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【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】魔術師の杖 短編集 ネリアとレオポルドのじれじれな日常  作者: 粉雪
2022クリスマスSS(短編集①『錬金術師グレンの育てし者』収載)
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2.オーナメントづくり

「木につける飾りはオーナメントっていってね、星は希望をあらわしていて、丸い実は生命力を象徴してるの。ビスケットやキャンディ、それにパンとか食べものを飾ったりもしたんだって」


「魔導ランプと食べものを飾ればいいのか?」


 ライアスが変な顔をして首をひねった。ひょっとしたら彼の頭のなかでは、ター麺やムンチョのから揚げ、ゴリガデルスの燻製ジャーキーがコランテトラにぶらさがっているのかもしれない。


「ええっと……食べものは食べるだけにしようか。魔導ランプはちょっとちがうんだよなぁ……木の枝全体に星がまたたく感じなんだけど」


 クリスマスツリーに飾る明かりは本物のロウソクを使っていたこともあるけれど、ツリーを電飾で飾りはじめたのはなんと白熱電球の発明者、トーマス・エジソンだ。


 白熱電球の宣伝ではじめて、それが定着したんだからトーマスおじさんはすごい。


 魔導ランプのにじむようにひろがる明かりは優しい光だけど、コランテトラにいくつもつるせば『ランプの木』みたいになる。


 わたしがイメージする星のようにまたたくイルミネーションとはちょっとちがう。


 どうやって伝えようか考えていたら、レオポルドが黄昏色の瞳をこちらにむけた。


「星がまたたく感じとは……魔導ランプとお前の考える明かりはちがうのか」


「うん……にじむようにひろがる光じゃなくて、小さくても暗闇で存在感を主張する光でそれが明滅するの」


「星のようなまたたきか……まるで星空をまとう〝夜の精霊〟だな」


 レオポルドが思いだしたようにふっと笑い、わたしはそれにドキリとする。


「光りかたを術式で調整すれば何とかなるだろう。木にぶらさげるのであれば軽いものがいい。光の魔法陣を刻める、薄くて軽い素材か……」


「ソラをピカピカに飾りたいから、数もいるんだけど」


「では魔導ガラスはどうだ。今からでは数をそろえるのは難しいだろうが、魔道具ギルドに念のためあたってみるか?」


 魔導ガラスはまだ開発中の新素材で、魔導タイルを開発した工房が研究していて術式への親和性が高く、魔法陣によりさまざまな効果を付加することができるという。


 窓ガラスとして使えば浄化機能のほかに、断熱や光をさえぎる効果もあるらしい。


 だけど作るのには手間もかかるし、それなりに高価そうだ。


「そんなに大がかりじゃなくて、できたらオーナメントも手作りしたいから、手にはいる材料でやれないかな」


 そういうと、ライアスが提案した。


「手にはいる材料……術式は刻みにくいが、融通を利かせられる素材ならあるぞ」





 ライアスが提案した材料というのはドラゴンの鱗で、錬金術師団は竜舎の年末大掃除に参加する。


 たしかに王城なら手にはいるけど……ほかでは手にはいらないドラゴンの素材って、魔導ガラスよりも高価なんじゃ……。


 ライアスはニコニコとわたしたちに説明する。


「竜舎ならドラゴンがケンカしたりして、ポロポロと鱗が床に落ちている。掃除がてら好きなだけ拾ってくれればいい」


 錬金術師たちは当然全員参加だけど、オドゥがぼやいた。


「ネリアってば何考えてるのさ。ドラゴンの鱗を拾ってソラを飾るって訳わかんないよ」


 うん、わたしもわかんない。


「鱗を集めれば魔術師団で魔法陣を刻んでくれるって、レオポルドがいうんだもの。拾うだけなら簡単じゃん」


 ユーリがため息をつく。


「拾うだけ……っていっても、ドラゴンがおとなしく拾わせてくれますかね」


 カーター副団長がギラリと目を光らせた。


「ふん、ソラを飾るぶんだけでなく、ありったけ拾って帰らねば」


 ヌーメリアはガクブルしながら、数本の小瓶をにぎりしめている。


「対ドラゴン用に調合しました……もし食べられてもドラゴンはお腹を壊します!」


「食べられちゃダメだろ、ヌーメリア」


 オドゥのツッコミに、ヌーメリアはうつむくと小さな声で答えた。


「もうひとつあるんですけど……」


「もうひとつ?」


「ドラゴンが嫌いな臭いを自分にふりかけるんです……」


「うわ、それ絶対使うなよ!」





 そうして拾い集めた鱗に、レオポルドが設計した魔法陣を塔の魔術師たちが手分けして刻んでくれる。


「魔術師たちの個性によって光りかたもちがう。まとめてつるせばさまざまな光が楽しめよう」


「ありがとう!でも……何の役にもたたないオーナメント作りをしてもらっちゃっていいの?」


「錬金術師団はいつもポーションや魔道具で魔術師団を支えてくれる。われわれの感謝を、術式で表現するのもたまにはいいだろう」


「僕も作ってみたい!」


 アレクがいうと、レオポルドは「ここにすわれ」といって術式の刻みかたをアレクに教えた。


 アレクはたどたどしい手つきで術式を刻む。


「もう飾る場所も決めてるんだ。妖精さんくるかなぁ?」


「ね、くるといいよね」


 アレクと話をしていると、レオポルドが首をかしげた。


「妖精?」


「にぎやかな場所で音楽や歌が聞こえると、妖精がやってきて贈りものをくれるんだって。ポケットとか窓辺に置かれることもあるって」


「妖精の贈りものか……祭りにはつきものだが、王城は妖精のいたずらを防ぐための結界がある。贈りものを受けとるのは難しいだろう」


「そう……」


 残念だけどしかたない。考えこんでいるレオポルドの横で、わたしもアレクといっしょになって、ドラゴンの鱗に術式を刻んだ。





「ごちそうはね、鳥の丸焼きとかもいいよね!こないだ食べたリンガランジャのお肉がはいったスープ、おいしかったなぁ」


「リンガランジャ……あの鳥を丸焼きに?」


 ライアスが顔色を変えた。


「レオポルド、竜騎士団のメンバーを中心に討伐隊を組織しよう!」


「わかった……丸焼きとなれば炎属性の魔術師もそろえよう」


「へ、討伐隊?」


 わたしがきょとんとしていると、ライアスが竜騎士団にエンツをとばした。


「デニス、すぐに討伐隊の編成を。リンガランジャの丸焼きを冬至の祝祭でコランテトラの木精に捧げる!」


「……っ!かしこまりました!」


 わたしは知らなかった。ベルヤンシャ山に棲むリンガランジャは象ほどもある巨鳥で、討伐にはドラゴンも駆りだした大掛かりなものとなることを。

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