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【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】魔術師の杖 短編集 ネリアとレオポルドのじれじれな日常  作者: 粉雪
2022ハロウィンSS(短編集①『錬金術師グレンの育てし者』収載)
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魔女のお茶会・中編

 お菓子をつまんでボッチャジュースを飲み、教えてもらった魔女の歌を歌う。


 満月の夜は魔女のもの

 こわがりさんは寝床においき

 魔女の口づけほしければ

 月にむかって窓あけろ

 満月の夜は魔女のもの

 こわがりさんは寝床においき

 魔女の口づけ受けとれば

 月がみるから窓しめろ


 手をつないで踊って、手を叩いてみんなで笑いころげて……のどが渇けばまたボッチャジュースを飲む。わたしはとても気分がよくなって、ふわふわしてきた。


 盛りあがったところでアイリが温かいミッラティーを淹れてくれた。それを合図にニーナが立ちあがると、ミーナがカラのバスケットをふたつ持ってくる。


「さてと、そろそろはじめましょうか。きょうのお茶会はヌーメリアさんと……ついでにネリィのためよね」


「よろしくお願いします!」


 それから倉庫にあるもので、みんなで衣装を選んだ。黄緑の髪をお団子にしたミーナがウィンクする。


「ふだんは絶対しないような恰好をするのよ、どんなハチャメチャでもいいの」


 ニーナは次々に箱から衣装をだしてはならべていく。


「〝四本足のお茶会〟の衣装だってあるわ。ヌーメリアさんはどれにする?」


「え、わ……わたしは……」


 とまどうヌーメリアにニーナがずいっとつめよった。


「ほらビスチェ、鎖骨はきれいにださなくっちゃ。もし恥ずかしいんだったら、顔をベールで隠すとかどう?」


「そ、それなら……」


 ニーナがどんどんヌーメリアに衣装をあわせていく。きれいな深いブルーのビスチェで豊かなふくらみをおさえ、むきだしになった背中にはフウゲツコウモリの羽をつける。


 スカートはただ布を巻いただけで腰をしばり、シャラシャラと音が鳴る鎖をとりつけた。身動きすれば涼やかな金属音とともに、布のあわせから白い脚がのぞく。なんか色っぽい!


「じゃあ魔女の定番……〝とんがり帽子〟ね」


 ミーナが帽子をかぶせてベールをとりつけると、占いでもはじめそうな立派な魔女のできあがりだ。


「おおお、ヌーメリア……めっちゃ魔女っぽい!」


「わりといまは魔女っぽさを隠してふつうにくらすのが主流だから、たまにはこういうのもいいわね」


 ニーナが満足している横で、メロディがメイク道具をとりだしていった。


「唇に赤をのせたほうがいいわ。それにベールをつけるなら目元は印象的にしなくっちゃ」


 ヌーメリアの顔に刷毛をすべらせながら、メロディが楽しそうに魔女の歌を口ずさむ。


 満月の夜は魔女のもの

 こわがりさんは寝床においき

 魔女の口づけほしければ

 月にむかって窓あけろ

 満月の夜は魔女のもの

 こわがりさんは寝床においき

 魔女の口づけ受けとれば

 月がみるから窓しめろ


「で、ネリィはどうする?」


「そうねぇ……肌みせは逆効果かもしれないわ。それに彼、魔女なんて見飽きてるわよね」


 ニーナとミーナがひそひそと相談して、くるっと振りかえったニーナが、わたしを頭のてっぺんから足の先までみつめた。


「ふ~むむ」


「ニーナさん?」


「ちょっと待って、いま考える」


 ニーナは顔をしかめてしばらく考えこんでから。ポンと手を打って顔をあげた。


「そうだ、ボッチャの妖精にしましょう!」


「ボッチャの妖精?」


 何だか知らないけど、わたしはパフスリーブのブラウスに黒いビスチェをつけて、オレンジ色のフワフワスカートを着せられた。


 髪飾りはボッチャのヘタに、蜘蛛の巣モチーフのレースと蜘蛛をあしらってもらう。


「おおっ、かわいい!独創的ですね!」


「まぁ、ネリィはもともと妖精っぽいものね」


 メロディがくすくすと笑って、わたしの顔に涙型のしずくを描いてくれた。





「〝魔女のお茶会〟は三人以上の魔女が必要なの。アイリは見習いだけど私とミーナ、それにメロディがいるしね。さあ、〝毒の魔女〟ヌーメリア……あなたが今宵私たちに借りたい力はなあに?」


