人間不信
ちょっと短くてごめんなさいm(_ _;)m
「さて、お腹を満たして一段落ついたことだしさ。そろそろ何があったか教えてくれないかな?」
ゲインがパンをお腹に入れると、少女がそう切り出してきた。
「…悪いが、それは言いたくない。いくらお前が見ず知らずの相手にパンを恵んでくれるほどいいやつだったとしても、迂闊に誰かに喋ればどうなるかわかったもんじゃない」
しかしゲインは、彼女の要求をきっぱりと断った。理由は2つ。1つ目は、今リスに話した通り、迂闊に口を滑らせたらマズいため。2つ目は…
(あんな事があったってのに、そうそう誰かを信用できるかよ)
裏切られたくないから。
つまりゲインは今、人間不信に陥っていた。なにせ、一番信用していた仲間達や婚約者にまで裏切られたのだ。ヒトの醜い部分を知ってしまったのだ。そして、ゲインはもともと誰かを傷付けることさえ躊躇うような、心優しい人間だった。それこそ、敵対していた魔王の仲間にさえ『殺したくない』と感じ、戦いの後はいつも一人で涙を流してしまうほどに。故に、そこまでして手に入れたかった平和がまやかしだったと知った今、彼の信じられるものは自分自身ぐらいしかなかった。
「パンをくれたことには感謝してる。でも、お前もこれ以上俺に関わらない方がいい。俺のことは忘れてどっかに行ってくれ」
「…そっか」
意外にもリスはすぐに引き下がった。
「たださ、せめてキミの名前くらいは教えてよ。一方的に私が教えるだけじゃ納得できないっていうか…ダメ?」
上目遣いに尋ねてくるリスを見たゲインは、その態度の裏に何か別な意図が隠れているのではないかと疑ったが、確かに相手にだけ話させるのも失礼かと思い直す。
「…ゲインだ。これで満足か、リス?」
「うん!ゲインっていうんだね!遅くなったけどよろしくね!」
「はいはいよろしく。じゃあ約束通りどっかに―――」
言い切る前に、リスが自分から動いた。
「わかってるって。じゃあまたね、ゲイン!」
(早速呼び捨てかよ…)
リスが去った後にゲインは思った。
まるで嵐のように騒がしく、しかし同時に太陽のように明るく暖かい少女だったと。
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