714.我思う故に我在り、されど道は険しく
※加筆修正を行いました。
イルベキア城に戻ったヴァルーザ龍王は、国民達に戦争終結を告げる。そしてヴァルーザ龍王の宣言を聞いたイルベキアの民達は大いに喜んだのであった。
この大陸中の国々を敵に回し、大陸最大の国力を持つスベイキア大国との戦争となっていた為、イルベキアの民達は半ば死を受け入れていたのである。
だが、こうして国王であるヴァルーザ龍王は無事に帰還した事に加えて、この場に攻めてきたガウル龍王が上空で首が飛ぶところを見ていた者達も多く、そして最後に戦争終結宣言を国王自ら発した事で、国民達は心から安堵する事となった。
ヴァルーザの言葉は戦争終結の宣言だけに留まらず、今回の戦争終結の立役者となり、この国をハイウルキアのガウル龍王の陰謀から救った救世主として、魔族エイネを称えながら紹介をするヴァルーザ龍王。
この国の龍族達の多くが、この国の為にエイネが戦っている所を見ている。誰も魔族だからと、揶揄するような民は居なかった。
そして多くの魔族達を今後は手厚くこの国が代表となって保護し、スベイキアや他の国にも、魔族の滞在を認めさせる方針を話した。
民達の中にはこの話を聞いて、魔族達の心配をする者達も居た。
この国とは違ってスベイキア大国や、ハイウルキアといった国は、龍族至上主義な所がある為、魔族が龍族達の大陸で生きる事は難しいのではないかと言った懸念の声もあった。
しかしその辺りの事も既に、シェイザー王子やスベイキア国の重鎮達とも話し合いが行われており、今後はハイウルキアや同盟国にも魔族達を手厚く保護をするという話は伝わっていく事だろう。その為にもまずは、シェイザー王子をスベイキアの国王にするところから話を進めて行かなくてはならないだろうが、もうその辺はこの世界に生きる者達の話となる為、エイネは魔族達の保護さえ約束してもらえれば後は介入するつもりはなかった。
どうやらエイネを通してこの世界の魔族達も、イルベキアの民達に受け入れられているようであった。
ガウル龍王が単身でこの国に攻めてきた時に、ミデェールが立ち向かっていったのを見た者も居たのだろう。その事が要因でミデェールは、イルベキアの者達に気に入られているようであった。
エイネはミデェールが、人型となった龍族の女性に、親し気に話しかけられている姿を見て、ひとまずの心配は解決する事が出来た。後は魔人族と龍族の戦争を止めさせれば、無事に解決となる事だろう。
当初エイネは『煌聖の教団』達によってこの世界に跳ばされた時、この世界に生きる者達と自分との戦力値の差に気づいた。その時に自分は出来るだけ、この世界には干渉しないようにと決めたのだった。
『アレルバレル』の世界に居る『煌聖の教団』の魔族達が『世界間跳躍』の『時魔法』を身につけた辺りから、あらゆる世界を行き来するだけでは無く、その世界を支配しているという話を聞いていたからである。
『煌聖の教団』の所為とは言っても、まさか自分がこうして別世界へ跳ばされるとは思ってはいなかった。
こうして別世界で短い期間とはいっても過ごす事で『アレルバレル』の世界は、どうやら別世界よりも強いモノが多いという事も知った。
血気盛んで支配欲が強い、アレルバレルの世界の魔族であれば、そんな自在に支配出来る世界が、目の前にあれば、支配欲を満たす為に行動する者も出るのは否めない事だろう。
だがエイネは私利私欲で動く事を良しとせず、いつかは必ず『アレルバレル』の世界のソフィ様の元へ戻ると決めていた為、この世界に出来るだけの干渉は避けていた。
――それでもエイネは想う。
どれだけ自分の主を尊敬し、思想を共にしようと誓っていても、自分の同胞であるこの世界の魔族達が虐げられるような所を見てしまうと、結果としてこのように手を出してしまう。それは自分の欲望で世界をどうにかしようとは考えてはいなくとも、傍から見ればれっきとした世界への干渉行為である。
――そしてエイネは理解する。
理想を現実にするのは、力有る者にとっては可能であるが、それ故に自身の定めた志はいとも容易くその方向性を捻じ曲げて変貌させてしまうのだと。
――さらにエイネは思案する。
自分程度の力でこれなのであれば更に上に位置する存在であるソフィ様は、如何にして世界を視ているのだろうかと。
この世界よりもアレルバレルの世界は更に険しいところである。
その世界の魔界や人間界の安寧を数千年以上も保ち続けた魔族ソフィは、どういった心境で自在に操れる世界を動かしていたのだろうか。
そこまで考えたエイネの耳に、イルベキアの民達の歓声が届き我に返った。どうやらヴァルーザ龍王が、宣言を言い終えたのだろう。
エイネは今回の事でこの世界に大きく関わってしまった。結果的には同胞である魔族を救い、保護するという事をこれからこの世界を担う者達へ、任せられる事にはなった。
しかしその結果を出す事で、一つの歴史を大きく変革させてしまう事となった。それを良しとする者も居れば居ない者もいるだろう。
だがエイネは世界を調停する存在ではない。
自在に世界の道標を決めることは出来るが、それに対しての責任を負うことは出来ない。
起こしてしまった現実に後悔をしてもそれに対して出来る事は無い。そうであるならば、エイネは同胞を守る為の行動に対して、生じたこの結果を受け入れる事にするのだった。
自分は世界を統治する器も覚悟も無い。しかし世界を一方向から、多方向へと促す事の出来る存在なのだと。
エイネは自分という器を他世界へ転移させられた事で理解し、そして世界の展望を見据える存在を、強く意識させられる経験を伴うのだった。
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