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魔導大戦~Abyss Contract~  作者: 如月 翔
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第5話「悪夢」

 

俺が異世界にきて、一年が経とうとしていた。

思えばあっという間だ。

覚えなくてはいけない事が多く、必死になっていたからだろうか。

頭の回転は速いほうだと思っているし、勉強も嫌いではない。

色々覚えるのは楽しいと感じた。


それに、俺はここでの暮らしが結構気に入っている。

会社に行く必要もない。

そして、ここの皆が大好きだ。


エレナに魔法の指導を受け、才能がないと言われ、それをハロルドに伝えられた。

最初は、もしかしたら追い出されるかもしれない、そう思った。

しかしハロルドはこう言った。


「もうアレンは家族みたいなものだ。助けられたかどうかの真実はどうだっていい。私だけではない。皆そう思っているはずだ」


もう、まじで泣いたよ。

ハロルドの器の大きさは東京ドームより大きいかもしれない。

俺はあんたに一生ついてきやす。


ハロルドだけでない。

エマ、コレット、他の使用人、もちろんエレナにだって感謝してる。

俺に魔術の才能がないと分かった後、エレナの態度も多少ましになった。

今俺が生きていられるのは、皆のおかげだな。


そして、元の世界に戻る手掛かりはというと、一切なし。

しかし、焦りはあまりなかった。


セレンディア領は、魔族がある領地と真逆。

領の周りで魔族の襲撃を受ける可能性はかなり低い。

だが、遠出に危険は付き物だ。

それに危険は魔族だけではないしな。


それゆえに、今の行動範囲はほとんど領内といってもいいだろう。

その範囲で集まる情報にも限りがある。

ゆっくりと時間をかけて行えばいいと考えていた。



今日はエレナと隣の領まで行っていた。

今はその帰りだ。

隣といっても馬車で片道2時間はかかるが。

護衛には、腕の立つ者が3名。

前みたいに、レッドウルフに襲われたとしても、軽く撃退できるぐらいの人たちらしい。

 

午前から屋敷を出たが、すでに日が傾きはじめている。


「エレナお嬢様。少し冷えてきましたね。毛布使いますか?」


「え、ええ。ありがとう」


屋敷まであと一時間というとこだろうか。

エレナは時間を気にしている。

そして今日一日なんだかよそよそしい。


それもそのはず。

セレンディア家に来て、今日でちょうど一年。

ちゃんとした誕生日がわからないため、一年目の今日を誕生日ということにして、誕生会があるらしい。

しかもサプライズで。

エレナはもう準備が終わっているか、気にしてくれているのだろう。


なんで俺がそのことを知っているかというと、偶然他のメイドの話が聞こえてしまったからだ。

でも全部知っているなんて、絶対に言えない。

皆の好意を台無しにしてしまう。

だから今日一日、俺はエレナの付き添いで何も知らないということを貫いているのだ。


「早く帰って皆に会いたいですね」


「そ、そうね。でももう少しゆっくりでもいいんじゃないかしら」


「変な魔物に襲われたら嫌ですから、早く帰りましょ」


「それは…………そうだけど…………」


少し意地悪を言ってしまったか?


「知ってましたか?今日で僕がセレンディア家に来て一年ですよ」


「もちろんよ。それで?あんたはいつ出ていくのかしら?」


いつもの憎まれ口は健在だ。

それに今まで一度も名前を呼ばれたことがない。

いい加減名前で呼んで欲しいものだ。


「あはは。まぁ早く出て行かないと、迷惑ですからね。申し訳ありません」


「じょ、冗談よ!なに本気にしてるよ!」


お?

エレナの事だから本気で言ってるのかと思ったが、そうではないらしい。

これは意外だ。


「まぁ……退屈はしないし!もう少しだけ許すわ」


「これは寛大なお言葉。ありがとうございます、お嬢様」


「ふんっ」


エレナは少しだけ照れている。

案外可愛い所もあるな。


その後エレナはすぐにうとうとし始め、寝てしまった。

久しぶりの遠出で疲れたのだろう。

セレンディア領まで後一時間。

俺も少しだけ眠るとするか。












「お嬢様!!!!アレンさん!!!!起きてください!!!!」


馬車の外から、護衛の大きな声がした。

少しだけのつもりが、結構寝てしまったようだ。


「ん…………なによ…………騒いで」


「着いたのでしょうか?」


ふふふ。

知っているぞ。

恐らく馬車を降りたら、周りに皆がいて、おめでとーーー!!とかやってくれるだろ?

焦るな焦るな。

知らないふりだ。

そして、驚いたふりをしないとな。


にやけそうなのを我慢し、俺は馬車の外に降りた。

そして…………。




俺の目に飛び込んできたのは、火に包まれた町だった。


「お…………い…………なんだよあれ!!!!」


後から外に出てきたエレナは、口に手を当てて、声も出せずにいる。

これは悪夢か?


「なんであんな…………」


「わかりません。もしかしたら魔族が…………。一刻も早く向かわなければ!お嬢様、アレンさん乗ってください!」


「待ってください!あそこにエレナお嬢様も連れて行く気ですか?!」


今いる地点は町から馬車を飛ばして、10分くらいの位置にいる。

一緒に行くより、ここに置いていく方が遥かに安全だろう。


「確かにそうですね。護衛の二人をお嬢様と一緒に置いていきましょう」


俺と護衛の一人が町に戻ることにする。


「ね……ねぇ!!私も行くわ!!」


「ダメです。明らかに危険すぎます」


「でも皆んなが!!」


「エレナお嬢様」


そう言って、俺はエレナの手を握る。


「必ずみんな連れてきます。今日だけは僕のいう事聞いてください」


実際は、俺なんかが行くより、魔術が使えるエレナが言った方がよほど戦力になる。

だが、エレナが敵う相手かもわからない。

敵わなければ殺される。

だから連れて行くわけにはいかない。


泣きそうなエレナの顔を横目に、俺は馬車へ乗り込む。


「さぁ、急ぎましょう!!」


俺がそう言うと、馬車は勢いよく発進した。


「皆んな…………。どうか無事でいてくれよ」


馬車の車輪が外れそうな勢いで、飛ばして向かう。

一分一秒が長いとは、まさにこのことだろう。



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