王城での仮装パーティー 前編
Xとスレッズでハロウィン用に連載したものを、保存も兼ねてこちらにも載せておきます。
「という訳で仮装パーティーです!」
舞台はシャングリラ王城、豪華な魔導時計があり本物の魔導シャンデリアがいくつもぶら下がる大広間、隠し通路の扉が隠された絵の並ぶ廊下、天空舞台に続く螺旋階段……城丸ごとを使った大規模な仮装パーティーの主催は錬金術師団。
その仮装テーマは『幽玄』……ヒトでないものに扮すること。
参加者は王城関係者だけだが、服飾部門の協力も仰ぎ、何というか……一見の価値がある本格的なガチコスプレ大会になっている。
フルフェイスの鎧の騎士、精霊や妖精はまだヒト型だけれど、ゴリガデルスはゴジラの着ぐるみより迫力がある。
ドラゴンもけっこういて、人間サイズのミストレイが歩き回ってあいさつしたり、首の付け根にある隙間からグラスで飲み物を飲んだりしている。
「うひょー、すごいねぇ!」
わたしは隣のヌーメリアに話しかけた。暁の精霊に扮した彼女は、朱色の鮮やかな髪をゆるく束ね背中に流していた。
「ヌーメリアとってもきれい!」
「ふふっ、自分とはかけ離れた者になるのは新鮮ですね。鮮やかな色の髪……憧れだったんです」
「自分のなりたいものになれるっていいよね!」
「ネリアもかわいいですよ」
今夜の私はゴーストの花嫁だ。破れたウェディングドレスの胸元からは、赤く光る心臓がのぞく。
ドライフラワーのブーケを抱え、青ざめたゴーストメイクをしてヴェールをかぶる。
「きょうはフォトの撮影も許可してもらったし、これでぜひとも雰囲気のあるフォトを……」
「魔導時計のオートマタに扮して、大広間で撮影会も始まってますね」
「天空舞台の螺旋階段もよさそう」
「ネリアひとりで?」
レオポルドやライアスも来ているはずだけど、この人数と凝りすぎた仮装のせいで、どこにいるか分からない。
「王城の中ならそんなに危なくないでしょ。ちょっとぶらついてくるね!」
「あ、ネリア……」
夜の王城は暗がりも多く、いつもと違う雰囲気だ。窓に映るゴーストの花嫁は青ざめて微笑んだ。
今夜は仮装した対象になりきるのが決まりで、身分や役職は関係ない。
気楽に非日常を楽しんでもらおうと企画したけど、舞台が王城ということもあり、フォトの撮影に興じる参加者や、即興劇を演じて拍手を浴びるグループもいて盛りあがっている。
「花嫁さん、ブーケをどうぞ」
「ありがとう!」
薄桃色のブーケは、キラキラ光る砂糖細工の花びらをペキリと折って口に入れれば、しゅわりと溶ける。
「ん、おいしい!」
食べるのがもったいないくらいキレイなのに、食べやすくておいしいから花びらが一枚、また一枚と消えていく。
今夜は給仕も魔道具任せ。羽が生えて飛び回るグラスを捕まえた。
グラスのふちを指でなぞるとメニューが書かれた魔法陣が展開する。
「あ、ティナのジュースがある!」
ほしい飲み物を選べば次の瞬間にはグラスが満たされた。
厨房のタンクはどんどんカラになっているはず。こういった仕掛けのために、わたしは厨房の魔道具に魔力を注ぎまくったのだ。
「幽玄なる夜、今宵集まりし皆様は、この世とあの世のあわいの住人……」
頭に大きな角を生やした金色の獣が、朗々とした声で詩を吟ずる。
すれ違うのはヒトではない者たち。妖精たちは青や紫に煌めく羽をつけ、精霊は雷や雪、その性質をあらわすものを身にまとう。いくら眺めても見飽きない。
「こういう場にはね、本物が紛れこむことがあるから、それ用の食べ物も用意しとくんですよ」
そういって料理人のダースは妖精が好む、砂糖細工の花をたくさん作っていた。精霊のご飯は魔法陣で作った場に、炎や水が柱となって渦巻く。
実体がなくとも精霊たちはそこに在り、世界を魔力で満たしている。
食べられる花のブーケのほかに、魔女をかたどった黒い棒チョコや、錬金術師の白い棒チョコも配られている。これはそれぞれの師団をあらわしていて、竜騎士団は青いミストレイ型のラムネ味のグミにした。
わたしは錬金術師の白い棒チョコをゲットして、螺旋階段の登り口までやってきた。
天空舞台への螺旋階段はわたしもはじめて登る。王城の中は行けない場所には魔法陣が張ってあり、そこを越えなければ自由に移動可能だ。
『……お前であれば行かれない場所はないであろうが』
仮装パーティーの打ち合わせをした時、彼はそう言った。
『行かれない場所はない?』
『そうだ……師団長室の守護精霊の主でもあるソラは、王城内部では自由に動ける。当然お前もだ』
『そんな話、知らなかったよ』
無表情な整いすぎるほどに整った美しい顔立ちは、見る者の息をたやすく止めさせる。なのに黄昏色の瞳はわたしだけを見ていた。
『聞かせるほどの話ではないからな』
『黙っていた……ということ?』
『……』
そんな話をなぜ今わたしに教えるのだろう。信用されたということ?それとも……。
『じゃあどこまで行けるか、試してみる』
わたしは彼に向かって挑むように笑った。
『だけど王城の中だけじゃないわ。わたしは行きたい場所ならどこへでも行く。いい?』
『好きにしろ。当日立ち入り禁止の場所には魔法陣を張っておく。ふれればすぐ私に伝わる』
彼はそう言って黄昏色の瞳でわたしを見すえた。
長いのでふたつに分けました。









