892.サカダイの森
※加筆修正を行いました。
『劉鷺』が加護の森を出てサカダイの所有する森に入った時、その情報量の多さに驚く事となった。
まず最初にやはりというべきか『加護の森』に居た頃には、感じられなかった違和感を感じ取った。どうやら外側からは感知出来ない『結界』が張られていたようである。
この結界の規模やその特異性等は『劉鷺』には分からない。
単純に外側に情報を漏れださないようにする『人(妖)除けタイプ』なのか、それともこの結界内であれば相手の力を半減させるような『影響付与タイプ』なのか。その上で妖魔にのみ影響を与えるものなのか。
イバキのような『退魔士』が居ない状況では劉鷺には何も分からない。
しかしこの結界内に入った事で分かる事は、戦闘が行われているという事である。何故ならこの森一帯にあらゆる者達が張ったであろう結界が、複雑に絡み合っているからである。
――その複雑に絡み合う結界の中に『イバキ』の結界も感じられた。
どうやらイバキも戦闘を行っているようで、イバキの結界は『影響付与のタイプ』のようであった。
何故それが分かるかといえば、森に入った直後から『劉鷺』自身がそのイバキの結界の恩恵を得ているからである。
森を進んでいくと聞こえる悲鳴の声が大きくなってきた。どうやら戦闘を行っている現場は目と鼻の先のようである。
そしてそこまで近づいた事でようやく、敵の中に『本鵺』が居る事に気づく。
『本鵺』は自分と比べても戦力値はそこまで大した事がない妖魔だが、とある特性を持っていた事で、人間達から比較的高くランクをつけられている妖魔である。
それこそが近づくにつれて明確に聞こえてくる『本鵺』の鳴き声である。
どうやら戦っている相手の中に、野良なのか自分と同じく『式』となっているのかまでは分からないが、本鵺が居る事は間違いないようである。
(『本鵺』が単体で居るだけならば、主にとってはそこまで脅威はないと思うが、相手が人間達の『式』であった場合、一気に脅威度は跳ね上がる……)
それは何故なら『劉鷺』自身は経験が無いが『ゲンロク』という男が編み出した新術式というモノで、妖魔の力を限界を超えて増幅させる厄介な技法があるからである。
『式』にした妖魔の身体の安否などを気にせず、敵を殲滅するために術式を施されてしまえば、非常に厄介なことになるのである。
簡単な例でいえば『ランク』が一つから二つ上がるといえば、分かりやすいかもしれない。
『本鵺』は人間達の間でランク『3』とされているが、新術ありきでいえばそのランクはランク『4』となる。
そうなれば『劉鷺』よりもランクが上の存在となる。
イバキもその新術式を自分に施せば本鵺と同等になり、鳴き声に結界なしでも抗える程の退魔力は得られるだろうが、あの優しい主は決して自分からは、その術式を施さないだろう。
――こちらから願えば別だろうが。
やがて劉鷺は戦う覚悟をもって森の奥へと歩みを進めて行く。
だんだんと大きくなっていた悲鳴も減っていき、劉鷺が『本鵺』の居る場所の近くまでくると、ぴたりとその人間達の悲鳴といった声も止んだ。
(まずは気配を消して、居るであろう本鵺の周囲を探る)
現在の劉鷺は、イバキに人型状態で使役されている。
つまり通常の『鷺』状態では無い為『本鵺』がランク『3』の状態であれば、イバキと共に戦う事で難なく倒す事は可能であると判断する。
そして遂に『本鵺』の場所まで辿り着いた時、劉鷺は細心の注意を払いながら少し大きな樹の裏側に張り付いて、ゆっくりと開きのある道に視線を向けた。
そこでは多くの人間達が倒れており、立っている者達も劉鷺が知らない人間ばかりであった。
(ちぃっ、やはり奴は『式』として使役されていたか)
居るとアタリをつけていた『本鵺』をようやくその目で見る事が出来た劉鷺だったが、どうやら『退魔士』の『式』として『退魔組』と交戦しているようであった。
そうであるならば相手がワンランク上がる可能性は否めず、とりあえずは主である『イバキ』が居る筈だと劉鷺は視線を周囲へ巡らせる。
想定していたよりも酷い状況を劉鷺は、目の当たりにする事になったが、今は目を背けている場合ではない。
そしてようやく目的の主である『イバキ』を見つけ出した劉鷺はほっと胸をなでおろしたが、そのイバキの前に居る護衛のスーを見た後、更にその前で対峙する妖魔の存在を見て目を丸くするのだった。
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