698.ガウル龍王の謀
※加筆修正を行いました。
ハイウルキア軍を束ねているのは『ガウル』龍王であった。
ここまでハイウルキア軍は最後方に控えていた為、ほぼ無傷の状態だった。
「久しぶりだな、ヴァルーザ!」
戦場で戦うヴァルーザ龍王に声を掛ける『ハイウルキア』の王『ガウル』。
ガウル龍王の側近『メッサ―ガ』『ピード』『ジラルド』の姿も見える。どうやら彼らはヴァルーザが、戦場の前線へと出てくるのを待っていたらしい。
「ガウル……! 今回の事は全て貴様の差し金か!!」
ヴァルーザが怒鳴ると、ガウルや側近達は笑い始める。
「さて、何の事やら? それよりお前がここまで不義理を貫く奴だとは思わなかった。そこまでして大陸の王になりたいのか? ヴァルーザ」
――イルベキアの国王と、ハイウルキアの国王。
互いに一国の王同士が言い争っている様子を近くの空の上で戦いながら、聞き耳を立てるネスコー元帥であった。
既にこの場にはトルクタリア国や、ネパルトミ国。そして他の同盟国の兵士たちはいない。イルベキアの『個別の軍隊』が暴れまわったと同時に生き残っている者達は後方に引き返した。
この場に居る兵士達の多くは『スベイキア』大国の『コープパルス・ドラゴン』の勢力と下がった同盟国と交代するように前に出てきた『ハイウルキア』国の軍だけである。
五カ国の強力な龍族達の同盟軍を相手に、良くここまで一国で持ち堪えたイルベキアだが、ここからが本当の正念場といえるだろう。
ハイウルキアはこれまでの同盟国『トルクタリア』や『ネパルトミ』とは違い、国力的にもイルベキアに並ぶ大国である。
ガウル龍王もかなりの強さだが、その側近達もベルモントやシェアーザといった国の中枢を担う幹部と、同じくらいの強さと戦力値を持っている。
更には現在も『個別の軍勢』と戦い続けているネスコー元帥や、スベイキアの軍も健在である。
今の疲弊しきっているイルベキアの軍勢では、相当に厳しい戦いとなる事だろう。
「違う! 私が自分の欲の為にそんな真似をする筈がないだろう! 常に自国の利益の為だけに行動し、簡単に相手を裏切るお前とは違う! 今回のこの戦争もあることない事を『シェイザー』王子に吹き込んで、お前が引き起こした。違うか!?」
『ヴァルーザ』龍王が『ガウル』龍王に向かってそう言い放つと、流石に図星を突かれたのが効いたのか、忌々しげに『ヴァルーザ』を睨む『ガウル』龍王であった。
「そうか。やはりお前が画を描いていたようだな」
「ええいっ! 黙れ反逆者が! もういい。貴様らはスベイキア大国を裏切った裏切り者だ! 俺の手で始末をつけてくれる……!!」
ヴァルーザ龍王の言葉とガウル龍王の顔色を戦いながら、逐一両者の様子の確認を行うネスコー元帥。そのネスコー元帥は、元々ガウル龍王の話を胡散くさいと思っていた。そして誰よりもイーサ龍王の傍に居たネスコーは、イーサ龍王が、ヴァルーザ龍王と仲が良い事を知っていた。そんなヴァルーザ龍王が、何の脈絡もなくイーサ龍王を裏切る筈がない。
イーサ龍王を狙ったのは、魔族の女だと調べは付いている。
ヴァルーザ龍王は魔族に協力をせざるを得ない状況下にあったのだろう。何の理由があるかは分からないが、ヴァルーザ龍王は余程の事が無い限り、簡単に裏切るような真似はしない男だと、ネスコー元帥も信頼している。
そしてガウル龍王とヴァルーザ龍王、どちらを信用するかと尋ねられたならば、迷わずにヴァルーザ龍王と答えるだろう。
――だが、シェイザー王子は違う。
王子が幼少の頃からガウル龍王はシェイザー王子の面倒をよく見ていた。しかしそれは純粋な気持ちで可愛がっていたのではなく、厭らしい魂胆があったのは誰の目から見ても明らかだった。
体よく騙されてしまっているシェイザー王子に、ネスコーからガウルの事を話したところで、王子は信用してはくれないだろう。
それにもうここまで戦争を大きくしてしまった以上、イルベキアは終わりである。残念な事だがヴァルーザ龍王は、この戦争で戦死は免れないだろう。
ネスコー元帥は、心の中でヴァルーザ龍王に同情し、そして出来るだけ苦しまずに、この世を去る事を願うのであった。
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