さらなる絶望
暗い話なのはご容赦を。
あれからゲインは残った魔力を使いきるつもりで王都へ走った。
失った右足は魔力の義肢を作って補い、爆発の魔法を連発して加速。更に風の魔法で空気抵抗を減らすなど、持ちうる全ての方法を使って、行きに3日間かかった道のりをたったの1日で戻った。きっと国王ならなんとかしてくれると、そう信じて。
「国王に…お目通り、したい。至急、の要件…だ」
意外にもすんなり話は通り、すぐに謁見できることになった。
◇◇◇◇◇◇
「至急と聞いたが、何の用だ?」
「勇者と、そのパーティのこと…で、御座います…!」
途切れながらもゲインは必死に訴える。
「ふむ…そういえば今は魔王討伐に向かったと聞いていたが、なぜここにいる?まさか、全員敗れてお前だけ恥も知らずに逃げ帰ってきた、というわけではあるまいな」
そこから俺は、一時間近くもかけて説明した。勇者が魔王は倒したことから、その後自身が裏切られたことまで全て。だが―――
「…」
国王は顔色一つ変えなかった。いや、むしろ…
「そうかそうか。遂に勇者が」
むしろ嬉しそうに笑うのだ。国王ならきっと大丈夫、きっと話を聞いてくれると思っていた。そして、確かに話だけは聞いてくれた。だがこの笑顔は一体何だ…?
「遂に勇者がバラしおったか。騙されているとも知らずに勇者についていったお前が裏切られた時の顔くらいは見たかったものだ!」
え…?ウソ、だろ?
「ま、さか。国王陛下…あなたまで、アイツらとグルだったんですか…?」
「そうとも。いつ気づくのかと待っていたが、まさか最後まで気づかないとは思ってみなかったぞ!」
ガハハハ!と豪快に笑う国王に、ゲインは呆然とするしかなかった。だが、悲劇はそこで終わらない。
「裏切られた時のソイツの顔なら、ひどく滑稽でしたよ、国王陛下」
後ろから声がした。しかも、今一番聞きたくないやつの声が。
恐る恐る振り返ったゲインの視界に写ったのは、勇者と数名の人間だった。
「ッ!?」
足を消された時の恐怖が蘇る。無意識のうちにゲインの体は小刻みに震えていた。
「そうか。是非ともこの目で拝みたかったところだが、まぁ良しとしよう」
「いえいえ、諦めるのはまだ早いですよ陛下。もう一度、勇者のオレがこの場で再現してみせましよう」
まさか、今度は左足を消し飛ばすつもりなのか…?
ゲインは逃げたくとも、恐怖であしが竦んで立ち上がることもできなかった。しかし、そんなゲインの様子を見て勇者が放った一言は、予想外のものだった。
「そんなに怯えるなよ。別にお前をボコそうとか思ってないからさ。でも…もしかしたらお前にとってはこっちの方が効くかもな。それじゃ、入ってきてくれ」
勇者が誰かを呼んだ。そして、そこに現れたのは――――
「し、シーリス…?」
俺の婚約者、シーリスだった。
「ゲイン、くん…」
「な、なんで…?どうして、シーリスがここに…?」
シーリスは諦めたような顔でゲインを見ていた。
「ゲインくんは、私なんかどうでもいいんでしょう?」
「え…?ど、どういうこと…?」
混乱しているゲインには、こんな言葉しか返せなかった。
「だってゲインくんってば、魔王を倒すまではって言って、全然私を見てくれなかったじゃない。だから、私は勇者様についていくことにしたの」
「で、でも…!一緒に将来を誓いあったじゃないか…?」
藁にも縋る思いで紡いだ言葉は
「ごめんなさい」
いとも容易く切り捨てられた。
こんなのって、あんまりじゃないか。必死に命張って戦って、魔王を倒したら幸せに暮らそうって、そう思ってたのに。
なんでこんな結果になるんだ。俺が何をした。青春なんてかなぐり捨ててまで毎日毎日訓練して、それで、魔王を倒して平和を手に入れたかった、それだけなのに。
なんで俺だけが苦しめられるんだ。
ゲインからドス黒い力の奔流が吹き上がる。そして――
ゲインの視界は完全に黒に染まった。
少し胸糞悪い展開でしたがいかがだったでしょう…?
面白い、続きが読みたいと思ってくださったなら、評価などをお願いします!