885.縛呪の行
※加筆修正を行いました。
「イダラマの命令だ。お前達に恨みは無いが、その首を貰い受ける」
人型を保つ妖魔『鬼頼洞』は、当たり前のように人間の言葉を喋り、イバキとスーにそう告げた。
「ハッ……! まるでてめぇは人間だな」
スーは握る剣に力を込めて戦闘態勢に入る。
そのスーの後ろでイバキは、彼が普段通りに動けるようにと『結界』を維持し続ける。そんなイバキはちらりと横目で他の者達を見る。
イダラマが『鬼頼洞』に命令を出した事でウガマとアコウを含めた護衛剣士達は、手を出さずに遠巻きにイバキ達を眺めている。
だが手は出さないとはいっても、退路は完全に塞いでいるのだった。どうやら単に鬼頼洞とイバキ達の戦闘の邪魔はしないという意思表示のようである
単なる全滅が目的であれば手段を選ばずにそのまま、全員で袋叩きにでもすればあっさりと片は付くだろう。だがそれをしない理由が何なのか、厳密にはイバキは理由は分かってはいない。
目の前の妖魔が放つ異様な圧迫感を見るに、この妖魔との戦闘に巻き込まれたくないだけなのか、はたまた単なる余興のつもりなのかは分からない。
――しかしイバキ達にとっては、かなり助かっていることには変わりがなかった。
(イバキ、今から俺が時間を稼ぐ。劉鷺が戻ってきたら一斉に空を駆けて町へ戻るから、準備をしておいてくれ)
「!」
イバキに聞こえるくらいの小声で『スー』が声を掛けて来る。
(分かった。劉鷺が来たら俺が『印行』と『魔瞳』を使って、場を荒らすからその間に劉鷺に摑まって空へ、それまではアイツの相手を頼む)
イバキはスーにそう返事をしてみせた。
「よし、それじゃあ久々に本気でやるか」
イバキと逃げる算段をつけたスーは、そう言って力を込め始めるのだった。
…………
「意外だね。君たちが正々堂々の精神を持っていたなんて」
エヴィがイダラマにそう言うと、直ぐに返答があった。
「お主が何を勘違いしているのか知らぬが、ウガマやアコウが攻撃を止めたのは『鬼頼洞』の攻撃に巻き込まれない為だ」
「?」
イダラマは『本鵺』の呪詛を自分達や一派に被害を受けないように、器用に結界の調整を行いながらエヴィに説明を行う。
「君が出したあの妖魔がそんなに強いの? 僕から見た感じ大した事のない様に見えるけど」
どうやらエヴィは『漏出』を使い、今の『鬼頼洞』の明確な戦力値を見たようであった。
【種族:鬼人 名前:鬼頼洞 状態:通常 魔力値:50万 戦力値:960億 所属:イダラマの式神』。
「ほう、そこまで分かるのか。お主の使う魔法は、我らの『ランク識別』より余程便利そうだな」
イダラマは感心するように『漏出』の魔法で戦力値を割り出したエヴィにそう告げる。
「確かに式契約時に振り分けた『鬼頼洞』の能力では、よくてランク『3』の中位くらいだからな。しかしだ……」
イダラマはそこで言葉を区切り、結界を維持しながら別に印行を結び始める。
エヴィはイダラマが印を結び始めた事で、そのイダラマの魔力の流れを『魔力感知』を使いながら、目を凝らしてみている。
どうやらエヴィは、イダラマの言葉を聞きながらも意識はイダラマの魔力の貯蔵量を把握しようとしたのだろう。エヴィは今はイダラマと行動を共にしているが、背中を預けるというような仲間といった間柄ではない。
こうしてある程度、親しく行動を共にしていながらも力有る大魔王の一体として、イダラマの魔力を把握しようとしていた。そしてイダラマの手印は最後の形作りを終えて、日輪印の形を作ると同時、スー達の前に居た『妖魔』が唸るような声をあげた。
「何だ?」
これから人型の妖魔と戦おうと構えていたスーは、突然に目の前で唸り声をあげ始めた『鬼頼洞』を訝しげに睨む。
「まずい。離れろスー! あれは『縛呪の行』だ」
「あ、ああ……!」
背後に居るイバキがそう声を掛けると大きく後ろへ跳躍して『鬼頼洞』と距離をとる。
それを見て多くの護衛達が反応を見せたが、イバキ達がこの場から離れようとしたワケではない為、護衛達は彼らに攻撃を仕掛けたりはしなかった。
あくまで退路を塞ぎながら戦闘は『鬼頼洞』に任せるようであった。
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