第4話「セレンディア家ー2ー」
どうやらこの世界にも、四季があるらしい。
使用人としての仕事は、主にコレットとエレナに関する雑務。
あとは二人が外に外出するときの付き添いである。
後から聞いたが、コレットが18歳、エレナが16歳らしい。
エレナはそうでもないが、コレットは割と屋敷の外に出る。
貴族の長女として色々忙しいのだろう。
しかし、ゆっくり話ができるときは、親身に色々な事を教えてくれた。
怪しまれず、質問できるように記憶がないということにしておいて良かった。
春から夏にかけては、この世界について色々なことを学んだ。
簡単にこの世界のことをまとめると……。
・魔法がある。
・人族、亜人族、魔族がいること。
・そして、人族と亜人族が魔族と対立し、戦争をしていること。
この三点が特に重要な情報だ。
戦争は何百年も前からあり、落ち着いたり激化したりで、今は少し落ち着いているとのことだった。
人々は「魔導大戦」と呼んでいるらしい。
戦争をしているということは、よくあるラノベにある、勇者として召喚された可能性があること。
だがその場合は、どっかのお城に召喚されて、王様の前に連れていかれるのが王道だ。
だか、ここに来てから数か月経ったが誰かが迎えに来る気配もない。
もし今も召喚場所間違えて、探し回っているのだとしたら、なんとも間抜けな話だ。
多分可能性は低いだろう。
そんなことよりは、まず自分が置かれている状況の把握だ。
俺がいるのは、アイゼン王国という国の南東にある、セレンディア領。
国の端の方にあるが、小さくはない領だ。
町並みは、ヨーロッパ風といったところか?
現代な感じはなく、俺から見たら風情があっていい。
屋敷はそのほぼ真ん中に位置している。
どうやらハロルドは町の人たちから、好かれていて信頼が厚いようだ。
コレットとエレナについてだが…………。
コレットは俺が助けたということもあり、時折好意のような態度も見受けられる。
だからといって俺は、自分にGOサインを出す馬鹿でもない。
相手は自分が使えているお嬢様だ。
なにより、コレットは素が優しい。
何も知らなかったこの世界で、色々知れたこと、楽しく暮らせているのはコレットのおかげでもある。
コレットだけではなく、セレンディア家にも感謝しなくては。
エレナはというと…………。
やはり嫌われている。
最小限の会話しかしてくれない。
というか、やはり避けられている。
何かした覚えはこれっぽっちもないが、こちらは打開策がないままだ。
せめて今よりは酷くならないようにしないとな。
秋から冬にかけて、今度は魔術の事を学んだ。
なんと先生は、今まで俺を避けていたエレナだった。
まぁでも、自分から名乗り出たわけではないが。
エレナは魔術の才能があるらしい。
「ねぇ…………聞いてるの?」
「はい。お嬢様」
正直半分意識がとんでいた。
だって難しいんだもん。
「はぁ…………ちゃんと聞きなさいよね。もう一回説明するわよ」
呆れた顔でエレナは続けた。
「魔術には、初級・中級・上級・超級・神級があるわ。その階級に、属性が付属する。ち・な・み・に私は16歳だけど上級魔法も扱えるわ!」
ドヤ顔エレナ様。
しかもチラッとこっち見たし。
ここはめっちゃ褒めなくてわ。
「す、すごいですよお嬢様!」
「当たり前よ!」
ちょっと褒められて嬉しそうだ。
案外可愛いじゃないか。
「そしてその属性だけど、火・土・水・風・雷・闇・光・守護の8種類あるわ」
エマも守護魔法が得意らしいが、エレナもそうだ。
守護は、回復や防御など味方を守る術。
エレナは守護が得意というだけで、他の属性もかなりあつかえる。
その為、俺の魔術の勉強に付き合う羽目になったということだ。
そして魔術には詠唱が不可欠である。
詠唱には四段階あり、魔術の起動語・属性選択・対象の選択・発動がそれにあたる。
簡単な火属性魔術も見せてもらった。
・魔術の起動語
「告げる。世界の理よ、我を導き給え」
これは、誰がどんな魔術を使うにしても共通の言葉。
ちなみに魔族とヒューマン・亜人はここが違う。
魔族の場合「告げる。精霊の加護よ。我に力を授け給え」らしい。
・属性の選択
「求めるは火炎」
ここでどんな属性なのか提唱する。
・対象の選択
「我を阻むものを燃やせ」
この段階で標的を決める。
・発動
「炎の球」
ここで名前は叫ぶことによって、術が発動する。
初級の簡単な魔術はこのプロセスで発動するみたいだ。
強い魔術になればなるほど、詠唱が難しいものになったり、時には魔法陣も必要になるみたいだ。
ちなみに、無詠唱なんてのもあるが、それは魔術を極めた超上級者の技らしい。
並みの魔術師ができるものではないとのことだ。
いざ、俺の実践はというと、思い出したくもない。
~~~~
「じゃあ、教えた通りやってみて」
「わかりました」
俺は両手に意識を集中する。
「告げる。世界の理よ、我を導き給え」
本来だったらそこで、体の中の魔力が腕から手へ流れるところだが…………。
俺は何も起きない。
それは何度やっても同じだった。
「エレナお嬢様…………。これであってるんでしょうか?」
「とにかく最後まで詠唱してみなさいよ」
エレナが少し笑いをこらえているのは気のせいだろうか?
俺は火の魔術、一番初級の炎の球の詠唱を最初から最後まで唱える。
しかし、結果は同じ。
何も起きない。
念のため、魔族の起動語も使ってみた。
だが手に魔力が集まる感覚もない。
その瞬間、エレナに鼻で笑われた。
「あなた、才能ないわ」
そして、突き刺さる言葉。
「え?僕って才能ないんですか?」
「ええ。ないわ。炎を具現化して出すには、もちろん練習が必要よ。でも最初の起動語で手に魔力が流すことなんて誰にでもできるもの。それができないっていうのは、魔術を流す道、回路のようなものがないということよ。それがなければ、魔術なんていくら練習しても使えないわ」
エレナは散々教えてあげたのにと、呆れた顔をしていた。
「レッドウルフを倒したと聞いたけど、これじゃ何かの間違いね。誰かが見えないところで魔術を使ったとかね。お父様たちには、そう言っておくわ」
えええ。
せっかくの異世界なのに。
異世界なら誰しも、魔法とかに憧れるのに。
いやいや、そうじゃなくて…………。
本当にそうなら、ここに置いてもらえなくなるかもしれない。
「まぁ元気出しなさい。あんたみたいな才能がない人、たまーーーーにいるから」
そうですか。
たまーーーーにですね。
「エレナお嬢様。なんとかならないのでしょうか?」
エレナが馬鹿にしだしてるのは分かっているのだが、ダメ元だ。
「そんなの知らないわ。才能がない人の才能を引き出すなんて習ってないもの。あー、心配して損した!」
そういうと、エレナは屋敷の中に戻っていってしまった。
めちゃめちゃ馬鹿にされた。
心配して損したということは、やはり俺の魔術に嫉妬でもしてたのだろう。
そこは可愛いとこなのだが…………。
くそーー!!
~~~~
俺はエレナにめちゃくちゃ馬鹿にされた挙句、赤っ恥をかいたのだ。