902.考え方改革
※加筆修正を行いました。
湖畔が結界の目印地点だという事は今のソフィ達には理解が出来たが、何も聞かされていなければそのまま真っすぐと進み、別の道から里へは辿り着けずに北へと向かっていた事だろう。
ソフィ達はこのノックスの世界の人間達の力に感慨深いものを感じていた。
元々ソフィは人間の可能性を知っていた。アレルバレルの世界では、大賢者『エルシス』の存在。リラリオの世界では大陸最強と呼ばれていた剣士『リディア』に、自分の配下にした殺し屋『ラルフ』。ソフィの読み通りリディアもラルフも会うたびに、その成長速度を目の当たりにして驚かされる程であった。
しかしヌーはソフィ程、これまで人間達を認めてこなかった。
アレルバレル以外の世界も世界間移動を繰り返してきたヌーは、人間は結局は知恵の回る生物だが、魔族の脅威になり得る存在ではなく、異彩を放つ者は僅かながら存在はしていようとも、そんなものは世界を見渡しても、一人いるかどうかという確率の低さから、人間を重要視する事はなかったのである。
隣に居る大魔王ソフィはいつも人間は素晴らしいとか、凄い生き物だと言っていたが、ヌーにしてみれば魔族の頂点に立つような男が、何を世迷言を言っていやがるくらいにしか思ってこなかった。
だが、このノックスという世界に来た事で、ヌーの人間に対する価値観は大幅に変わった。
別世界で魔族に襲われたり、魔物達の食い物にされたりする存在ではなく、魔王と呼ばれる程の領域に立つ魔族であっても、下手をすればやられてしまうかもしれないという考えをヌーは、持たされてしまうのであった。
ふとそんな事を考えていたヌーは、死神は人間の事をどう思っているのかとそんな事を頭に過った。ヌーの隣を片時も離れず、口笛を吹きながら歩く桃色のツインテールの髪をしている死神『テア』。
このテアはヌーの『死司降臨』に応じて契約を結んだ死神だが、それとは関係なく、この世界でヌーと接し始めてからそのヌーの事を気に入り始めていた。
ヌーもまたテアの事を相当に気に入っているようで、その可愛がり具合からケイノトではソフィですら驚く程であった。そんなテアに向けてヌーは声を掛けるのだった。
「おい、テア」
「――?」 (どうしたヌー、何だよ?)
ぴゅいぴゅいと口笛を吹いて、上機嫌で辺りを見回していたテアは、突然話しかけてきたヌーの方を振り向いて返事をする。
「てめぇから見て、人間はつえぇと思うか?」
「――?」(どうしたんだ急に。それは精神的な意味でか?)
「そう言うのじゃなく戦うという意味でだ。お前程の力量の死神だったらこれまで人間と戦った事もあるだろうが」
「――」(あぁ、どうだろうな)
前を歩くソフィ達には聞こえない程の小声でヌーとテアは話し合う。そしてヌーの質問にテアは真剣に過去を思い返しながら、どうだったかなと思い耽るのだった。
その様子を観察しながらヌーは、直ぐに弱いと返してこないテアに、それだけで多少は納得を見せるのだった。
(即答ではないっつー事だけで大体分かった。どうやらソフィの野郎に偉そうに言っておきながら俺は、まだ世界を知らねぇ癖に、見解が浅い結論を出してたってわけだ)
「――」(お前本当にどうしたんだ? 顔色が悪いぞ)
「死神に言われたらおしまいだな」
「――!」(どういう意味だよ!! 心配してやってんのによぉ!)
煽るように告げたヌーの言葉に、真剣に心配をしてくれていたテアは、ぷりぷりと怒り始めるのだった。
(この世界にきてあやつは確実に人間を意識し始めておる。当然直接戦った事が原因だろうが、タクシンとやらはヌーに少なからず影響を与えたようだな)
聞こえない振りをして前を歩いていたソフィだが、魔族の耳には十分にヌー達の小声も聞こえていた。そしてその内容からソフィは、ヌーという魔族が着実に人間に対する印象を変えて行っている事に、色々と思いを馳せるのであった。
(人間は寿命が魔族や他の種族よりも短いだけで、決して種族として劣っているわけではない)
そんな事を考えていたソフィだったが、そこで先頭を歩いていたエイジが振り返り口を開いてきた。
「見えてきたぞ。この先がゲンロクの居る隠れ里だ」
湖の見える場所から細い道を入って歩いてきたソフィ達。そしてそんな彼らの前に、遂に里が姿を見せ始めるのだった。
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