私が愛しているのはあなたじゃないっ!私の愛しい人がいない世界なんてもう意味ないのっ!
書いてみました!
どうでもいい。
もうどうでも、こんな世界は全てどうでもいいの。
でも最後に、最後に伝えられるなら──
『あなたを愛しています』
断頭台への階段を兵士に追い立てられてて進む。
私の腕や足、そして身体はもう何度もされた拷問によって傷つき、王太子妃としての価値をもう失っていた。
足取りは重く、ゆっくりと階段を上がる私をせっついてくる兵士の方を見つめると、その向こうに足を組んで椅子に座りながらこちらをじっと見つめている王太子──アニス・ビルドがいた。
どうしてこうなったの?
私が何かした?
そこで私は気づいた。
私はこの世界の人間ではない。
現世で大人気だった乙女ゲームのヒロイン……ではなく悪役令嬢トワ・リズナ―。
なんだ、断罪イベントの時まで思い出せなかったなんて、こういうのはもっと早く思い出して処刑を避けるのよ、私。
ついにたどり着いた断頭台で私は走馬灯のように思い出す。
そうだ、私はあんたなんか、あんたなんかの婚約者になんて、王太子妃になんてなりたくなかった。
『トワはいつも無邪気で可愛いね』
そう言ってくれた兄──フィリス・リズナ―は私の罪を庇って処刑されたと聞いている。
今思えば、私の恋はずっと、ずっと、現世でもこの世でも叶わない。
だって、【二次元の王子】と【実の兄】だもの。
お兄様と私は7歳も年が離れていて私に自我が目覚めたときにはすでにお兄様には婚約者がいた。
「トワ、今日も本当に可愛いね」
「お兄様、そんな言葉聞いたらアンナ様が悲しみますよ」
「アンナはそんな小さな器を持ってはいないよ」
「そうですわね」
そうだった、お兄様は婚約者であるアンナ様をそれはそれは信頼している。
そして浮気性というか、軟派なお兄様の素行も黙って落ち着いて余裕の表情を浮かべながら叱るアンナ様もすごい。
そう、私の出る幕なんていつもなかった、いつも、いつもなかった。
ある日、恋心を抑えられなくなった私はお兄様の部屋に忍び込んだ。
ベッドに眠るお兄様の静かな顔を見て帰る予定だったのに、それなのに、私の腕をがばっと掴んでナイトブルーの瞳が私を捕らえた。
「夜這いなんて誰に教わったんだい?」
「お、お兄様っ!」
お兄様は私をベッドにするりと押し倒すと私の腕を捕らえ、もう一方の手で私の頬を撫でた。
そして私の首元に唇とつけると、ちゅっと音を鳴らしてペロリと舐めた。
「きゃっ!」
「男の前でそんな薄い格好でいるんじゃない。それに、そんな声を出して男を誘うだけだよ」
まさか襲われるとは思わなかったが、お兄様が好きな私はどうにでもなってほしい、むしろこのまま私を奪ってほしいという気持ちで身を任せた。
しかし、その願いは叶わなかった。
「さ、早く自分の部屋に戻りなさい」
「え?」
「こんなところを見られてはアンナに示しがつかないだろう?」
「──っ!!」
私はその言葉に胸が苦しくなって部屋を裸足で飛び出した。
(そうだ、お兄様にはアンナ様がいるっ! 私なんかが入る隙なんて、ないのよ)
それ以降、お兄様を避けるようになってしまった私は、お父様からの指示で行ったパーティーでアニス王子に見初められて婚約をする。
(そう、これでいいのよ)
私はこうして王太子妃となった。
お兄様への気持ちは心の中へしまっておけばいいのよ。
でも、アニス様は自分の浮気を隠すために私の浮気をでっちあげて私を断罪するようにした。
断頭台で首を差し出す私の金色の目に涙が浮かぶ。
その涙にぎょっとした様子で兵士たちが、処刑をためらう。
「どうした! 早くしろっ!」
アニス様の声が断頭台の兵士に向かう。
ふふ、みんな結局自分の手を汚したくない、小童ね。
私はもう死ぬのなんて怖くない。
だって、だって、お兄様がいない世界なんてもう意味がないもの。
愛しています、フィリスお兄様。
あなたと一緒に生きたこの日々を持って、私は今人生を終わらせます。
「誰だっ! うわっ!」
「な、はなせっ!」
なに? どうしたの?
突然、兵士たちがなぎ倒されて断頭台から降ろされる。
ボロボロな私をそっと優しく抱きかかえたその主は、私の好きな、大好きな人だった。
「お兄様……」
「ごめん、遅くなった。トワ、一緒に逃げよう」
「なんで? 死んだはずじゃ……」
「偽装した。次に狙われるのはトワだと思ったからね」
フィリスお兄様は私をお姫様抱っこするとそのまま処刑場を駆けだした。
「トワ、私とどこか遠くに逃げよう」
「でも、お兄様にはアンナ様が……」
「アンナには婚約破棄された」
その言葉と表情から、お兄様がアンナ様に婚約解消を申し出てアンナ様を守るために、向こうからの婚約破棄にしたのだと気づいた。
「わたし、わたしはお兄様が好きです……大好きなんです」
「ああ、もうお前を妹としては扱わない。私もお前を愛しているよ」
そうして重なった唇は、夕日の中に溶け込んでいった──
いかがだったでしょうか?
さすがに短すぎでしょうか?
ご感想など待っております!