722.覚悟の呪縛
※加筆修正を行いました。
「一体どういう事だ? 我の結界の中で魔法は使えぬはずだが」
「魔法はな。奴が使ったのは呪文、そして発動を可能にしたのは『魔瞳』である『金色の目』じゃ」
フルーフの説明を聞いてもソフィは納得がいかない。結界は魔法や呪文といった区別はなく、全てを無効化する筈なのである。
納得の言っていないソフィを見て、フルーフは付け足すように解説を始める。
「『スタック』を使い『発動羅列』を必要とする魔法とは違い『呪縛の血』のような『呪文』には意思が込められていれば呪いは成立する。その媒体が例えば、魔瞳のようなものであっても、本人の意思が司っていれば発動の条件には十分足りるのだ」
「本人の意思がトリガーの条件。そしてその発動に詠唱代わりに『金色の目』を使ったという事か」
「呪文は魔力を通して発動する事も可能であるし、大半の場合はそれらの使い方が優先される。他者ではなく自分に『呪縛の血』を使う場合は意思を自分自身が持っている為『金色の目』を使って自分に掛けるならば『スタック』も魔力も必要無く使用できるのだ」
「クククク! そう言う事だ。残念だったなソフィ。これで俺を自由にしない限り、お前が知りたがっている情報を聞き出す事は出来ぬ。強引に聞き出そうとすれば、俺はあの世行きだ」
ヌーもまた狂っているといえた。交換条件の為に自分自身を犠牲にするやり方でソフィに逆らってみせたのである。
『呪縛の血』は死神と契約を行い、執行後は『代替身体』を持っていたとしても魂は奪われる。本来は他者に掛ける呪いの契約を自分に執り行ったのだ。それも大魔王ソフィという相手に対抗するためにである。
博打じみたその行為を平然と行うヌーを見て、この呪文を創り出したフルーフは複雑そうな顔を浮かべるのだった。
「分かった。我の配下を見つける事に協力するのならばそこから出してやろう。しかし座標を告げるだけではなく、お主自身にノックスに案内してもらう」
「オイ。俺様に貴様と肩を並べて、道案内しろというのか?」
「そう言う事だヌーよ。我の配下の命が掛かっておる……。断れば分かるな?」
ソフィの目が細められたかと思うと、射貫くような視線でヌーをみやる。
「!?」
もう少し何か自分に有利な条件をつけようと考えていたヌーだったが、ソフィが自分に対して告げた言葉は脅しでは無いと本能で気づく。これ以上条件をつけたとしても『化け物』は絶対に乗る事はないだろう。それどころかこれが原因で奴は自分に対してあらゆる意味で『興味』を失い兼ねない。
ソフィから見て今のヌーは限りなくグレーゾーンなのである。薄氷を履むが如しという言葉があるが、まさに今のヌーはその状況である。
―――決して忘れてはならない。
普段は温厚に見えるこの魔族だがその実、これまでヌーが出会ってきた『全ての生物』より扱いにくい存在なのである。
この牢から出してもらい、自由にしてもらえるように譲歩出来ただけでも十分と思わなければならない。欲に任せてそれ以上を望めば大魔王『ヌー』はこの日を以て世界から消される事になるだろう。
「ちっ……! 分かった……」
話は纏まったが納得のいっていない魔族が、ソフィの隣に立っていた。
「ソフィよ。お主の配下を取り戻すまではワシはコイツに手を出す事はしない。しかし無事に取り戻した後は、ワシの好きに動かしてもらうぞ?」
――大魔王『フルーフ』は、大魔王『ソフィ』にそう告げる。
それは普段の友人に告げるような軽い覚悟の台詞ではなく、もし断れば友人であるお前でも許さないといった、ニュアンスを含んだ台詞だった。
愛娘であるレアに数千年寂しい気持ちを抱かせた、目の前の魔族をフルーフは許してはいない。
たとえソフィがヌーを気に入っていようがいまいが、フルーフは復讐を優先させる。
「構わぬ。好きにするがよい」
「うむ……」
牢の中で二人のやり取りを聞いていたヌーは、内心で舌打ちをしていた。
これでは無事にソフィから自由になったとしても今度はフルーフの事を、考えなくてはならなくなった。
ヌーにとってフルーフとは、もう取るに足らない魔族だと思っていたが『ダール』の世界で見た『死神の王』のような『神』を使役した時のこいつは決して侮る事の出来る相手ではなかった。
厄介な奴は多いものだと、牢の中で思慮を巡らせる大魔王ヌーであった。
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