7.おまけ
カイが帰ったあとのレオポルド。
カイをどうにかマウナカイアへ送り返し、ようやく冷静さをとり戻したレオポルドは、後片づけのために残っていたオーランドに声をかけた。
「オーランド、教えてほしいことがある」
「何だ」
「グ……男くささを消すにはどうしたらいいだろうか」
さすがにグレンくささとは口にだせなかった。
ひとつ断っておくがパートナーの有無すらにおいで判断する、人魚族であるカイの嗅覚が人並み以上に優れているだけで、ふつうの人間にはそんなものは嗅ぎとれない。
今日集まったメンツの中では一番、王城で文官を務めるオーランドがその手のことには詳しそうだ。
けれど銀縁眼鏡のつるをクイッと持ちあげ、オーランドはしごく真面目に答える。
「何をいうか、男くささを消すなど……においとてお前自身をあらわすもの。それぐらいパートナーである女性には、受けいれてもらえ」
「そうですよ、師団長からにおいがなくなったら、ただでさえ美麗な外見なんだから、ますます浮世離れしちまう」
「……」
レインにまでそういわれ、レオポルドは説明することをあきらめた。
自分の体臭ではなく、カイから「においまでグレンそっくり」と言われたのが気になっているのだが。
その晩じゃくじぃに向かった彼がその小瓶に目をとめたのは、そんなことがあったせいかもしれない。
「ソラ、じゃくじぃの前室に置いてあるさまざまな小瓶は何だ。種類が多くてよくわからん」
「ネリア様がヌーメリアに作ってもらって、使われているものですね」
化粧水や乳液、くせっ毛をまとめるためのヘアオイルやワックス……ネリアは異世界の女子はどうやって肌や髪のお手入れをしているのか、いっしょに暮らしはじめてすぐヌーメリアにたずねた。
「こっちの世……ううん、王都の女の子たちはどうやってお手入れしてるのかなぁ?」
それはネリアが会話の糸口をつかもうとした問いかけだったが、ヌーメリアもいかんせん引きこもり歴が長く、まともな答えを返せなかった。
女子のそんな話をするなんて何年ぶりだろう、けれど相談されたのは素直にうれしい。
そしてネリアの相談に応じるために、ヌーメリアが頼ったのがなんとヴェリガンだった。
ヌーメリアから話しかけられて舞いあがったヴェリガンは、自分の祖母である〝緑の魔女〟直伝のレシピを引っ張りだした。
街に買いものにでかけるよりは、研究室で蒸留器を相手にフラスコやビーカーの中身をかき回しているほうがいい。
ヴェリガンが自分の手つきにうっとりと見とれていることなど気づきもせず、ヌーメリアはせっせと魔女の手仕事に精をだした。
そうやって作りだしたものは効果てきめんで、ネリアはおおいにその恩恵に預かったし、ふたりの距離を縮めるのにも役立ったのだ。
ソラもひとつひとつの瓶をとりあげ、レオポルドにヌーメリアから聞いた説明を教える。
そのなかのひとつは、香りのいい花からとりだした精油を、すりガラスの美しい小瓶に詰めたものらしい。
「これなどは湯に垂らすと甘い香りに包まれるとか」
「ほう」
その晩じゃくじぃを使ったレオポルドは、いつもより甘い花の香りに包まれた。
ありがとうございました!









