優しい人
累計がPV12000になってました。ありがとうございます!
前話が短かった代わりに、今話はいつもよりは長い(ハズ)です。
「はッ!…はぁ…はぁ…ゆ、夢…?」
ゲインは飛び起きてから息を荒くしながらそう呟く。あの時の夢なんて、見ても心地良いものでもないのに、と疑問を抱きながら息を整える。
「大丈夫?かなりうなされてたよ?」
すぐ近くから声がして慌てて振り返ると、そこにはリスが心配そうにゲインを眺めていた。
「あ、あれぇ?俺、お前んちにきてそれから………」
だんだんと覚醒していくと同時にゲインの顔が赤く染まりだす。それはそうだろう。もう子どもとは言えなくなってきている年齢にも関わらず、歳も近いであろう少女に泣きついたばかりでなく、そのまま寝てしまっていたというのだから、羞恥で頭がパンクしそうなゲインの姿は至極当然ともいえる。まあ、それはそもそも相手が『知り合って間もない少女』なのに、そんな風に泣きつくか、と言われたら反論できないのだが。
「そ、その、なんというか…すまんかった…………」
気恥ずかしいのか、消え入りそうな声で謝罪をするゲイン。そんな様子にリスは
「気にしないで。辛いことがあったなら仕方ないよ。でも、君の苦悩を一緒に背負ってあげるためにも何があったのか、教えてくれる?」
ゲインはゆっくりと頷き、言葉を紡いでいった。誰にも理解されないような事の顛末を。魔王討伐という明るい話題の裏に隠された真実を。
◇◇◇◇◇◇
黙って最後まで聞いていたリスが小さく呟いた。
「そっか…あんなに王国のために尽くしていた魔法剣士ゲインが罪人扱いされた裏で、そんなことが……」
まるで譫言を呟いているようだったが、そんなリスが唐突に顔を上げ
「ゲインくん、君はどうしたい?自分を裏切ったこの国に復讐でもする?例えば、この王都を火の海に変えちゃうとか」
そんな過激発言を放った。
「おい、仮にも聖女がそんな発言して大丈夫かよ?それでも、確かに俺は復讐してやりたい。でも、俺が復讐するのは"王国に"じゃない。"国王や勇者共のような、あの件に関わった屑共に"だ」
「へ〜?それでいいの?」
「国民には非はない。俺を裏切ったのはあくまで一部の人間だけで、他のそんなことを知らない奴等は俺に何をしたというわけでもない。それに…」
「それに?」
「国民のために必死に戦って手に入れた平和を、自分の手でぶち壊してたら、戦った意味がなくなっちまうだろ?」
そう言ったゲインを見て、リスは驚いたような表情をみせる。
「やっぱり、君は優しいんだね。噂に聞いてた通り…いや、それ以上だったよ」
「噂に聞いてたって…どういうことだ?」
「王都警備隊の人から聞いたんだ。なんでも、『勇者達が王都を無視して親玉叩きに行ったのに、ひとり残って防衛戦の最前線で戦っていた』とか、『襲われて死にかけてた時に、その身を挺して庇ってくれた』って話してくれた人もいたよ。それから『いつも戦いが終わってから、たくさんの人を助けていたのに、《また、守れなかった》《救ってあげられなかった》って泣きながら一人一人の死体に花を添えていた』なんて話も聞いた。あとは『警備隊の資金が少ないのを知って――――』」
「もういい!恥ずかしいからやめてくれぇ!」
他人から聞かされる自分の様子もまた、ゲインの羞恥心を掻き立てた。結果、ゲインは再び赤面することになった。
「あひ、ごめんごめん。でも、ゲインくんにはちゃんと知っていて欲しかったから」
「…何を?」
「君のおかげで救われた人も大勢いるんだってこと」
その言葉を耳にした途端、また瞳から涙が流れそうになった。だが―――
「ま、それよりさ!魔法で誤魔化していてもバレる可能性が高いことは理解したよね?というわけで!変装用の衣服を買いに行こう!あ、でも今日はもう遅いかな…じゃあ明日!明日に行くよ!」
「……まったく、自分がつくったいい雰囲気を自分でぶち壊してどうすんだ」
「ゲインくんってよく見たらかなり顔立ち整ってるし、案外女装とかしても似合ったり?でもでもすっごくカッコよくっていうのも………ブツブツブツ」
自身の発言がまったくリスには届いていない様子なのに対し、苦笑いをするゲイン。こうして、まるであんな騒ぎがなかったかのような楽しい時間で今日は過ぎていった。
ちなみにゲインはこの日、リス宅の空き部屋に泊まらせてもらった。
次回はお買い物のつもりです。
よかったら評価をポチッとお願いします。