688.静かな怒り
※加筆修正を行いました。
「シスッ……!」
ブラストに降ろしてもらったユファは、シスに駆け寄り声を掛ける。
「大丈夫、彼女はもう無事だ」
そう答えたのはシスでは無くエルシスだったが、その言葉に安堵の溜息を吐くユファであった。
「ああ……、ソフィ! 来てくれたんだね?」
感嘆の声を漏らしながら『エルシス』は、嬉しそうにソフィに向けて口を開く。
「待たせてすまなかった、後の事は任せてくれ」
そう言うとソフィは、絶命している筈の『煌聖の教団』の総帥ミラの様子を窺う。
「気を付けてくれソフィ。その人間はどうやら不死のようだ。きっとそのまま再生して目を覚ますよ」
「不死か、それならそれで構わん」
普段通りに見えるソフィだったが、どうやら内に秘めている怒りは、相当のモノなのだとエルシスは感じ取った。
「ソフィ様。再びこいつが蘇るのでしたら私も加勢します」
ブラストはそう言うと『ソフィ』の力になろうとオーラを纏おうとする。
「エルシスはどうやら魔力が残り少ない。すまぬがお主はエルシスとユファを安全なところまで連れて行って守ってやってくれないか?」
「え? で、ですが、ソフィさ……ま……?」
再度食い下がろうとするブラストだったが、そこでソフィのミラを睨む冷酷な目を見て背筋を凍らせる。
「し、失礼しました。出過ぎた無礼をお許しください」
ブラストはソフィに頭を下げながらそう言うと、ユファとシスの肩に手を置いて『高等移動呪文』を詠唱してその場から去っていった。
その場にはソフィとミラだけが残った。
やがて青い光が突然ミラを包みこんだかと思うと、ミラの胸の穴が塞がっていき、そしてゆっくりと目を覚ますのだった。
「目覚めたか? 目覚めたなら、さっさと起きるがよい」
ソフィが倒れているミラを見下ろしながらそう言うと、ミラは笑みを浮かべながら口を開いた。
「ごきげんよう。化け物」
……
……
……
フルーフ達が居るところとはまた別の場所からソフィを見る者が居た。
先程まで大魔王シスと、人間であるミラの戦いを愉快そうに見ていたレキであった。
レキはミラ達の勝負の結末に満足して楽しそうにしていたが、そこで突如として現れたソフィを見て、不愉快そうに顔を歪めるのだった。
(アイツが来たら全て終わりだ。全く興覚めだ……。が、しかしここまで付き合った以上は、結末は見届けてやるか)
そう言うレキはどこか冷めた目で、ソフィ達を見るのだった。
……
……
……
ゆっくりと体を起こしたミラは、攻撃をする素振りのないソフィの横に立った。
「お主が『煌聖の教団』という組織を束ねている者で間違いはないな?」
「はははは! そこからか。私たちはお前を別世界へ追放する為に、本当に長い期間を費やしてきたというのに、お前は私の顔と名前すら分かっていなかったのだな」
「我から逃げ続ける臆病者の事など知る筈が無いだろう? 自分の顔や名前を憶えて欲しかったのならば、陰険な真似をせずに直接狙ってこい」
ソフィの言葉に煽るように拍手を送りながらミラは、笑みを浮かべて口を開いた。
「おお、怖い怖い! 温厚な魔族でも怒らせるとここまで変貌するんだな」
「我が普段あまり怒らないという事を理解しているようだが、お前は二度レアを狙った上に『アレルバレル』の世界を滅茶苦茶にしてくれた」
ソフィは冷静な口調で説明を始める。それは一見冷静に見えるがソフィを知る者であれば、必死に怒りで我を忘れないように、抑えながら喋っていると理解出来た。
「お前だけは、許すわけにはいかぬ」
「おい化け物、いい加減にしてくれないか? いつまで支配者の座に座っているつもりなのかは知らないが、言葉遣いに気をつけろ。私はもうお前を越えているのだぞ?」
「そうか。それは楽しみな事だな」
――全く楽しそうに話さないソフィだった。
本来であれば、自分を越えると宣言する者に対して期待をするところだった。
そしてレキのような本当の実力者と戦う事になったとき、ソフィは多幸感に包まれて本当に楽しげな表情を浮かべていた。
だが、今回は如何にミラが強かったとしても、楽しむ事はない。
――ソフィにとって、目の前の男はヌーとも違うし、レキとも違う。
『煌聖の教団』の存在は、全てが明確な『敵』なのである。
「私の事を何も知らないお前に一つだけ教えてやろう」
そこでようやくミラは『金色のオーラ』を纏い始めた。一度死んで蘇ったミラの体力と魔力は、既に完全回復していた。
「私は魔神の力を会得している。そして何度でも蘇る事の出来る神の存在だ!」
オーラに包まれたミラはそう言うと、高らかに笑い始めるのだった。
……
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