1.それは『くりますす』
【クリスマスSSアンケート結果】
1位ツリー 9票
2位プレゼント 7票
3位サンタ 6票
4位ケーキ 2票
24~25日にかけて投稿します。ご協力ありがとうございました!
「つまんないなぁ」
居住区のリビングで頬杖をついたアレクが、窓から外をながめてぽつりとこぼした。
「どうしたのアレク」
「友だちが冬眠しちゃってさ」
「冬眠⁉︎」
わたしがびっくりすると、アレクがふりむいて教えてくれた。
「虹色トカゲのパルだよ」
「あっそうか、トカゲ……」
ヴェリガンの研究室で捕まえた虹色トカゲに、アレクは『パル』という名前をつけて部屋で飼っている。
ふと気がついたけど、王城で暮らすアレクの友だちってパルのほかにだれがいるだろう。
「ほかに仲がいい子はいる?」
「六番街の市場で仲良くなった子ならいるよ、けどこの時期はみんな家の手伝いで忙しいだろ?」
「そっか……」
そういえばアレクは退屈するとよくヴェリガンの研究室にでかけていた。
けれど最近彼はヌーメリアといっしょにいることが多いから、アレクなりに遠慮しているのかもしれない。
「雪でも降ればいいのにな。ネリアは子どものころ、冬ってどうしてた?」
「わたし?冬休みはおこたでぬくぬく漫画読んだり動画みたり……」
「何それ」
わたしはアレクに漫画や動画の説明をするのをあきらめた。
「何でもない……うーん、モヤっとしたときはライガでひとっとびゅんしちゃう?」
「やる!ライガでひとっとびゅん!」
立ちあがったアレクにアルバの呪文をかけて、暖かい空気の膜で体を包む。
そのままふたりで中庭にとびだしてライガを展開すると、アレクを乗せて王都の空へと駆けあがった。
そびえ建つ王城の両脇に魔術師団の塔と竜騎士団の竜舎がある。
本城の天空舞台まで飛べば、何人かのスタッフが新年の飾りつけをしている。
その人たちに手を振って、さらに上空にあがった。
ほほが切れそうな冷たい風も、アルバをかければへっちゃらだ。
王都の空を駆ければまだ遮音障壁を作れないアレクが、吹く風に負けじと声を張りあげる。
「すっごいなぁ……メレッタがね、僕が大人になったら僕にも乗れるライガを作ってくれるって。『もちろん一番乗りは私だけど、アレクは二番に乗せてあげるわ』っていうんだ」
「おおー、いいね!」
来年にはメレッタも入団してくれるし、どんどんライガ量産化の実現が近づいている気がする!
六番街をみおろせばマール川の支流を船が行き交い、遊覧船から観光客たちがわたしたちにむかって手を振る。
大聖堂の屋根にほどこされた彫刻を間近で鑑賞して、環状線になっている貨物列車を追えばシャングリラ中央駅だ。
魔導列車が発着するようすをしばらく眺めていると、陽が落ちて気温がぐんとさがってきた。
視界の端に映る十番街は貴族街で、夜会のために煌々と明かりが灯り、わたしは自然とライガをそちらへむけた。
収穫祭を兼ねた秋祭りが終わって、王都へ集まった貴族たちは夜会で社交に精をだす。
その年の収穫が夜会でふるまわれ、家の力を誇示するだけでなく商談の場にもなるのだという。
応じてはいないけれど、秋の対抗戦での勝利を機にわたしへの招待状もまた増えた。
(ネリア・ネリスとして生きていくことに、これからはそういった活動も含まれるのかな……)
壮麗な屋敷がならぶさまは見ごたえがあるけれど、年末なのに何か物足りない。
貴族街をみおろしたまま、わたしはぼんやり思った。
(クリスマスのイルミネーションみたい……そうだ、クリスマス!)
