十二歳、夏至祭と波乱の夏 8
齢十四歳になるエイデンの妃の座を狙う女は後を絶たない。
王城で繰り広げられる夜会では数多の貴族の娘が日夜、ドレスを着飾り美貌を磨く。
それもこれも、良縁に巡り合うためだ。
それが権力があり気位の高い貴族の娘となれば、至極当然に未来の王である王子の花嫁を目指す。
娘が王妃になった暁には一族郎党までにその家の権力は増し、孫子の代まで栄えることが確約される。
よって、年頃の婚約者もいない王子の心を射止めるべく、娘の教育にどの家も余念がなく躍起になっているのだ。
無論、ミルフィーユの家だって例外ではない。
ミルフィーユ・メリリース。
父は有名貴族、メリリース家の当主であり、この国の宰相。
母の実家は王族の遠縁にあたる血縁者だ。
血筋、家柄ともに申し分のないミルフィーユは、類まれない光属性の魔力に加え美貌にまで恵まれた。
王妃になるべくして生まれたと言われて育ち、本人もそれを疑わない。
両親も一人娘の彼女を幼い頃から甘やかし、傲慢で我儘に育とうがお構いなしで、年頃になれば金と権力を駆使して王子の婚約者にねじ込めばいいと考えていた。
しかし、その夢は突如として打ち砕かれることとなる。
ミルフィーユが九歳の頃、聖女候補として魔石殿に下るように聖女からお達しがあった。
栄華を極めてきたメリリース家と言えど、未だかつて聖女はおろか候補者すら出したことがない。
父も母も大変栄誉なことだと喜んだ。
ミルフィーユも自分が特別な存在なのだと自負していたため、最初のうちこそ快くお思っていたが―――
魔石殿での厳しい規則を知って絶望した。
毎日の鍛錬は厳しく苦しいし、好きな時にお茶やお菓子を食べられない。
宛がわれた部屋だって、ミルフィーユにとっては部屋というにはおこがましい狭い物置同然だった。
衣装だって決まった物以外は着られない。
おまけに専属の使用人すら付かないのだ。
上記だけならば、どうやって生きていけばいいの! と、嘆くだけで済んだかもしれない。
さらに致命的だったのは、聖女候補が魔石殿から出ることをを禁じる規則だ。
十歳の誕生日には盛大な宴を催して、エイデン王子と引き合わせる。
そう父は約束した。
約束の日からミルフィーユの準備に抜かりはない。
一年も前から虎視眈々と計画を進め、準備は万全。
エイデンの性格、好み、趣向……徹底的に情報を精査し、彼の理想に限りなく近い可憐で淑やかな美少女として生活を送って来た。
計画ではこの日にエイデンと出会い、確実に恋に落ちる予定だった。
それが聖女候補になったせいで水の泡と消えたのだ。
誕生日は次の週だったのに。
計画の実行が不可能と分かり、すぐに抗議の手紙を父に送る。
けれど、返って来たのは期待外れの返事だった。
聖女候補を辞退することは許されない。
その一文だけが手紙に記載されおり、ミルフィーユは怒り狂った。
今まで自分の思い通りにならなかったことはない。
あの時だけは、ヒステリックな悲鳴を上げ備え付けのクッションを殴りまくりまくった。
ひとしきり怒りを発散させた後、どうにもならい現実に思いつく。
そうよ。
この立場を利用すればいい。
他の娘よりも聖女候補として魔石殿に務めるわたくしは特別に見えるはず。
魔石殿でわたくしの評判を上げれば、いずれ王子の耳に届く。
いいえ、届かせるのよ。
絶対にっ!
ミルフィーユは信念に燃えた。
聖女候補として生活を送る一方で、常に根回しを行った。
魔石殿にこれまでにないほど、美しい聖女候補がいる。
定期的に父に噂を広めるように手紙を送り続け、エイデンに対しての情報収集も怠ったことはない。
途中の聖女候補試験だって事前に情報を仕入れた上で、メリリース家の権力と財力を最大限に活用して魔力を増強させる新薬を手に入れ完璧に突破してやった。
他の聖女候補なんて眼中にない。
八つ当たりのおもちゃ程度に考えておけばそれでいい。
王妃になるのは、このわたくしに決まっているの。
もちろん、聖女になるのもね。
ミルフィーユは澄ました顔で魔石殿の大人たちには愛想を振りまき、裏ではずる賢く暗躍した。
こうして、実に三年の月日が経過したが、作戦は成功して噂を聞きつけたエイデンがミルフィーユに会いにくる。
エイデンは自分以上に傲慢で我儘、頭の悪い男だったが、見目だけは麗しかった。
期待通りの美貌に振舞いを見せたミルフィーユにエイデンは直ぐに夢中になって魔石殿に通ってくる。
可愛そうで何も知らないおまけの二人にもしっかり自慢してやることは忘れない。
物心ついた時からの目的が達成されていく感覚が面白くて、ひたすらエイデンとの安い恋愛を楽しんだ。
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