第3話「セレンディア家ー1ー」
話もまとまって、落ち着いた。
部屋の鏡を見て、自分の姿に驚いた。
俺の髪は根本から毛先まで綺麗な白髪になっていた。
あとは、顔。
前の顔とちがう。
少し若くなったか?
最初見た時はびっくりしたのが、よく見るとイケメンだ。
なんかクールでナイスガイな感じ?
ありがとうございます神様。
そしてこれから、ハロルドたちの娘と顔合わせである。
「こちらでお待ちください」
メイドに応接室のような場所に案内された。
それにしても、綺麗な屋敷だ。
貴族は皆、こんないい家に住んでるのか?
「あまり緊張なさらずに、ゆったりとして頂いて大丈夫ですよ」
どんな人が来るのか、どういう挨拶をすればいいのかわからない。
そわそわしていたらメイドにクスッと笑われた。
「あ、ありがとうございます」
「私共に敬語は不要でございます」
「え、でも使用人として先輩ですし、あなたの方こそ俺に……いえ、僕に敬語はいらないかと」
「そういえばまだ名乗っていませんでしたね」
そう言うと、メイドはキリっと立ち直し、優雅なお辞儀を見せた。
「私はこのセレンディア家に仕えるルディアと申します。先程、旦那様が申し上げた通り、使用人というのは建前でございます。ましてや、旦那様方の命を助けられた方。私共も、アレン様に敬意を表す必要があります。ですので、アレン様はあまり立場を気になさらずとも大丈夫でございます」
そうはいっては、いきなり偉そうにできるほど、俺の神経は太くない。
「いやでも、俺もこれからお世話になるわけで。最低限の礼儀は必要かと……」
「アレン様がそうおっしゃるのであれば」
ルディアは一礼をした。
一つ一つの動作に品があり、メイドというに相応しい振舞である。
気にするなとは言われたが、俺もそうならないとなぁ。
「そういえば、ルディアさんって少し耳が長いですよね?」
「はい。私は魔族とヒューマンのハーフでございます」
さっき会話で出てきたが、やはり魔族というのは存在するのか。
詳しく聞こうとしたが、扉の向こうから声が聞こえてきた。
「お嬢様方がお見えになったようですね」
ルディアが部屋の扉を開ける。
中に入ってきたのは、どちらも美しい女性だった。
「アレン様。こちらが長女のコレット様と次女のエレナ様でございます」
メイドに紹介され、俺は立って向かい合う。
「お初にお目にかかります。コレット・ルミアス・セレンディアと申します」
長女のコレットは、母のエマ同じブロンドの髪をしている。
今の俺がだいたい20歳ぐらいか?
それと同年代ぐらいだろうか。
優しそうな印象だ。
「……エレナです」
一方妹の方は、父のハロルドと同じ赤髪。
歳は、2~3歳くらい若そうだ。
こちらはなんというか…………不愛想というか、性格がきつそうというか。
まぁ、姉妹揃って美人なのは変わりないのだが。
「アレンといいます。色々あってここで、お世話になることになりました」
「アレンさん。私もあなたに助けていただきました。心から感謝申し上げます」
コレットも魔物に殺されそうになっていた一人だ。
「そうみたいですね。でも、実はなにも覚えていなくて」
「父から聞きました。お辛いですね。ですが、歳が近そうな方が来てくれて私たちも嬉しいですわ。仲良くしてくださいね。」
コレットは優しい笑顔を見せてくれた。
ああ、天使だ。
「こちらこそよろしくお願いします」
「ほら、エレナ?あなたもちゃんと挨拶しなさい?」
「あなた………魔術は使えるのよね?」
エレナはぎらついた目で俺に問いかけてきた。
俺が魔術を使って、レッドウルフを倒したというのは聞いたが…………。
覚えてないしなぁ。
「なによ。隠したいことでもあるの?」
なんて答えたらいいものか悩んでいると、余計に怪しまれているようだった。
「こら、エレナ?今はそんなこといいでしょ?」
「良くないわ、お姉様。…………答えて」
なぜここまで執拗に聞いてくるかはわからないが、正直に答えたほうがいいだろ。
「さっき答えた通り、本当に何も覚えてないんです。術を使ったっていうのも。自分がどういう術を使えるかっていうのもです。嘘でないと誓います」
俺がそう答えると、数秒の間、きつい目で睨まれたがどうやら信じてはくれたようだ。
「…………まぁ、よろしく」
短くそういうと、ふんっという態度で部屋を出て行ってしまった。
あれ?
やっぱりなんか俺嫌われてない?
なんで?
「ごめんなさい。エレナは人見知りなんです。あとすごい魔術を使ったっていうあなたにもしかしたら嫉妬したのかもしれませんね」
「いえ、大丈夫です。いきなり知らないやつが転がりこんできたのだから、無理もないでしょう」
「そう言っていただけると有難いですわ」
コレットは妹の態度に、少々苦笑いを浮かべていたのだが…………。
それだけではなく、なんか避けられているような感じがした。
まぁ少しずつ仲良くなればいいだろう。
こうして使用人としての生活がはじまった。