「クリスマスだよ、アレク!」
「えっ、何?」
居住区に戻ったわたしは、絵を描きながらアレクに説明する。
「木にね、オーナメントをつるしてピカピカに飾って、てっぺんには星を光らせるんだ」
「ふぅん?」
首をかしげているアレクの横から、ソラものぞきこんだ。
「ソラがピカピカになるのですか?」
「そうだね、中庭で大きな木といったらコランテトラだから……ソラ、ピカピカになりたい?」
「……面白そうです」
「じゃあ決まりだね、中庭のコランテトラを異世界最初のクリスマスツリーに任命します!」
「わあい」
抑揚のない声で無表情にソラが歓声らしきものをあげたのを見て、わたしはほほえみ以外の表情もソラに練習させようと心に誓った。
「あと特別なお菓子やごちそうを作って、みんなで食べてお祝いするの」
「へぇ、お菓子やごちそうはいいね!」
それまで不思議そうに聞いていたアレクが、お菓子と聞いて目を輝かせた。
「それとお祝いした晩に靴下をつるしておくと、靴下のなかにプレゼントがもらえるの」
「靴下のなかに?妖精の贈りものみたいだね」
「妖精の贈りもの?」
わたしが聞き返すと、逆にアレクが教えてくれる。
「ネリアは知らないの?ベッド脇とか窓辺にいつのまにかそっと置かれるんだ。ポケットのなかに入ってることもあるし、だれが贈ったのかもわからない贈りものだよ」
「へえぇ」
「贈りものは失くしたはずのボタンだったり、花一輪のこともあるけど……幸運を運んでくれるといわれてるんだ。木の実とか花の種だったら、それを植えて育てたりするよ」
「そっか……居住区にも妖精さんくるかなぁ?」
「だとしたら音楽だね、妖精は歌や綺麗な音が好きだっていうし」
「おおっ、ますますクリスマスっぽい!」
わたしはアイディアをまとめると、ライアスとレオポルドにエンツを送った。
集合場所は塔の師団長室、時間になってライガで飛びたてば、レオポルドが窓を開けて待っていた。
「レオポルド、こんばんは!」
「ライアスもきているぞ」
バルコニーでライガをたためば、レオポルドのむこうに手を振るライアスがみえた。
「ふたりとも忙しいのにありがとう!」
ふたりの師団長に『クリスマス』のアイディアを話すと、レオポルドが考えこむようにあごに手をあてた。
「冬至の祝祭がそれにあたるだろうか。そこを境に日が長くなる……太陽の再生を祝うものだ」
「それで中庭のコランテトラを飾るのか?」
ライアスもアレクと同じように不思議そうな顔をした。
「うん、まぁ目的は何でもいいんだけどアレクが楽しめるようにしたいの」
ヌーメリアとヴェリガン、それにアレクをくわえてひとつの家族になっていく。
まだそれぞれに遠慮していたりぎこちないけれど、家族にとって共通の思い出になるようなことがしたい。
「どうしたって王城のなかでやることになるから、ふたりにも相談しようと思って。家族っぽいことを何かやりたいんだよね」
レオポルドとライアスは顔を見合わせた。
「それはネグスコやリコリス女史が考えることではないのか?」
レオポルドの指摘はもっともで、わたしはあわててつけ加える。
「そうなんだけど……わたしも関わりたいっていうか、あとソラのこともねぎらいたいの」
「ソラをねぎらう……」
「うん、ピカピカになってみたいって。コランテトラの木を飾ってあげたら、ソラも喜んでくれそう」
ライアスが真面目な顔でレオポルドにいった。
「師団長室の守護精霊、建国より王城にあるコランテトラの木精が望んだのであれば、われわれも関わるべきなのでは?」
「……そうだな」
ふたりのようすにわたしはあわてた。
「えっ、いやあの、そんなたいしたものじゃなくて、みんなでやる遊びとかあれば教えてもらおうと」
「ちょうど夜会続きでうんざりしていたところだ。錬金術師団長がコランテトラのために儀式をするというのであれば、断るいい口実になる」
ライアスがにっこりとまぶしい笑みをみせれば、レオポルドもうなずく。
「そうだな、われわれもその『くりますす』とやらに全面的に協力しよう」
儀式じゃないから!クリスマスだから!
次回、魔術師団と竜騎士団の全面協力による『くりますす』です。何やるんだろ。