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魔導大戦~Abyss Contract~  作者: 如月 翔
2/7

第1話「転生」

「…………うぅ…………」


俺は寝ていたのか?

酷く頭が痛い。

気分も相当悪い。

油断したら吐いてしまいそうだ。

目を開けてみたが、視界がかなりぼやけている。


手のひらには土の冷たい感覚があった。

どうやら俺は地面に倒れていたようだ。


「どこだ…………ここは」


一度深く深呼吸をする。

少しずつぼやけた視界が鮮明になっていく。

周りを見渡すと、木々が生い茂っていた。

…………森の中?


なんで俺はこんな場所にいる?

思い出せない。

確か仕事が終わってから、優理にケーキを帰って家に帰ったはずだった。

だがその先が思い出せない。

第一、俺の住んでいたところは都心だ。

周りにこんな森はなかった。


立ち上がるが、気分が悪いのは変わらない。

かなり酷い風邪をひいた時みたいだ。


「うわっ!なんだよこれ!」


俺は着ているワイシャツを見た瞬間驚いた。

所々切り裂かれたような穴が開き、しかも全体的に真っ赤だ。

血?

いや、しかし気分は最悪だが、幸いどこも怪我をしているようには感じない。


俺は何かの事件に巻き込まれたのか?

そして何者かに連れ去られた。

しかも相当遠い場所に。

この赤く染まったワイシャツが全部血なのだとしたら、他に誰か大怪我をしているに違いない。


ふらつく体に鞭を打ち、周囲を調べてみるが、周りにあるのは木と変な植物。

耳を澄ませてみるが、車の音もしない。

人の通るような道も見当たらない。


「おいおい…………まさか富士の樹海じゃないだろうなここ」


もしも、富士の樹海の中に置き去りにされているのだとしたら…………

考えただけでもゾッとした。

遭難した時の対処法なんて、全く知らないし、サバイバル術なんてもってのほかだ。

サバイバルといえば、幼虫や虫を食べるというのは当たり前。

貴重なタンパク源らしいからな。

でも、俺には絶対無理。

これを食べなくては死ぬと言われても、食べれなそうな気がする。


今は太陽が高く昇っている。

恐らく昼過ぎぐらいだろうか?

しかし、ぐずぐずしていたら時間なんてあっという間だ。


富士の樹海と言えば、自殺する人もいると良く聞く。

そんなところに、夜一人なんて絶対に嫌だ。


しかし、そこで気になるのは変な植物だ。

明らかに毒を持っていそうな、色鮮やかな見た目のものや、食虫植物のような見た目のもの。

他にも、俺が今まで見たことがないような植物を、いくつも見つけた。

富士の樹海に言ったことはないが、こんなもの日本に生えているのだろうか?


「クソッ!!なんなんだよ一体!!」


いきなりの訳が分からない状況。

周りは森で、しかも得体の知れない、変な植物もたくさん生えている。

誰もいない。

助けてももらえない。

 

寂しさ、不安、恐怖で俺はどうにかなってしまいそうだ。

こんな時に、優理がいてくれれば慌てずにいれたのかもしれないが…………。

そのふと頭によぎった考えは、俺を余計焦らせることになった。


そうだ…………。

優理は?

彼女は大丈夫なのか?

いきなりの事で、自分の事しか頭になかった。

この服についた血が優理のものだとしたら…………。

もし優理も連れてこられているのだとしたら、一刻も早く見つけなければ。


「優理ーーーー!!…………優理ーーーー!!」


俺の呼び声に、返事が返ってくることはない。

ただ、森の中に声が吸い込まれていくだけ。

不安と寂しさでどうにかなってしまいそうだ。


その時俺の耳には別な音が届いた。


ドォォォン!!!!


大きな爆発音だ。

数百メートル先といったところだろうか。

もしかしたら、自分がこんな状況に置かれている原因がそこにあるかもしれない。

そして優理も。


俺は音のなったほうに、急いで向かった。

少し走ると、その先は開けており、道があった。


またしても聞こえる爆発音。

道に出て、音のなる方を見た時…………俺は驚愕した。


「な…………なんだよ、あれ」


視線の先には、大きな獣の様な生き物がいる。

しかも一匹ではなく、三匹もいる。

人間より三倍以上はでかいだろうか。

オオカミの様な外見だが、あんなに大きなオオカミなど見たことも聞いたこともない。


その三匹の獣が囲っている先を見ると、人がいた。

四人いる。

まずい。

このままでは、確実にあの人たちは、この得体の知れない獣たちの餌になるだろう。


しかし、丸腰の俺にできることはなんだ?

助けにいっても、俺も一緒に喰われるだけじゃないのか?

注意を引き付けて、逃げるだけ逃げてみることも考えたが、どう見ても逃げ切れるような相手に見えない。

それよりも、さっき爆発音があったし、彼らは何か武器を持っているのか?


足がすくむ状況に、どうするべきなのか動けずにいると、一匹の獣が俺に気づいた。

目が合う。

その目は殺意むき出しで、完全に相手を殺そうとする目だ。

一匹に続き、他の二匹も俺の方をみる。


獣に囲まれているうちの一人が、俺に向かって何かを叫んだ。

日本語じゃない。

何を喋っているのか分からない。

しかし、どっちにしろ気づかれてしまったらもう遅い。

逃げ切れるはずがない。


俺は直感で感じた。

()()、と。




…………ドクン!

死を感じた時、俺の中で何かが脈打つ感覚があった。


(…………貴様…………が…………か?)


なんだ?

俺に話しかけているのか?

頭の中から声がしている感じだ。


(…………力……かし…………やろう)


その瞬間、また俺の中で何かがさらに大きく脈を打った。

感じたことの無い、変な感覚が俺の体をめぐる。


(…………ぐぁぁぁあ…………)


体中に痛みが走り、俺はうめき声をあげて、膝をついた。

視界が黒く染まっていく。


(クソッ…………なんだこれ…………)


痛い。

苦しい。

まともに立っていることすらできない。


顔を上げると、獣が俺を獲物として定め、間合いをつめてこようとしているとこだ。

でも何故だろうか。

さっきまでの恐怖が今はない。

何故か今、俺の心の中を支配しているのは、()()()というものだ。

よく漫画で見ることがある、力が湧いてくるというような感覚だ。

自分を中心に黒い、禍々しい波動が出る。


「お前ら…………まとめて殺してやるよ」


何故そんな言葉が出たのかわからない。

だが既に、敵の命を掌握したような気分だ。

殺す。

きっと容易いだろう。


しかし、放った言葉とは裏腹に、視界がほとんど黒に染まり、意識も遠くなっていく。

そして俺は気を失った。

 

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