966.根の優しさ
※加筆修正を行いました。
ようやく今追っている対象の魔族が相手の居場所を知る上で強力な魔法『漏出』使わないかの理由を明確に理解したソフィは、合点が言ったといった表情をヌーに向けるのであった。
「やっと理解したか? 自分のあまりの化け物具合に」
本来、こんな事は他者に言われて理解する事では無い。強くなっていく魔族にとっては、誰しもが一度は『漏出』を使って危険性という者を自覚していくからである。
脳が焼き切れる程に危険性があるとはいっても、何分も痛みを我慢しながら『漏出』を使い続けるような馬鹿な真似をせず、直ぐに『漏出』を解除すれば一日寝込む事で回復は十分に可能であるからである。
しかしこのソフィという大魔王は、自分より魔力の有する強い者を相手に『漏出』を使ったことが無い為に、表面的な部分では『漏出』という魔法を理解はしていたが、大魔王クラスの者が死を経験する程の危険性が伴う魔法だとは思ってはいなかったのであった。
「――」(なぁ、もうソフィさんはお前の説明で理解しただろうからさ、もうそれ以上追い込むように化け物とか、そういう事を言うのをやめようよ)
隣でソフィとヌーが会話をしているところを聞いていたテアだったが、ソフィの言葉は分からないが、ヌーの話す言葉は理解出来る為に、ヌーの皮肉めいた科白を聞いていて嫌気がさしたのか、テアはヌーにソフィを化け物と呼んで皮肉を言うのをやめろと告げるのであった。
どうやらテアの性分的に気を許している者が、他者を貶めるような発言をするのが、聞いていて苦痛だったようである。テアは死神だが、人間的な考え方も理解出来る神々である。どうしようもない事と言うのは、誰にでもあるものである。それを本人が気にしているかもしれないのに規範的な枠組みにある常識を前提に物事を言って、もし言われた方が傷ついたらどうするんだと、テアは考える方の存在であったようだ。
「ちっ、悪かったよ」
テアがぷりぷりと怒りながらヌーに苦言を言っていると、ソフィはその様子を見て、何やらテアは自分の為に、ヌーに怒ってくれたのだとソフィは理解するのだった。
「クックック、お主は優しい死神だな」
テアに向けてソフィがそう言うと、テアは首を傾げながらヌーを見る。
「てめぇはいい奴だとよ」
ヌーはそっぽを向きながらソフィの通訳をするとテアは顔を綻ばせた。
「もういいだろ。アイツを洗脳してアジトへ案内させるぞ」
ヌーはそう言うと、もう完全に尾行をするつもりが無くなったのか、魔力のコントロールを完全に止めて通常に戻す。
その瞬間、アジトへ向かっていたセルバスは、身体を一瞬硬直させたかと思うと、直ぐに魔力探知を周囲に放った。そしてセルバスはそこで、大きな魔力の探知に成功する。
(クソッ! やはり尾行されていたか……! 探知出来る魔力は一体だが、仲間が近くに隠れている可能性はある。このまま戦闘態勢に入るべきか、それともこちらも『隠幕』を使って、気配を消して人数を確認するべきか……!)
咄嗟の機転は流石『煌聖の教団』の大幹部であった大魔王のようで、取れる選択肢の最善を模索しながらも周囲の警戒は怠らない。
…………
結局セルバスはその場で『金色のオーラ』を纏い始めた。
今の彼は『代替身体』の為に本来の力を出せないが、それでも『隠幕』で姿を隠してこの場をやり過ごそうとしても操っていた男までは隠す事が出来ない。
このまま居てもバレるだけであるならば、戦った方がいいとセルバスは判断したようである。
(なぁに先程探知した魔力は大して大きくはなかった。大魔王領域はあるようだが、それでも何とかなる相手だ)
彼は自分が『煌聖の教団』の大幹部で更にはこれまで、別世界を支配した事があるという経験の所為で『代替身体』でも何とかなると慢心してしまったようである。
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