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【11/1コミカライズ連載開始】魔術師の杖 短編集 ネリアとレオポルドのじれじれな日常  作者: 粉雪@『魔術師の杖』11月1日コミカライズ開始!
2023ハロウィンSS(短編集①『錬金術師グレンの育てし者』収載)

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王城での仮装パーティー 後編

(仕事のことは、ちゃんと話せるようになった。それにわたしだけじゃなく、錬金術師団にも気を配ってくれる……これも頭突きの効果?)


 塔の図書室を訪ねるカーター副団長とはよく話すみたいで、副団長の好感度が爆上がりだ。最近ではヴェリガンにもビシッとアドバイスするようになった。


『自信のなさは人に伝わり、相手を不安にさせる。貴族らしいふるまいはきちんと身につけるように』


『ふぇ⁉️』


 年上のヴェリガンにも容赦しない。これも面倒見の良さなのか……彼の特訓が厳しいことは、わたしも身をもって体験ずみだけど、ヌーメリアやアレクのことを考えるとありがたい。


「レオポルドって苦労性だよね」


 だからいつもあんなに難しい顔をして、眉間にシワを寄せているんだ。この催しもちゃんと楽しめているのかしら。


「ふふっ、気づくかな?」


 通路を封鎖している魔法陣に軽く指でふれると、かすかに光を発する。


 ヴェールをかぶったゴーストの花嫁は、破れたドレスをひきずり、ゆっくり螺旋階段を昇り始めた。


 本城の中でも高い場所にある天空舞台に続く螺旋階段は、転移陣があるからふだん使われない。


 カツ……ン。


 吹き抜けになった空洞に靴音が反響する。だいぶ昇ったところで下を見たら目が回りそう。


 壁に手をつきゆっくりと進む。駆けあがったらゴーストらしくないしね!


 転移陣は閉じられているから、広々とした天空舞台までやってくる人は少ない。


 昇り切って息をつくわたしに、背後から声がかかった。


「遅かったな」


「ひゃっ!」


 ふりむいたわたしは飛びあがりそうになった。巨大なツノを頭に生やし、長い毛並みに覆われた魔羊が、長いまつ毛に覆われたつぶらな黒い瞳でこちらを見ている。


「ワタ、ワタシオイシクナイデス!」


「だれが食べるか」


 さすがに声でわかるけれど、被り物ですっぽり頭部を覆って現れるとは……それより!


「えと、何でわかったの?」


 しかも先に来ていたっぽい。まさか待ち伏せ⁉️


 魔羊は尊大な態度で腕を組み、フンと鼻を鳴らす。被り物してても中身はちっとも変わらない。むしろこのまま一生その格好でいなよ、と言いたいぐらい似合ってる。


「ヴェールに白いドレスなど、ふだんの仮面に白いローブとさして変わらん」


「ちょっと、メイクだって時間かけたのに。ほら見てよこの心臓!」


 わたしは胸を張る。


「胸を張るな。というか見せびらかすな!」


 盛大にため息をつかれて怒られただけだった。何で⁉️


「いやいや、この心臓ポイントなのに。鼓動に合わせて光るんだよ、すごいでしょ」


「お前の鼓動を反映しているのか?」


 興味をひかれたように一瞬胸元を見つめたくせに、すぐ我に返って彼は文句を言う。


「そうじゃなくて、胸をはだけるのをやめろと言ってる!」


「そしたら心臓が見えないじゃん!」


「そもそも心臓は見せるものじゃないだろう!」


「そういうデザインなんだってば!」


 ゴーストの花嫁と魔羊のしょーもない言い争いに、まわりから人がどんどん減っていく。


「もうっ、気分でないじゃん!」


 わたしはふてくされて収納ポケットからフォトを取りだした。


「ここなら月がきれいだろうし、記念撮影に最適だと思ったのに」


「……」

 彼は急に黙って、わたしが取りだしたフォトをじっと見つめている。


「何?」


「いや……」


「じゃ、そのまましばらく黙ってて。よっと……こんな感じかな?」


 精一杯腕を伸ばして自分に向けてフォトを撮る。できあがりを確かめると月はきれいに撮れたけど、風にあおられた花嫁のヴェールは白い布のぼんやりした塊で、良くも悪くも心霊写真みたいだ。


「うーん、雰囲気はでているけどイメージとちがう……」


「貸してみろ」


 横から伸びてきた手がフォトを取り上げた。


「どんな風に撮りたいのだ」


 わたしはあわてて彼に説明する。


「あっ、ええと……月をバックにしてドレスがきれいに撮れたらなって。心臓もちゃんと写してね」


「注文が多い」


「いいじゃん」


 やっぱりドレスは浮かれてしまう。古着屋さんで古いドレスを見つけ、今夜のために加工した。


 トクン、トクンと脈打つ心臓は、魔道具ギルドのサージにも手伝ってもらった。


 本当はメロディに頼みたかったけど、「絶対イヤ!」と断られたのだ。


 胸の上に貼りつけているだけなのに、それっぽく見える。


「そこに立て」


 魔羊な彼は天空舞台の一点を指した。


「ポーズはどうすればいい?」


「いらん」


 トコトコと指さされた場所まで歩いて行ってふりかえる。


「心臓を押さえて私を見ろ」


「え?」


 聞き返した時にはもう撮影は終わっていた。


「ちょっと早すぎ!」


「ほら」


 それはゴーストの花嫁。ヴェールの向こうで輝く宝石のような黄緑の瞳、淡く光る心臓を細い指で押さえ、唇はかすかに開いている。


 月の光を浴びて無表情に立ちつくし、ただ指の隙間からのぞく心臓だけがほのかに赤い。


 写っているのはたしかにわたしだけど、自分のようで自分じゃない。


「すごい……想像以上だよ。どうしたらこんなにキレイに撮れるの?」


「見たままをとらえただけだ」


「それにしたって……あ、わたしも撮っていい?」


「魔羊をか?」


「うん!」


 顔がなくとも均整のとれた体は堂々としている。魔羊をこんなに近くで眺めることなんてないし、わたしはベストポジションを探した。


 月明かりの下で不思議な撮影会。


 幽玄なる時、あわいなる場所、異界の者との逢瀬。


 満足したら取りだしたグラスに月を映し、ふたり静かに乾杯をした。

お読みいただきありがとうございました!

書籍に入れるなら加筆ありきですが、また気まぐれに何か書くかもです。

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