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魔導大戦~Abyss Contract~  作者: 如月 翔
3/7

第2話「もしかして異世界?」

俺は目覚めるとベッドの中にいた。


「…………ここは?」


体がだるい。 

周りを見渡すと、そこは見覚えがない部屋だった。

気品のある洋風な部屋だ。

服も着替えさせられていた。

部屋の扉が開き中に誰かが入ってくる。


メイドさんだ。

え?

コスプレ?

めっちゃしっかり作りこまれてるじゃん。


「εΣ§Й♯φηνζджЧ」


メイドは、訳のわからない言葉を言いながらまた外に出て行った。


「え?なに?メイドで外国人?」


今の状況が理解できない。

というより、森の中で目が覚めてからというもの、全てが理解できない。

メイドが部屋を出て行ってから、少し経つと何人かの足音が部屋に近づいてきた。

そして、中に入ってきたのはさっきのメイドと、中年の男と女だった。


「φηνж§Й♯Чηνζд§Й♯」


中年の男は、俺に話しかけてくるがまたしても言葉が理解できない。

ぱっと聞いた感じ英語ではなさそうだ。

何を言っているかさっぱりわからん。


言葉が理解できず、困惑してる俺を見て、目の前の三人は心配そうな顔を浮かべていた。




…………ドクン。




まただ。

何かが俺の中で脈を打つ感覚。


「…………ぐぁ……」


激しい頭痛に襲われる。

今回は全身に痛みを伴うことはなかったが、視界はまた黒く歪んだ。


「φηνжじょうぶか?」


あれ?

今一瞬男が話している言葉が理解できたような……。

また気を失うのかと思ったが、頭痛と視界の歪みはすぐに消えていった。


「おい……平気か?……」

 

意味が分かる。

男が話しているのは、日本語ではない。

だが、何故か急に理解できるようになった。


「……はい、大丈夫です」


なんと、自分自身も喋ることができた。

一体どうしてだ。

昔から話してきた言葉のように、完全に言葉を理解している。

こんなことあり得るのだろうか?

さっき体に起きた異変が関係しているのか?


「そうか。言葉がもしかしたら分かっていないのかと思ったよ。もしかしたら、魔族なのかと」


…………魔族?

何を言ってんだこの人は。


「どちらにしろ、私たちは君に助けられた。君がいなかったら私たちは死んでいただろう」


「…………俺が何かしたんですか?それよりもここは?」


「ん。覚えていないのか。ここはセレンディア領だ。俺はハロルド・ルミアス・セレンディア。ここの領主だ。こちらは私の妻、エマだ」


そういうと、隣の気品のある女性は、優雅なお辞儀をした。


「エマと申します。貴方様のおかげで、私たちは命を助けられました。感謝いたしますわ」



「ちょ、ちょっと待ってください。俺には何が何だか。セレンディア領ってどこの国ですか?」


「アイゼン王国の南東だ。地理がわからないということは、エストニアかユリアの方か?」


え?

ごめん、全部知らない。

確実に外国じゃんここ。


「服も珍しい見慣れない服を着ていた。大きな怪我はなかったようだが、血に染まっていたから、着替えさせてもらったよ」


「えっと、すみません。俺日本人なんですが」


日本という単語を出すと、目の前の三人は不思議そうに顔を見合わせた。


「その()()()……というのは、どこの国の領だ?初めて聞いたが」


なんかだんだん嫌な予感がしてきた。

目を覚ました森の見慣れない植物、最後に見た大きな獣、知らないはずの言葉・地名。

異世界?

いや、ありえん。

そんなファンタジー小説みたいなこと、絶対にありえん。

頭が痛くなってきた。

まぁ痛いのは起きてからずっとだが、さらにだ。

俺はおでこに手を当てて、少し考える。


「まだ体調は良くないのか?」


「ええ、まぁ少し」


植物も大きな獣も、俺が知らないものの可能性だってある。

言葉と地名にしてもだ。

言葉がいきなり理解できたのだけは、説明がつかないが。

でも…………後ろのメイドなんか耳長くね?


考えてる俺に、エマが近寄ってくる。


「ここに連れてきたとき、一度治癒魔法はかけましたが、念のためもう一度かけておきましょう」


ん?

