776.怯えの克服
※加筆修正を行いました。
鬼女の『紅羽』は現世に再び姿を見せるとその場にいる者達の顔を見て行き、やがてソフィに視線を固定する。すると『紅羽』は何やらソフィに感じるものがあったのか、ジロリと睨み続けた後に何やらサイヨウと話を始めるのだった。
「うむ、彼はお主の思っておる通りだ」
「……」
やがて紅羽はサイヨウと話を終えた後にソフィの顔を見ていたが、直ぐにリディアの方へと歩いていった。どうやらリディアとこれから戦うように、サイヨウに指示されたのだろう。
「ソフィ殿、これからリディア殿と小生の式と戦うのだが、結界を張り直させてもらってもいいかな?」
「む、勿論だ」
「ソフィさん、見学するならこちらへどうぞ」
そう言ってシスは魔法で用意した、テーブルとイスにソフィを招き入れる。既にその場所には、ユファやレア達が座って寛いでいた。
「うむ。それではお邪魔させてもらおうか」
ソフィが移動すると同時に再び、レイズ城を覆う結界が展開されるのだった。ソフィが椅子に座ると、横に居るユファに話しかける。
「あのサイヨウが召喚した者は、中々に強そうだな」
「ええ。あれは『封印式神』といって元々は敵であった妖魔を討伐した後、サイヨウさんが札に封印した妖魔を召喚し、使役しているそうなのです。魔族や魔王が魔物を配下に、するような感じに近いでしょうか」
「ふむ」
召喚と聞いたソフィは、過去にミールガルド大陸で出会った冒険者『レン』の事を思い出すのであった。
(あやつも人間の身でありながら、この世界の魔物を配下にしておった。人間の中ではこういった使役方法が盛んにおこなわれておるのかもしれぬな)
アレルバレルの世界の人間達には、このような能力を持つ者は居なかった。この世界特有のモノなのかもしれないと、ソフィは考えるのであった。
『紅羽』がゆっくりとリディアに近づいていくと、リディアは少しだけ緊張した面持ちで、腰に提げている刀では無く、オーラで創り出した、二刀の輝く刀を具現化し始める。
「最初からアレを使うのか。というよりもかなりあやつ強くなっておるな」
ソフィは『柄のない二刀の輝く刀』を具現化しながらも、自身の周囲に金色を纏えるようになっているリディアを見て、興味深そうにそういうのであった。
「ボクが彼をみっちり鍛えて『金色』を自在に操れるようにしたからね」
横に座っていたシスの口調が変わっていた。どうやらエルシスが、表に出てきたのだろう。
「そう言えばお主も、リディアを弟子に取っていたようだが、何かあやつを選んだ理由があるのか?」
そう言ってソフィがリディアに質問をしていた頃『紅羽』とリディアの戦いが、サイヨウの合図によって開始されるのであった。
この前と同じように名刀『翠虎明保能』を背中から抜き『紅羽』はオーラを纏ったリディアを見据える。
前回のようにいきなり大技である『空蝉十字斬り』を使うことなくリディアもまた動かずに『紅羽』の隙を窺うように睨む。
しかしやはり『紅羽』を見るとリディアは、前回のトラウマが蘇って来るようで、握るオーラの刀が震え始める。
(アイツが見ているんだ、この前のような無様な姿は見せられんぞ……!)
リディアがそう心の中で呟くと、一度紅羽から視線を外すように目を瞑る。どうやら精神を統一し始めたようである。
その一瞬――。
リディアが瞼を閉じた刹那『紅羽』はそれを好機と判断したのだろう。リディアに向かって突進していった。
そして抜いた名刀『翠虎明保能』を斜め上から振り下ろす。この一撃こそが、前回リディアを怯みさせた元凶である。
「あの子を選んだ理由はね。キミの願いを叶えるに値する人間だと、ボクが認めたからだよ――」
――抜刀術、『居合』。
リディアはオーラで出来た刀を鞘に戻すような仕草を見せた後、前傾姿勢になって『溜め』を作った後、一気に刀を抜き去った。
恐れを克服してこれまでのリディアの精細さが溢れる動きで前回リディアを苦しめた『紅羽』の振り下ろしの一撃を見事にカウンターで合わせて、振り切るのだった。
「!?」
『紅羽』は持っていた得物の刀を巻き上げられた後、リディアの一撃をその身に受けて、片膝をつかされるのだった。
この瞬間、見事にリディアは前回のトラウマを克服したのであった。
(お見事です、リディア!)
一部始終を見ていたラルフは、そう言葉を心の中でリディアに贈るのだった。
「よくやったね」
エルシスもそう言って見事に困難を乗り越えたリディアを激励する。
「く……っ!」
片膝をつかされた紅羽は、怒りに打ち震えながら『翠虎明保能』を持つ手を、固く握りしめた後、恐ろしい程の威圧を体中から出しながら立ち上がり、鬼の目が剥き出しになって、振り返りリディアを睨みつける。
そして鬼女の『紅羽』が思いきり一歩目を踏み出し、地面に亀裂が入る程の衝撃が大地に走った。勢いそのままに後ろを向いている、リディアの背中を目掛けて、再び『紅羽』は襲い掛かっていく。
「むっ……!」
確かにまだ模擬戦の終わりの合図を出してはいなかったが、今の『紅羽』の様子から手加減など全くせずに、リディアに襲い掛かろうとしているのを見て、サイヨウは試合を止めるべきかと悩んでしまった。
そしてその一瞬の判断の遅れは、全てを手おくれにせんとして『紅羽』は後ろを向いたままのリディアに襲い掛かるのであった。
「危ないっ……!!」
レアとキーリが同時に声をあげた刹那――。
リディアは、ゆっくりと振り返るのであった。
――魔瞳、『支配の目』。
「な、に……っ!?」
そして『紅羽』の鬼の赤い目が見開き、リディアを睨みつけるのだった。
……
……
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