824.護衛人のシクウ
※加筆修正を行いました。
「おい、そろそろ目を覚ませ」
『加護の森』と呼ばれる森の中で、ソフィと戦いそのまま意識を失っていた『シクウ』と呼ばれた男は、ヌーに顔を叩かれて目を覚ます。
「こ、ここは……? ぐっ……」
シクウは無理に起き上がろうとして、全身に激痛が走り顔を歪ませる。
「そういえば、お主の傷を回復してはいなかったな」
そう言うとソフィは、自分と戦い傷を負ったシクウの治癒を始める。ソフィの神聖魔法である『救済』は一瞬でシクウの傷を癒して治す。みるみる内に自分の傷が癒えていく感覚に、シクウは驚きながら自分の身体とソフィを交互に見る。
「こ、これは驚いた……。あ、貴方たちは一体何者なのです?」
ただの妖魔が傷を癒したりすることは出来ない。それにあれだけの力を持っていて、これまで一度も町で見たこともない。本心からソフィ達を恐れながらも必死に恐怖を押し殺してそう尋ねるのだった。
「我達は別世界からこの世界に来た魔族だ。厳密には違う者も今はいるがな」
そう言ってソフィがテアを一瞥すると、テアは恐る恐ると言った様子でソフィの顔を見返す。
「別世界? 魔族? 一体何を言っておられるのか」
彼らの組織の中ではまだまだ下っ端であるシクウは『転置宝玉』のマジックアイテムを見たこともないし『概念跳躍』という魔法の存在も当然知らない。
別世界から来たと言われてもこれまで考えた事もない荒唐無稽な話であり、直ぐに信じろと言われても信じられるものではなかった。しかしそれでも確かに、目の前の魔族と言っていた者達は妖魔ではなさそうだし、ただの人間とも思えない。
それに妖魔であれば、わざわざ自分の傷を治そうとは思わないだろう。自分程度の下っ端では、わざわざ傷を癒してまで何かに使う程の利用価値もない筈である。
「しかしまぁ、これまでの常識では考えた事の無い事をいきなり信じろと言われてもお主も困るだろうな。別に無理に信じろとは言わぬよ、ただお主に尋ねたい事があるのだが」
何のために自分を生かしているのだろうかと考えていたシクウは、その言葉でようやくこれから本題が話されるのだと理解する。
「その尋ねたい事とは、一体何でしょうか?」
「うむ。実は我達には探しておる者がおってな。我と同じ魔族なのだが、青髪で女顔をした我と同じくらいの年をした少年をお主は見たことが無いか? 首元にこのようなものをつけておったと思うのだが」
ソフィがそう口にしながら、自分の懐から何やら金色に輝くメダルを取り出して、シクウに見せて来るのだった。もし自分が属する『退魔組衆』の内情を話せと言われたならば、この場で自分の舌をかみ切ってでも拒否をしようと考えいたシクウだったが、聞かれた内容は全く埒外な内容だった為、言われるがままにその差し出されたメダルをじっと眺める。
しかしそんなメダルは見た事も無ければ聞いたことも無い。それに青髪の女顔の男というのも自分には全く覚えがなかった。
「青髪……。うーむ ちょっと私には分かりませんな。我々の町の屯所であれば、誰か見た者もおるやもしれませぬ。あなた方が妖魔ではないなら我々の町に案内しようと思いますが、その前に私の雇人であるミカゲ様はどこに居られるのでしょうか」
一体誰の事を言っているのかよく分かっていないソフィは、テアやヌーの顔を見る。死神のテアは全く身に覚えがないようだったが、ヌーは心当たりがあるような表情を浮かべていた。
「あれじゃねぇか? 貴様が相手をした化け物を使役した変な格好の人間の事じゃねぇのか?」
そこでようやくソフィは『擬鵺』と呼びだした人間の顔が思い浮かぶのであった。
「ああ、あやつの事ならば……。そういえばそこで倒れておる奴が女の剣士と共にどこかへ運んで行ったようだったが?」
ようやくソフィがミカゲの事を思い出し、そして女剣士と共にそのミカゲを連れて行った、張本人である『タクシン』の方を一瞥する。
「そこで倒れてる奴って……! ま、ま、まさ……かっ! た、タクシン様!?」
これまでソフィ達と話す事に必死だったシクウは、そこでようやく横に伏している『特別退魔士』のタクシンの存在に気づくのであった。
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