そういうのを真顔で言っていいのは、子供だけですよ、マダム。


エマは、俺の頭に手をかざす。

そしてエマは目を閉じた。

その手のひらに、吸い込まれるような、力が集まるような感じがする。


「告げる。世界の理よ、我を導き給え。求めるは守護。彼の者の傷と痛みを癒し給え。癒しの光(ヒーリング)!」


エマが呪文のようなものを唱えてる最中から、手のひらに光が集まりはじめていた。

#癒しの光__ヒーリング__#と言い放つと、俺の体は緑色の光に包まれていた。

その光は心地よくて、温かい。


光が収まると、さっきまであった体のだるさ、頭痛がなくなっていた。


「えっ…………え?」


考えがもう言葉にならない。


「どうでしょうか?少しは楽になりましたか?」


「ええ。それはいいんですが。い、今のって?」


「ん?癒しの光(ヒーリング)ですよ?もしかして、かけてもらうのは初めてでしたか?」


もうこの人、当たり前かのように言うし。

ほぼ確定だが、最終確認だ。

腹を括ろう。


「あの……この世界って、()()とか使えたりするんですか?」


それを聞くと、ハロルドは大きく笑った。


「面白いことをいうなぁ!そりゃそうだろ。魔術が使えない地域とかあるのか?」


はい、確定です。

早く孫の顔を見せてと言っていた、お父さん、お母さん。

異世界に行きたいと思ってる、アニメ好きの皆さん。

そして優理。

ごめんなさい。

俺は異世界に来てしまいました。


「君だって、俺たちを助けてくれたじゃないか」


 だからそんなの知らないんだってば!!!!


「命の恩人に、君というのも失礼だな。名前は何と言うんだ?」


まずい。

こっちの世界の人たちにとって、俺の名前って絶対変だよな。

最悪怪しまれることだってあるかもしれん。

でも、名前なんて思いつかないよ!


自分の名前を答えられない俺に、沈黙とハロルドたちの視線が突き刺さる。


「…………すみません…………何も思い出せなくて」


とっさに出た言葉がそれだった。


「なんと…………もしかして、倒れた時頭でも打ってしまったのか?」


ああそうだ。

そういうことにしておいてくれ。


「レッドウルフに襲われていた時の事は覚えているか?」


レッドウルフ?

あの、大きなオオカミの様な獣の事か?

まぁもうめんどくさい。

いっそ全部覚えていないことにしよう、そうしよう。


「いえ、全く」


「君はレッドウルフに囲まれていた私たちを助けた。一応護衛の魔術師を一人雇っていたのだが、レッドウルフは強く凶暴だ。あんなところに出るなんて……。攻撃魔法も効かなかった。しかし、君はなんらかの魔術を使って、やつらは消し飛んだ。あんな魔法見たこともない。結果、私とエマ、ここにはいないが二人いる娘の一人と護衛は命を助けられた。改めて礼を言う。感謝する」


そういうと、再び目の前の三人は俺に頭を下げた。


「そんな、頭を上げてください。助けられたのはこちらも一緒です」


今度はエマが質問してきた。


「先程、魔術が使えるのかとおっしゃっていましたが、魔術も覚えていないのでしょうか?いったいどの辺りまで覚えていますか?」


「…………分かるのは、本当に言葉くらいで。その他はなにも」


全部わからない事にした方が、都合がいい。

本当にこの世界について何も知らないわけだから、その方がなんでも聞けるし、教えてもらえる。


「事情は分かりました。あなた?記憶が戻るまで、この方をセレンディア家で保護して差し上げましょう?」


「うん、そうだな。助けられた礼はしっかりと返さねばなるまい」


かなり有難い話だ。

正直、俺一人でやっていける自信などない。

それにここを拠点として、情報を集められる。

もしかしたら、元の世界に戻る方法とか、優理の情報も掴めるかもしれない。

ここで、出来るだけ情報を集めよう。


「名前だが、アレンでどうだ?思い出すまでで構わないさ。名前がないと不便だろ?」


「アレン。はい、それでお願いします」


「養子というのもあるが、貴族の世界はなかなか面倒でな。記憶が戻るまで、使用人という名目で、娘たちの世話係でもお願いしていいかな?同世代と接する機会はあまりない。君がいると娘たちも喜ぶだろう」



こうして俺の、異世界でも生活がはじまった。

一見すると、順調な滑り出し。



だが、この場所が過酷な運命のはじまりだと知るのは、まだ先の事である。




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