759.邪悪な笑み
※加筆修正を行いました。
「い、いえ、べ、別に脅えてなどは……!」
誰がどう見てもこのマルクスの態度は、レキに怯えているようにしか見えない。
「クカカカ! まぁいい。 それにしても別世界の大魔王か。あれ程の強さの者が一体誰の系譜で生まれたのかと不思議に思っていたが、やはりこの世界の魔族ではなかったか」
すでにレキは『代替身体』の身体ではあったが、大魔王ソフィと戦った事がある。そしてそのソフィの本気とも言える本来の姿や『終焉』の威力とその放った魔力を見届けている。
彼はあれ程の強さを持つ魔族をこれまで、このリラリオの世界では見たことがなかった。既に大魔王の領域を越えて、あれは『魔神級】の領域』で間違いは無い。
――それも最低でも『魔神級』だという事である。
『魔神級』以上の領域の名称などレキは知らない為に、ソフィが『魔神級』であるとしかいいようがない。
『隠幕』を使ってこの身体の元々の持ち主であるミラと戦っていた女の魔族、シスとやらの戦いを見ていたが、本能で動いていた時は『魔神級』の領域に片足を突っ込んではいた。
しかしあれくらいの力量であれば、かつての『リラリオ』の世界の魔族達の中にも数多く同じくらいの強さの奴は居たし、さらに強い者達も大勢居た。
――そしてそのシスの魔力をレキは見覚えがあった。
どうせあのシスという魔族の先祖は、元々はレキの同胞であった誰かなのだろう。
――しかし『大魔王ソフィ』だけは違う。アレだけは別格である。
今まで彼が見てきた魔力の中で、誰とも合わず見たことがなかった。そしてこの身体の持ち主であったミラを奴の魔法である『終焉』とやらで葬った時、レキは自分の本来の身体に戻らなければ奴を葬る事は出来ないと悟った。
…………
このミラとかいう人間は卓越した『魔力』と、物珍しい『特異』と『魔法』を兼ね揃えており、疑似的な『不死』を生み出せる稀有な身体であった。
大賢者というだけあって、回復施術や回復魔法の知識も豊富であった。今はまだ『梗桎梏病』という魔族にとって致命的な病を治せる程の魔法は持ち得ていないが、本体の身体を病に罹った直後くらいまでなら魔力を回復させる事が出来そうである。
確かに『梗桎梏病』は、魔力を常に枯渇状態にさせていずれは魔力を奪い去るという『魔』を司る者にとっては死を宣告させる厄介な病気だが『レキ・ヴェイルゴーザ』にとっては、今日明日がどうこうというものでは無い。
――レキの本来の身体の総魔力値は『兆』を越える。
ある程度回復させられたならば、そこから数千年は本来の身体に戻る事が出来よう。その時に再びこの世界の全ての生物を葬り去り、あの憎たらしい『魔神』と決着をつける。
既にこのミラという人間が持っていた『仮初需生』と『復活生成』という魔法は、レキが身体を奪った時に『特異』でレキ自身も使えるようになっている。
世界の危機を創り出す時に、この世界の者達の魂を命のストックに変えればよい。
――本来の身体の持ち主であった大賢者『ミラ』と同じように。
何と都合のいい身体を手に入れたものだと、レキが邪悪な笑みを浮かべていると、その様子を恐々と見ていた『マルクス』が声を掛けてきた。
「あ、あの……。そ、それで私は、いつ解放してもらえるのでしょうか?」
今のマルクスもまた本来の身体では無い為、戦力値も魔力値も大したことは無く、この世界の今の魔族くらいの強さしか持ってはいない。この場に居ても目の前のレキという『魔族』の役には立たないだろう。
というよりもマルクスは目の前の男がミラでは無いと知った時から、早くこの男から離れたかったのだった。
「クカカカッ! 安心せよ。お前はこの俺が飼ってやる。俺の役に立つ事だけを考えていろ」
「! そ、そんな……! 大魔王ソフィの事を話せば助けてくれると……っ!」
レキの目が金色に光った瞬間、騒いでいたマルクスの両腕が爆ぜて吹き飛んだ。
「ギッッ……!」
両腕から血飛沫があがり、マルクスは脂汗を流しながら苦しみ出す。
「助けてやるさ、何もできない無力感からな。少し待っておけ、お前にもいい思いをさせてやるからよ」
そう言うとレキは、邪悪な笑みを浮かべながら再び嗤い始めるのだった。
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