名前とパン
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僕はちょっと、いやかなり抜けてるDKなので、是非ともご協力をお願いします。
「…近づいてこないでくれ」
「私、何か君に悪いことしたかな?」
心底不思議そうに首をかしげる修道女。
「名前が気に入らん。嫌な奴を思い出すんだ。だからどっかに行ってくれ」
包み隠す必要もないと考えたゲインは思ったままを口にする。
「…それひどくない?存在を全否定されたような気分なんだけど」
そんなゲインの態度に対して、『シーリス』はじと〜っとした視線を向けるにとどまった。
「随分、他人に寛容なんだな。罵声の一つも浴びせられると思っていたが」
「そりゃあ聖女なんて言われてるのに、性格が狭量な人間じゃやっていけないでしょ。それにまぁ、『シーリス』って名前も私が聖女になった時に教会がつけた名前で、本来の私の名前は別にあるから問題ないの」
なるほどもっともな意見が返ってきた。
「それよりさ〜、せめてそのつれない態度くらいはなおしてよ。別に呼び方ぐらいなら何とでも呼んでくれていいから―――」
「じゃあ女」
「―――って即答!?しかもそれ私じゃなくても女だよね!?」
少女は大きく頬を膨らませながら拒否の意を示す。どうやらこの聖女はツッコミもうまいらしかった。
「なんとでもって言ったのはそっちだろ…」
「ぐぬぬ…反論できないのが悔しい…。でもいくらなんでもその呼び方は勘弁して!」
「じゃあ…」
ゲインは考え込む。できるだけ呼びやすくて、なおかつあの女を思い出さないような呼び方は…
「じゃあ、リス」
「今度はなんで動物なの!?」
「後ろの2文字を取った。あと、さっき文句を言った時のお前がどんぐり頬張ってるリスみたいだったから」
"リス"は再び顔に二つの風船をつくるが、やがて諦めたようにため息をついた。
「はぁ〜。じゃあもうそれでいいや。…それで、改めて聞くけど、何かあったの?さっきまでホントにひどい表情だったんだよ?」
"リス"に言われて、ゲインはある事実に気が付いた。
(俺、今は普通な顔してた…?)
いつの間にかゲインは、裏切られる前ほどとはいかないまでも、小さく笑うくらいの表情ができていたのだ。"リス"にはそうさせるような何かがあったということだろうか…
またもや一人で考え込むゲイン。しかし、その思考は長くは続かなかった。なぜなら………グ〜と体のある部分が鳴いたからである。
「あはは、お腹へってたの?ほら、簡単なやつしかないけど」
そう言って"リス"は小さなパンを差し出した。どんぐりじゃないのか、とも思ったが、腹が減っていることに変わりはない。初対面の人間にここまで施しを受けたくはなかったが…
「…パンに罪はないからな」
ありがたくいただくことにした。
久々の食事は小さいのになんだかとても暖かかった。
二人目のシーリスはリスになりました。