過去と未来
「しっかしなぁ」と、金色で短髪の男性は長ったらしい溜息を吐き捨てた。
「どうした? ザック。珍しいじゃないか、お前が乗り気じゃないだなんて」
「だってよ? 旦那。召喚士なんざ本当に居るのか?俺はおとぎ話でしか聞いたことねぇぜ?」
「まあそれに関しちゃ私も見たことはないわ。アイル=ルルイエ……聖女とも言われているらしいけれど、どんな人なのかしら」
「だろ? レーゲンもないよな?」
確かに召喚士なんて伝説級の存在だ。
「だからこそ、存在したのなら心強い戦力になる可能性だって」
「あったってだけよ。聞いたでしょ? 生き延びた行商人から」
「峡谷全体が崩落したってことだろ」
つまりそれは、峡谷に居たもの全てが死んだと言っても過言ではない。
「なら、峡谷の先にある街・マグルスに行くのも中止だ。あまりにも目的に対しての時間と言う代償が大き過ぎる」
「その通りね。召喚士の事は残念だけれど、考え方を変えたなら崩落以降何も連絡がないって事は、つまりそういう事でしょ」
逃れることも出来ない。あるいは、召喚獣を使い打開もしていない。この事から、大して強くはない。もしくは、存在しない結局伝説上の人だと言いたいのだろう。
「ならどうするよ、この先」と、ザックは獅子の肉を片手で回しながら言った。
「アルダート神殿へ向かう」
「アルダートって、ちょっ!あそこにゃあ堕天使が」
「そうだ。俺達はまず、あの堕天使を討伐する」
「まってよ、シュバリエ。確かに堕天使討伐は、魔王討伐と同等の意味はあるけれど……今の私達に勝てるの?」
ザックやレーゲンの不安そうに見つめる瞳を、カルナは力強く、そして自信に溢れた視線を送り答えた。
「ある」
堕天使──地に堕ちたとはいえ、天界の血を持つ者。故に神の子である人が 傷を付けることは万に一つと有り得ないし、成し得ない。
だが、神からの啓示、つまりは神託を授かる事のできるカルナには秘策があった。
「これで、やつの心臓を貫く」
右手をかざせば、極光たる粒子が集まり形を成していく。
「なあ、旦那。これは……槍、なのか?」
ザックは朱、一色に染る一筋の槍を見て驚きを隠せていない様子だ。レーゲンはどちらかと言えば怯えている、そんな感じだろうか。
「そうだ」
しかし、ザックやレーゲンの気持ちも分からないでもなかった。微細な彫刻が施された槍は、威厳に充ち神秘的だと言わざるを得ない。が、逆に人の本能へ畏怖を植え付けるだけの禍々しさも備わっていた。
こんな物を目の前に、平然としてられる人間がどれぐらいいるのだろうか。
「すげぇな。ヒシヒシと凄まじさが伝わってくるぜ。魔槍なのか?」
「いいや違う。これは神装」
「しん、そう?」
「ああ。その名も神殺しの槍」
「だが、この槍だからって堕天使を」
「神殺しの槍には一つ機能が備わってるんだ」
「機能、だって?」
食い入るように見つめるザックの横でレーゲンは生唾をゴクリと飲み込んだ。
「俺達は天使を殺せない。そして時間も天使達を殺せない」
「だよな?だから実質、奴らは不老不死。自ら死を望まない限り──」
「もしかして、シュバリエ。貴方が持つその槍が備えてる機能って」
「そのまさかだよ、レーゲン。この槍で心臓を貫かれた天界の者は自ら死を望む。つまり自害するんだ」
「なんかよくわかんねぇけど、すげえじゃねえかよ!!これなら堕天使なんか楽勝じゃんか!」
立ち上がり闘志を燃やすザックを見上げ、カルナもまた勝気の笑を浮かべる。
「ああ。勝てる。俺達なら絶対にな」
「どうやら話は纏まったようね」
「おうよ!旦那、行こうぜ?堕天使狩りによ!!」