680.根源魔法
※加筆修正を行いました。
「面白い……。化け物と戦う前にアイツで試してやろう」
大賢者ミラはそう言うと、シスに向けて魔法を放った。その魔法はダールの世界の魔神から『魔法化』にして会得したモノである。
恐ろしい速度で放たれたその魔法は、高エネルギーの集合体といえるエネルギー波であった。
ミラの魔法が放たれた直後、直ぐに感知したシスは持っていたヌーをそれに向けて投げ飛ばして、そのままそこから離れた。
「チッ……!」
ミラは舌打ちをしたかと思うと、エネルギー波を曲げてヌーの命を庇う。強引に射線を変えた為、そのエネルギー波はシティアスの近くの拠点に向かって飛んで行った。
そのレーザーとも呼べるエネルギー波は、拠点を守るレイズ軍の者達には当たらなかったが、大陸を貫いて海へと消えていった。
ミラはそのまま意識を失っているヌーを掴むと、ルビリスにかけられている『聖動捕縛』を魔瞳で解除する。
自由に動けるようになったルビリスは、慌てて主であるミラの元へと転移してくる。
「お前はコイツを連れて下がっていろ、本気で『魔神の力』を使う」
「御意。しかしミラ様お気を付けください、奴は只者ではございません」
「そんな事は分かっている。もうお前達が手を出せる次元では無い事もな」
「お役に立てず、申し訳ありません……」
「構わん。行け」
最後にミラに頭を下げた後、ルビリスはヌーを抱き抱えたまま離脱するのだった。
あっさりと『アレルバレル』の世界でNo.2であったヌーを圧倒したシスに、ユファは呆けた表情を浮かべたまま固まっていたが、ようやく我に返り慌ててシスの元へと駆け寄っていく。
「シス! さっきとても苦しそうにしていたけど大丈夫なの? 魔力は、アレ……。戻ってる?」
この世界に跳躍してきた時に感じたシスの魔力は、枯渇寸前だったように思う。
それなのに今のシスの魔力は元通り、いやそれ以上の魔力のように感じられるのだった。
自分の魔力を遥かに凌駕する。その魔力値の正確な数値までは読み取れないが、今のシスは何も問題がないようだった。
心配をしてこの場に来てくれたユファに、理性を失っている大魔王状態のシスだったが、そのユファの首に手を回して抱き寄せる。
「え……、ちょ、ちょっと!」
突然のシスからの抱擁に顔を紅くして驚くユファだったが、何かを口にしようとした瞬間に、シスはユファから離れて口を開く。
「ヴェル、コノバカラハナレテ」
どこか片言で喋るシスに眉を寄せるユファだったが、次の瞬間――。
シスが何か詠唱を始めたかと思うと、ユファは眩い光に包まれていく。
「こ……、これは?」
――根源魔法、『ルート・ポイント』。
「ま、待ちなさいシス!!」
その魔法はかつてユファが『代替身体』の身であった頃に『ラルグ』魔国の魔族から、シスの命を救うために使った根源魔法であった。
今度は自分がその魔法を使われる立場となるとは思わなかったが、その光に包まれたが最後、何も言う事が出来ずにユファは、今彼女にとって、必要だと思う者の|ところへと強制的に連れていかれるのだった。
…………
「色々と確かめておきたいのだが、お前は一体何なのだ? 『アレルバレル』の世界でのお前は、どう見てもエルシスだったが、今のお前は明らかに違っている」
大賢者としての素養があるミラから見て、今のシスのオーラや魔力の質などを見て、明らかに『アレルバレル』の世界で戦った時とは別人だとエルシスは断言するのだった。
「……」
しかし今のシスは普段のシスでも無く、またエルシスの魂でもない。
ユファに対しては別だったようだが、闘争本能に忠実な大魔王である為、ミラに言葉を返す事は無かった。
「どうやらまずは、分からせなくてはいけないようだな」
このままだと何も話さないだろうと判断したミラは、オーラを纏いながら戦闘態勢に入る。
ミラが戦闘態勢に入った瞬間、今まで無言を貫いていた大魔王シスがギロリとミラに目を向けた。
(意識はあるようだが、どちらかといえば『金色の目』で操られている奴に近い反応だな)
ミラは今のシスの状態を冷静に分析する。
まともな状態とは言えないシスを見て、会話などで動揺させるような真似は、一切の意味が無いと理解する。
つまりあの魔族の動きを封じる為には戦いの中で、叩きのめすしかないと決断を下すのだった。
「では試してみようか」
ミラはそう言うと『スタック』を始める。
まずはセオリー通り、魔族を封じる『聖動捕縛』を試みるつもりであった。
先程のルビリスとヌーと戦うシスを見ていた彼は、どうやらヌーよりも上のようだと、理解はしているようだった。
それでも彼は今の状態のシスを『大魔王最上位領域』程度の実力だと見積もってしまった。
既に目の前の存在はソフィやレキと同じ『魔神級』であり、世界の調停者と呼ぶに相応しい、支配者の存在に昇華されていると気づくのは、もう少し後の事になるのであった。
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