936.ヌーにとってのテア
※加筆修正を行いました。
これまで自分一人で生きてきたヌーは、他者を信用などしてこなかった。信じれば裏切られるのが、アレルバレルの世界である。他者を頼るくらいならば、その分を自分を磨き強くなる事を良しとしてきた。
だが、そんな考えを持っていた彼であっても、流石にソフィに完膚なきまでにやられた事で自分一人だけで出来る事には、限界があるという事を感じた。
それならばこれまでは、手を伸ばした事の無い分野に手を出してみようと考えたヌーは、自分以外の存在と共闘を考えたのである。
しかし彼の根底には、信じれば裏切られるという気持ちが根付いている上に、彼が共闘してもいいと思える相手はなかなか見つからなかった。
これまでもヌーは『邪解脱』という魔法を生み出して、自分の命令を忠実にきく死神を使役はしていた。
だがそんな死神達は、神格を持つ神々とはいっても所詮は有象無象の者達でしかなく『魔神』はおろか大魔王領域に居る魔族たちが相手であればあっさりと倒されてしまう。
この『邪解脱』をフルーフを利用して作った時、同盟を結んでいたミラからは鼻で笑われる始末であった。
ヌー程の魔力を有していても使役出来る『死神』は数は増やす事は出来ても戦力値として表記するならば、1000億を越えるような、そんな『死神』を使役することは出来なかった。
数をいくら増やしたところで、最上位魔族のように『質』より『量』と呼べるレベルでは何の役にも立たない。
もうヌー達の居る領域では下位の死神程度がいくら集まったところで、どうにもならない領域なのであった。
そんな彼はフルーフの使った『死司降臨』を見て、自分が求めているのはこれだと考えたのである。
ヌーはミラやエルシスのように『発動羅列』を読み解く力はない。しかしこれまで誰にも頼らずに自分一人で生きた彼は、フルーフやエルシスには届かないまでも、他者の使う魔法の羅列を自分の知識とセンスの高さから勘を働かせて、他者の魔法を真似する事が容易といえた。
しかしそれでも『死司降臨』は、フルーフオリジナルの魔法というだけの事はあり、ヌーは会得するまでに頭を悩ませたりもした。
だがそれでも最後には結果を出すのが、このヌーという魔族である。
あっさりと、長年開発し続けてきたフルーフのオリジナル魔法『死司降臨』を僅かな期間で体現してみせた彼は、神位の持つ神々その中でも神格が高い『死神貴族』を使役する事が出来るようになった。
もはや『魔神級』と呼ばれるような、ソフィやシスには適わないまでも『九大魔王』と呼ばれる『大魔王』領域までが相手であれば、ヌーはもう敵なしと呼ばれるくらいに強さを有しており、今のアレルバレルでもNo.2の座まで登りつめる程であった。
『大魔王上位』領域程度の神格持ちの死神は、呼ぶ気がサラサラ無かった。
だがそんな彼だが、実はこの『死司降臨』を使えるようになったならば、召喚しようと思う相手が居た。
――それこそが『ダール』の世界で戦い、かつての自分と遜色ない力を有していた『死神貴族』の『テア』であった。
死神の中でも見た目は小柄で、女型のテアであったが、一度手を合わせたヌーは、共闘する相手を選ぶならばテアがいいと考えていたのである。
――実は『死司降臨』で呼ぶ時に、ヌーの『死司降臨』に応じようとしていた死神は、他にも存在はしていたのであった。
その神格持ちの死神は、死霊そのものと言った様子の出で立ちをした、同じ『死神貴族』階級の神格高い、馬に乗った死神であった。
当初テアはそのもう一柱の『死神貴族』に契約を譲ろうと考えていた。
しかしヌーはあくまでも『死司降臨』で呼び出す相手は『テア』と決めていたようで、そのもう一柱の死神貴族が、契約に応じようとした手を払いのけるかの如く、拒否をした。
『死神貴族』程の神格を有する死神が、契約に応じようというのに、それを拒否した魔族の存在にテアは興味を示してそこでようやく召喚主の顔を見た時、テアはニヤリと笑ってそのヌーの手を取って契約を交わした。
テアにとってもヌーは『死神貴族』の神格を有する自分を負かして見せた男で、彼女の中で認める存在だったのである。
久しぶりに現世に出られる好機だから、ヌーの契約に応じたと言っていたが、あれは半分照れ隠しのようなもので、本当は『好敵手』だったからこそ召喚に応じたのである。
ヌーは他者を信用するくらいならば自分一人で何とかしようとする魔族だが、手を組む上でこいつなら命を預けられる相手であり、共闘してもいいと考えたのである。
そしてヌーはそんなテアと行動を共にして、契約の時の考えは正しかったと思えた。
――こいつとなら、もう一度やり直せる。
何度も挫折を繰り返した男は、初めて仲間と呼べる死神を手に入れた事によって、再びこの『ノックス』の世界で立ち上がろうと、不屈の精神を漲らせて、頑張ろうと前を向くのであった。
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