928.拭えぬ違和感と
※加筆修正を行いました。
この宿の階段を騒がしく上がってくる者達に、テアは慌て始めていた。
当然そういった奴らを恐れているのではなく、自分が手を出した事で騒ぎを起こしてしまい、ソフィに迷惑をかけてしまったという事が、テアを慌てさせているのであった。
さっきまで一緒に居た魔神の圧力も関係しており、今のテアは相当に精神的に参っているようで、ソフィの顔をちらちらとみている。
しかしそんな視線を向けられているソフィは反対に冷静であった。
先程の襲撃の一件はソフィにとっても驚かされる事柄ではあったが、テアが襲撃者たちを窓から放り投げた後からの一連の流れに、ソフィは一つの違和感を感じたのである。
(あまりにも騒ぎを聞きつけるのが早くはないか? まるでこうなる事を予見して待機していたような早さだった)
確かにテアが襲撃者を二階から外へ投げ飛ばした時、外に居た者達が驚きで悲鳴をあげている声は、この宿に居るソフィにも聞こえてきた。
警備中でちょうど町の中を巡回している所に居合わせて、それで警護の者達が集まってきた可能性も否定は出来ない。だが、それでもあの人数を一気に集められるものだろうか。
ちらりとソフィは穴が開いた窓の隙間から外の様子を窺う。
先程の襲撃者たちは担架ではなく、土を運ぶ用の運搬車のような小さな車輪がついている妙なものに乗せられて運ばれていっている。
そしてその周りには刀を持った者達が複数人居た。
今こちらの宿の階段を上ってきている者やあの場に居る者、更には襲撃者たちを運んで行く者など。咄嗟に集められたにしては数が多すぎる。
ソフィはそんな事を考えていたが、どうやら宿の二階に人が多く集まってきた気配を感じて、視線を外から戻してテアを見る。
するとテアもまた困ったように、ソフィの方に視線を向けているのだった。
「うーむ……。このままこの場を離れてもいいが、少しばかり事情を確かめておきたいところでもある」
拭えぬ違和感を抱えたまま、ここを去ったとしてもこれがもしもヒュウガの考えた策略なのだとしたら、まだまだ厄介な事が続いていく事だろう。
つまり最初に仕掛けられた時こそ、ソフィにとっては逆に相手の思惑を知る上では、好機になり得るのではないかと考えて、その場から動かずに迫って来る者達を待つのであった。
やがて先程の襲撃者と同じように宿の入り口の部屋の扉が、大きな音を立てて開け放たれた。
「大人しくしろっ! 暴れるなら容赦はせぬぞっ!!』
最初の男が扉を開け放って大声でそう叫ぶと、次々と見慣れぬ恰好をした男たちが部屋の中へ入り込んでくる。どうやら全員が同じ格好をしている為、町の警備を行う護衛達の制服のような物なのだろう。
「お主ら少し落ち着け。我らは別にお主達に逆らって暴れようとも考えてはおらぬ。むしろ我らは被害者なのだ、お主らの方こそ我らの話を聞いてもらいたい」
これだけの人数に押し寄せられていながらも冷静にそう告げたソフィを見て、喧嘩をしていた者達が暴れているとそう思っていた男たちは、肩透かしを食らったといわんばかりの表情を浮かべて、そして中に居るソフィとテアの顔を交互に確認するのだった。
「むっ、確かに……」
最初に部屋に踏み込んできた男はソフィの落ち着きっぷりを見て、どうやら暴れる様子はないと判断したのだろう。構えていた得物をおろすのだった。
「お前達もおろせ」
「はい。しかし報告にあった内容とはえらく違いましたね。隊長」
「ああ」
一番先頭に居た男がどうやらこの者達の代表的な男のようで、部下からは隊長と呼ばれていた。
「では、ひとまずは何があったのかを説明してもらおうか」
隊長と呼ばれた男は部屋の中を一通り確認した後、ソフィの顔を見ながらそう告げるのだった。
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