739.レアの本気の叱咤
※加筆修正を行いました。
立ち止まったエイネにレアは背後から続けて言葉を掛けるのだった。
「リーシャは確かに嫉妬をしているんでしょうけど、普段の貴方ならもう少し優しく声を掛けてなかったかしらぁ?」
レアの言い分にエイネは、振り返って口を開いた。
「確かに私も少し言い過ぎたかもしれません。ですがレアさん、言いたい事はハッキリと言わなければ伝わらないと思いませんか? 感情に身を任せて嫉妬や癇癪を起こして騒ぎ立てるのは、私はいいとは思いません」
ぴしゃりと言い放ったエイネは言葉遣いは丁寧だったが、その姿は絶対的な存在感を示しており、このアレルバレルの世界で魔族達に恐れられる『女帝』の姿を思わせた。
今の『女帝』としてのエイネを相手に口論を行って『アレルバレル』の世界出身の魔族で、彼女に反論出来る者は限られる程であった。
「今のあなたが本当の貴方なのかしらねぇ? それとも、男が出来たからそっちに、うつつを抜かしちゃったのかしらぁ? ねぇ、リーシャ貴方はどう思うかしら」
しかしレアは『女帝』の状態のエイネに怯えるどころか、平然とエイネの感情を逆撫でするような物言いで返すのだった。
「何ですって? レアさん……。流石に今の言葉は訂正してください! いつだれが男にうつつを抜かしたですって!?」
激昂しながらエイネはレアの元へと歩いていく。激しい怒りによって、目は金色に輝いていた。
「貴方、リーシャのたった一人の姉代わりなのでしょう? 少しはリーシャの気持ちを考えて発言をしなさいよぉ! 貴方は本当に気づいていなさそうだからこの子の代わりに私が言ってあげるけどねぇ! この子は自分の所為で貴方が別世界へ跳ばされた事に、ずっと気を病んでいたのよぉ?」
「れ、レア!」
「いいから! あなたはちょっと黙っててねぇ?」
内緒にしてほしいと伝えていた事を言いそうになっているレアに、リーシャは必死に止めようとするが、それをレアは遮って話を続ける。
組織の最高幹部がリーシャに向けて『概念跳躍』を用いた時、エイネがリーシャを庇って敵の『概念跳躍』で跳ばされた時の事を言っているのであった。
エイネがアサの世界から戻って来る前、何度もリーシャはレアにその事を伝えて、早くエイネさんに会って謝りたい。再会したら感謝の言葉を伝えたいと、レアに相談をしていたのである。
そしてようやく会えた時、エイネの隣にはミデェールの姿があった。
結局エイネはずっとミデェールに付きっきりで、口を開けばミデェールの事ばかりだった。
エイネがそんな様子だった為、リーシャは色々と言いたい事があったけれど、三人で朝まで話をしたときもその事にはあまり触れられなかった。
幸せオーラ全開のエイネを相手に、リーシャはわざわざ暗い話をしたくなかったのだろう。本当は色々とエイネと話をしたかったに違いない。
選定が始まる前にもリーシャは、その事に悩みレアを施設の外に連れ出して愚痴を言っていた。
しかしそれでも我慢を続けたリーシャに対して浮かれたエイネは『神速』と呼ばれるリーシャに対して、その動きについてまるであてつけるかのように、あろうことかミデェールが見切ったのだと、自慢気に話しかけてきたのである。
速度に関して絶対の自信を持つリーシャに、嫉妬をしている張本人である魔族を引き合いに出されて、貴方の動きを見切っていると告げられたリーシャは、どんな気持ちだっただろうか。
それこそ『涙を流す程』に、悔しかっただろう。
それでもここに呼び出した時も何とか言葉を選ぼうとしたリーシャだったが、感情が溢れすぎて言葉が出なかったのだろう。そんなリーシャに対してエイネは、余りにも考え無しといえるような言葉で傷つけてしまった。
「大事な人が出来て、浮かれる貴方の気持ちも分かるけどねぇ! 少しはリーシャの気持ちも考えてあげなさいよぉ! 大事な妹でしょう!?」
怒りに打ち震えながらレアに近づいてきたエイネに対して、一歩も退くことなくしっかりとエイネの金色に輝く目を逸らさずに、大事な『妹』を想ってレアは脅えも怯みもせずに、そう言い放って見せるのだった。
「!」
――エイネは何も言い返す事が出来なかった。
そしてレアに言われて初めてエイネは、リーシャがようやくどんな気持ちだったかを考える事が出来たのだった。
エイネはアレルバレルの世界に戻ってきてからの自分を振り返る。
そして少しの時間の後に天を仰いだかと思うと、心底やられたとばかりに長い長い溜息を吐いた。
そのまま二人のやり取りを見て、ボロボロと涙を流し続けているリーシャを見たエイネは、辛そうな表情に変えた後に深々と頭を下げた。
「ごめんなさい、リーシャ! 全面的に私が悪かったわ」
リーシャはエイネの謝罪に瞬時に何度も首を横に振った後、そのまま走ってエイネの元に、駆け寄って抱きしめるのだった。
「うう……っ! エイネさん……!!」
レアはホッと胸をなでおろしながら、ようやく二人が元の鞘に戻ったかとばかりに頷いた。
怒りで『金色の目』をしていた『女帝』の状態のエイネに詰め寄られた時にレアは、内心では命の覚悟をしていたのだった。
しかしそんな事は表面上ではおくびにも出さず、リーシャというレアにとっても大事な『妹』が、不当な扱いを受けているところを見て、これまで誰よりも家族愛に飢えて生きてきたレアが、エイネに対して何も言わないという選択肢をとれる筈がなかった。
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