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十歳、はじまりの春

 アビスモラ王国の城門を一台の馬車が通過する。

 季節は春。

 城内の庭ではセレスの木からはらはらとピンク色の花びらが宙を舞う。


 皆が歌い、菓子を頬張る小春日和の陽気とは対照的に馬車の中では、十歳になるグレースが涙で瞳を赤く腫らしいている。

 グレースは名門貴族と言われるアイオライト家に生まれた一人娘で、つい最近まではそれは幸せに暮らしていた。


 両親と仲良しのメイドたちと一緒に王国の西端にある森の別荘を訪れた時から悲劇は始まる。

 比較的に安全だと言われていた西端の地域に上級魔物が現れたのだ。


 魔物は下級ならば地元の自警団でどうにか対処できるレベルだが、上級ともなれば騎士団やランクの高い冒険者でないと太刀打ちできない。

 したがって、上級魔物が出現した際は速やかに避難することが求められている。


 しかし、アイオライト家の面々は森の中にいたため連絡が遅れ、魔物から逃げ遅れ両親にメイドたち、グレース以外は皆命を落とした。

 別荘のクローゼットに身を隠していたグレースだけは無傷で、奇跡だと言われた。

 その後すぐに奇跡の理由をグレースは知ることになる。

 

 アイオライ家の悲劇の中で生き残った奇跡の少女の存在が城にいる聖女の耳に入り、すぐに使いの魔導士が

グレースの療養する屋敷にやって来た。

 

 魔導士はグレースを見るなり、一瞬だけ眉を潜める。

 しかしすぐに真顔に戻り、見事な水晶玉を鞄から取り出して手をかざすように言ってきた。


 言われるがままに、差し出された水晶玉に手をかざした瞬間。

 中から光が湧き水の如く溢れ出る。

 

 「なんて強大な光属性の魔力……おめでとうございます」


 グレースは魔導士が言っていることの意味が分からず、大好きな両親やメイドたちが亡くなったのに何がめでたいのかと腹立たしかった。

 

 すぐに魔導士が後見人になった叔父を呼びつけ、事情を説明。

 なんでも、グレースには聖女になれるだけの魔力があるので、今すぐに城に連れて行きたいらしい。

 

 アビスモラ王国には、魔物や他国からの侵略を防ぐために魔法障壁が展開されいる。

 魔法障壁は七色の魔石と呼ばれる巨大な魔石によって保たれ、聖女が魔力を注ぐことでその働きは途切れることはない。

 そして、代々聖女になれるのは、火、土、風、土、光、闇、無の七属性の内の光属性の強大な魔力を持つ乙女に限られるらしく、グレースは適正をすべてクリアしているとのこと。


 魔導士曰く、魔物の襲撃を受けながら、グレースが生存できたのも危機を察知し無意識に小さな範囲で結界を張ったからだと話を続けた。


 

 現聖女が崩御した場合に候補者の中から次の聖女が選ばれる、あなたの家から聖女が排出されれば家の名誉となるでしょうと、魔導士は叔父を説得。

 叔父は二つ返事で了承し、グレースは城に行くこととなった。


 あれよあれよという間に、荷作りは終わり馬車に乗せられ、元から叔父は自分の家族以外に興味のない人柄だったので見送りもなく馬車は出発。

 屋敷が遠くなるにつれて、グレースは大粒の涙を大量に流した。


 こうして、グレースは一人で城に連れて来られたのだ。


 馬車が停車し、下車したグレースの手を引いて魔導士は聖女の待つ魔石殿へと案内する。

 城内では煌びやかなドレスをまとった貴婦人たちがお喋りやダンスを楽しんでいて、見ているだけで陽気な気分になれそうなのにグレースの気分は一向に晴れることはない。

 

 おぼつかない足取りで通った魔石殿の廊下はどこかひんやりとして、グレースの心を余計に凍てつかせた。

 通された広間には七色に光を放つ大きな魔石と白装束の聖女ドロテアの姿。

 ドロテアも魔導士と同様に、なぜかグレースを見るなり少しだけ眉を潜めた。


 後で知ったのだが、この国では古くから白は聖人を表し、黒は悪魔を表す色だと決まっている。

 なのでグレースの黒い髪の色を忌み嫌う者が多いらしい。

 両親はこの髪を上質な絹のように美しいと言って褒めてくれていたので、髪について眉を潜められていたとは今のグレースの想像には及ばなかった。

 

 ドロテアの無機質な声が広間に響く。


 「よく来ました。奇跡の子よ。今日からあなたを聖女候補として認めましょう」


 ドロテアの石像のように変化のない表情に拒否権はない。

 否、家も家族も失ったグレースにそんなものは存在しなかった。


 本当は家に帰りたかった、部屋に引きこもって誰にも会いたくなどない、両親に…会いたい。


 グレイスは泣かなっかった。

 そして、震えそうになる声で小さく呟く。

 「……謹んで、拝命いたします」


 この日からグレースの運命は大きく回り始めた。


ご覧いただきありがとうございます。

少しでも楽しんで頂けたのならば幸いです。


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何卒、よろしくお願い申し上げます。



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