 ヌーメリアは手にもったグラスに目を落とし、何杯目かのボッチャジュースを一気にあおると立ちあがった。


「私……私は勇気がほしいです。毎朝鏡をみると不安になる。こんな私が幸せになれるのかって……そうしたら何もいえなくなってしまう。いつも胸にあるお守りでさえも、こんなときは助けにならなくて」


 そういってヌーメリアは胸にさげたペンダントを、ギュッとにぎりしめてうつむいた。


「そういうときはひとりで悩まないで……ヌーメリアさんには頼りになる彼だっているんだし。では私たちからの贈りものを」


 そういうとニーナは空中に魔法陣を紡ぎはじめた。いつもデザイン画を描いている彼女が紡ぐ術式は、線がとてもきれいだ。


 ニーナはバスケットに保温の術式をかけると、テーブルにあったお菓子や料理をつめていく。


「服飾の魔女ニーナが魔女ヌーメリアへ贈りものを。私からは〝勇気〟を……温かいうちに運んでね」


 ミーナがバスケットにリボンをかけて、キュッと結ぶとそこに魔法陣を刻む。


「装飾の魔女ミーナが魔女ヌーメリアへ贈りものを。私からは〝縁〟を……心が結びつきますように」


 メロディが魔法陣をかけた布をふわりとバスケットにかけた。


「彩の魔女メロディが魔女ヌーメリアへ贈りものを。私からは〝笑顔〟を……この布をとったときふたりが笑顔になれますように」


 ニーナが最後にバスケットを持ちあげてウィンクした。


「このバスケットはおみやげね、夜もひとりぼっちで寂しそうな、独身男に持ってってあげるのよ」


「ありがとうございます……おかげで勇気がでました!」


 ヌーメリアがうれしそうな顔で受けとって、あ……ヴェリガンに持っていくんだな、と思った。


「みんな、ありがとう!」


「ネリィのぶんもあるわよ、ほら」


 なぜかわたしのぶんまで持たされて、バスケットとともに〝魔女のお茶会〟から送りだされた。





 工房で〝魔女のお茶会〟を終えた魔女たちは、ミッラティーを飲みながらのんびりとくつろいだ。


「私、錬金術師のネグスコって人のこと知らないけど、大人よねぇ……魔女にボッチャジュースを贈るなんて」


 ミーナがほほに手をあててつぶやけば、メロディもくすくすと笑って応じる。


「ね。それを飲んで僕のところにきてほしいとか……そんなとこかしら」


 恋愛ごとに縁のなかったヴェリガンは何も知らないけれど、みんなはそんなことどうでもよかった。メロディがちょっと心配そうな顔をする。


「でもネリィから〝魔女のお茶会〟をやりたいって聞かされたときはびっくりしたけど……あの子、わかってると思う?」


「ちょっと不安になるわね。ボッチャジュースも知らなかったし」


 ミーナが首をかしげれば、ニーナも難しい顔をした。


「どこいくつもりか知らないけど、玉砕しなきゃいいわよね……」





 研究棟の前でわたしはヌーメリアと別れた。彼女はそわそわしたようすで、自分のバスケットを抱えた。


「あの、私はこれで……おやすみなさい、ネリア」


「うん、おやすみ!」


 ヴェリガンの研究室へとむかう彼女を見送って、わたしは手に持ったバスケットに目をむけた。


『夜もひとりぼっちで寂しそうな、独身男に持ってってあげるのよ』


「ひとりぼっちで寂しそうな独身男……」


 せっかくたくさん作ったのだ。メロディやニーナたちも「おいしい」ってほめてくれた。


 ふだんだったら絶対そんなことしないのに、ボッチャジュースのおかげでふわふわとしたいい気分だったわたしは、バスケットの中身をおすそわけしたくなった。


 夜空に赤く光る満月をみあげ、わたしは左腕につけたライガを展開する。





「やっほーい、レオポルド」


「窓から出入りするなといったはずだが……」


 仕事はとっくに終わったのだろう、ローブを脱いで本を読んでいたレオポルドは、窓からあらわれたわたしをにらみつけた。

えっと……終わらなくて(汗

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