってば今日も元気だね。あいさつしていったほうがいいかな?」


 でかけるあいさつをしないと、ミストレイがすねそうな気がする。そう思ったのだけれど、ライアスもデニスも首をぶんぶんと横に振った。


「いいやっ、ネリアはこのままレオポルドといっしょに、アガテリスと飛んでくれ。今日のミストレイは気が立っているからな、我々はすぐに演習を行う!」


「そうです、なるべく早く王都から離れてくださいっ!」


「そう?」


 出かける準備でモタモタしていても、竜騎士たちの邪魔になるのかもしれない。差しだされたレオポルドの手を取れば、副団長と三人そろってアガテリスの背に転移した。


 レオポルドの前に副団長が座り、わたしは後ろに体を固定してもらう。抱きかかえられるのもいいんだけれど、背中にしがみつく形になるほうがホッとする。


 すくなくとも振り向いたら、彼の顔がすぐそこ……なんてことにならないし。わたしの心臓もバクバクすることはない。


 ギュオオオオオォウ!


 ふたたびアガテリスがひと声あげたら、次の瞬間には大空にふわりと浮かんでいた。


 わたしがレオポルドにしがみついて、アガテリスの背から手を振っているあいだに、地上のライアスやオーランド、それに竜騎士たちがどんどん小さくなる。





 地上ではアガテリスを見送って、副官のデニスが団長のライアスに話しかけた。


「いっちゃいましたね……」


「そうだな」


「しかし、カーター副団長もすごいですね。婚約したばかりのふたりにくっついて出かけるとは。なんたって泊まりですよ⁉」


 ライアスは言葉に詰まった。


「そこは公私の区別をきちんとするだろうし……」


「じゃあ団長だったら、同じようについて行きますか?」


「……いかない」


 気を使うのも使われるのも困るし、何かを目撃することになっても困る。何かとは何なのか……と聞かれても答えられないが。


 金の髪をぐしゃりと乱し、ライアスはため息をついて、青空に白く輝く点となったアガテリスに目をやった。

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