687.最強の大魔王の到着
※加筆修正を行いました。
「参ったね。流石に」
目の前でこちらに止めを刺すべく、手を向けたミラを見て、シスの身体に宿っているエルシスがそう口を開いた。
「ん? お前、まさかエルシスか?」
「そうだね……。厳密には今だけ身体を使わせてもらっているだけ何だけどね」
脂汗を額に浮かべながら傷の痛みに必死に耐えるエルシスは、同じ大賢者のミラにそう告げた。
「最後まで貴方とその女の関係が分からなかったが、もうそんな事はどうでもいい。大賢者エルシスよ、私は貴方を遂に超える」
ミラがそう言うとニヤリと笑みを浮かべながら、手に魔力を込め始めた。
その光輝く魔法はどうやらあの『高密度エネルギー』のようだった。
この距離から撃ち込まれてしまえば、今の大怪我を負っている自分では避けられないだろう。
この身体の持ち主である彼女は魔族である為、命を奪われても『代替身体』に魂を向かうことは出来るだろう。
相手が大賢者と呼ばれる存在でなければ、たとえ自分が死んでもこの子が生き残るならば、それでも構わないと諦めていただろう。
しかし目の前のミラという大賢者は『空間除外』を間違いなく使えるだろう。そうなれば一度の『死』で、魂をこの世界から除外されてしまい、彼女も無事では済まなくなる。
考えすぎて頭の血管が焼き切れようとも、考える事をやめるわけにはいかない。
天才エルシスは頭をフル回転させながら、彼女だけをどうにか生かす方法を模索し始めるのだった。
「貴方に憧れて私は生きてきた。貴方の使う『魔』は、正に尊敬を越えて崇拝する領域だった。感謝を申し上げる大賢者エルシス」
「ふふ、ボクなんかに憧れても何の得も無いよ? でもそうか、それなら少しだけ猶予を貰えないかな?」
ダメ元でそう告げるエルシスは、何とか『代替身体』へとシスの魂を移す時間を稼ごうとする。
「それは駄目だな。今更命乞いはやめてくれよエルシス。私の理想を体現した崇高な存在のまま、この世を去ってくれないと私が許さぬ」
「意外にキミは、ケチな男なんだね」
エルシスがそう言うとミラは、口角を上げて嗤うのだった。そして高密度のエネルギーを撃ちだそうと、再びミラは魔力を込めるのだった。
「最後に貴方を私の手で葬れて満足だ、それではさよならだ、最高の大賢者」
エルシスが片目を閉じて、何も出来ない自分を責め始めたその時だった。
ドンッ! という何かを押すような音が、エルシスの耳に届いたかと思うと、エルシスの前に立っていた、ミラの心臓の部分から手が生えて出た。
「なっ……!? か、かはっ……」
口から血が溢れ出たかと思うと、ミラはその場で片膝をついた。
「だ、誰だ……?」
掠れる声で胸から突き出ている手を引き千切ろうとミラは手を伸ばすが、次の瞬間にはミラの胸から手が抜かれて、身体からも血が噴き出る。
ドサリとそのまま前のめりに倒れるが、ミラは首を必死に動かしてその正体を見ようとする。
「……な、ぜ……、こ、ここに、お前が……、居……る……のだ」
そこでミラは再び絶命するのだった。
「大丈夫かシス。いやお主はエルシスか」
そう声を掛けながらソフィは、回復魔法をシスの身体に向けて使い始める。
みるみる内にエルシスの顔色が良くなっていき、傷口も塞がっていく。
「ああ。キミのおかげでこの子を失わずに済んだよ。本当にありがとう」
エルシスは心の底からソフィに感謝し、そして嬉しそうに笑うのだった。
……
……
……
――少し時間は遡る。
ブラストに抱き抱えられたユファの『念話』で、ソフィ達は居場所を聞いてレイズ魔国に向かっている途中でソフィ達は二体の魔族を発見するのだった。
その魔族の名は『バルド』と煌聖の教団の司令官の立場にあるルビリスだった。彼らは煌聖の教団の総帥であるミラの命令によって、あの場を離れる途中だったのである。
しかし運が悪い事に逃げている方向から、ソフィ達が姿を見せたのである。
「ま、まさか大魔王ソフィ!?」
「そ、ソフィ様……か」
ルビリスとバルドは同時に驚いた声をあげて、驚愕の視線を近づいてくるソフィに向ける。
「ディアトロス、フルーフ」
「ああ、バルドはワシに任せろ」
「では、ワシはそっちの奴を任された」
たったそれだけの言葉を残して、ソフィとユファを抱いたブラストはそのまま去っていく。
かつての仲間であったバルドに対し、ソフィは一瞥をしただけで去っていくのだった。
「久しぶりじゃな、バルドよ」
ディアトロスがそう言うと、バルドは舌打ちをしながらかつての上官の顔を見る。
「再びワシを捕らえるつもりですかな、ディアトロス様」
「カッカッカ! 捕らえる? 何を戯けた事を抜かすかと思えば、お主はもう終わりじゃよ。ソフィを裏切った愚か者が」
…………
フルーフを見てその場から『高速転移』で逃げようとするルビリスだが、神聖魔法の『聖動捕縛』を放ち、フルーフはルビリスをその場に強制的に止める。
「ヌーとミラ。そして……、そして貴様には長い間世話になったな。世話になった分を全て返して清算してやるから楽しみにするがよい」
その言葉にルビリスは苦虫を噛み潰したような、そんな表情を浮かべながら、脂汗を流すのだった。
……
……
……
『ブックマークの登録』や『いいね』また、ページの一番下から『評価点』を付けていただけると作者のモチベーションが上がります。宜しければお願いします!




