662.決して相容れない両者
※加筆修正を行いました。
「フルーフの魔力を感知した。どうやら奴は『化け物』が跳んだ世界『リラリオ』に居るようだ」
『ダール』の世界のイザベラ城で『フルーフ』の魔力を探していたミラは、近くで腕を組んでこっちを見ているヌーにそう告げた。
「ソフィの奴は『アレルバレル』の世界で『エルシス』と『フルーフ』は『リラリオ』の世界か。どうするつもりだ?」
現状『煌聖の教団』の軍勢の多くは『リラリオ』の世界に集結しており、別動隊として『リザート』が『アレルバレル』の世界に『煌聖の教団』の大多数となる軍勢。その総勢十万程の魔族達を率いている事だろう。
ミラとしてはこうなった以上は『リラリオ』に向かうしかないかと考えている。
『魔神の力』を手に入れた今、ソフィとこのまま戦っても負けるつもりは無いが、短期決戦では勝負は決まらないだろう。
戦いとなれば必ず長引くと判断するミラは、その間にエルシスやフルーフが『アレルバレル』の世界へ向かってくるかもしれないと考えて、自分達は『リラリオ』の世界に居るルビリス達と合流をするべきだと考えるのだった。
「よし、我々も『リラリオ』の世界へ向かうぞ。お前ももう体力は戻った頃だろう?」
ミラは直ぐに動けるのかとヌーに尋ねる。
「当然だ。体力だけではなく『魔力』の方も問題はない。俺はもういつでも動ける」
「いい返事だ。それでは『リラリオ』の世界へ行くぞ」
二人は『ダール』の世界から『リラリオ』の世界へ向かうべく『概念跳躍』を展開するのだった。
……
……
……
『レイズ』魔国に大勢の魔族が攻め込もうとしてきているという事を『キーリ』の守護龍『ディラルク』から聞かされた『シス』は単独でルビリス達の前に姿を見せていた。
数十万を越える大賢者ミラを総帥とする組織『煌聖の教団』であった。
『アレルバレル』の世界でシスの中に居るエルシスは『煌聖の教団』の幹部やミラと戦った経験がある。その時は幹部と総帥であるミラ達だけだったが、今回は『煌聖の教団』のほぼ全軍がこの場に集まっているといっていいだろう。
「流石に少しきついかな?」
ルビリスとバルド。そしてネイキッドといった組織の中枢となる指揮官たちにわざと聞こえるように、静かにエルシスはそう口にした。
現在『レイズ』魔国の女王であるシスは、中に宿る魂『エルシス』と交代している。
そしてそのエルシスの周囲には、彼が『聖者達の行軍』という『魔法』で生み出した聖騎士が百体程控えている。
彼らの戦力値は1億を越える上に『エルシス』の『魔力』が枯渇するまで死ぬことはなく、何度でも蘇る。かつての『アレルバレル』の世界で大勢の魔族を相手に、たった一人で相手をする為に『エルシス』が作り上げた『対多勢対策』の一つであった。
数千年前の『アレルバレル』の世界では、大賢者エルシスはソフィ以外に敵なしと呼ばれる程だったが、今は時代が進み『アレルバレル』の魔族達も過去より力をつけている者が多い。
現在の『アレルバレル』の世界の魔族達。その『煌聖の教団』の大魔王達の強さは、数千年前の『ロンダギルア』が起こした戦争の時より遥かに強さを保持している。
『煌聖の教団』の本隊の魔族達は『エルシス』が『アレルバレル』の世界で、魔族達に恐れられていた時代より更に昔『大魔王ダルダオス』が生きていた時代の平均的な魔族と同規模の強さといえよう。
大魔王ソフィが『ダルダオス』の計画を止めた事で一応の平和を維持する事が可能となったが、その頃の魔族達が今も猛威を振るっていたとしたら、大賢者エルシスも一筋縄ではいかなかったかもしれない。
そして今その『ダルダオス』の時代に生息した魔族達と、同程度の強さを誇る『煌聖の教団』の本隊達がエルシスに相対しているというワケである。
先程エルシスが呟いた一言は、この『煌聖の教団』の軍勢たちを相手にたった一人で戦えるかどうかを冷静に分析した結果の言葉だったのである。
バルドやルビリスの狙いは『レイズ』魔国を滅ぼす事ではなく、この目の前に居るシス女王なのである。この場でシスを片付けておかなければ、非常に厄介な事になる。
大賢者エルシスと大魔王フルーフの両名の強さを少なくともルビリスは過去に見ている。
つまりミラが懸念に思う理由は、十二分に把握しているというワケであった。
もしこのエルシスとフルーフが『アレルバレル』の世界に居る化け物である『大魔王ソフィ』の元に合流させてしまえばとてつもなく面倒な事になる。
大魔王ソフィだけでもどうしようもないというのに『九大魔王』に『エルシス』と『フルーフ』を同時に相手にしなければならなくなったとしたら、流石に『煌聖の教団』であっても勝ち目はないだろう。
――この場で確実に仕留めなければならない。
「貴方が『レイズ』魔国の女王シス様ですね? いや、大賢者エルシス様とお呼びした方が宜しいですか」
ルビリスはニコリと笑いながら、聖騎士達の真ん中に居るエルシスに語り掛ける。
「どちらでもいいよ。そんな事よりどうして君たちはこんな大勢の者達を連れてきたのかな?」
「それは崇高なる我々教団の大賢者『ミラ』様の理想の為に貴方に死んで頂きたいと思い、僭越ながらこうして貴方の前に姿を現しました」
「へえ?」
明確にお前を殺すと告げられたエルシスは、先程までより少しだけ表情を険しくさせた。
「その大賢者『ミラ』とやらの理想とはどんなものなの?」
「大魔王ソフィという世界に恐怖と圧政を敷く愚か者を世界から排除し、世界の浄化をはじめて真の平和と安寧を『アレルバレル』の世界に齎す事です」
ルビリスは話をしながら徐々に饒舌に話を続けていく。
「ソフィが世界に圧政を敷く? 彼こそが世界をよりよくする為に日々努力を重ねて世界の混沌を防ぎ、世界の平和を保っていると思うのだけど?」
「ははは。違いますねぇ。あの化け物がやっていることは、圧倒的な力を示す事で世界に生きる者達に恐怖に陥れて、強引に世界を我が物顔で支配して、統治をしている風に見せかけているだけですよ」
その言葉にエルシスの顔から色が消えたかと思うと次の瞬間には、とても不愉快といった表情になり替わり、納得のいかないといった様子でルビリスを見る。
「ふーん?」
不機嫌といった様子を露にしながらシスの顔をしたエルシスは、口を尖らせるのだった。
「今は信じられないかもしれませんが、一度統治をする者が変わった世界を貴方も見届けて頂けませんか? きっとそうなれば我々の言っている事を理解出来ると思うのですが」
「……」
もうエルシスは無言でルビリスを睨んでいるだけであった。
「そうです! 貴方も教団に加わりませんか? 貴方のことを我が主はとてもとても気に入っておられた様子ですし、我が教団の主『ミラ』様も快く迎えてくれるはずです!」
ルビリスは名案だといって手を叩きながらニコリと笑った。
「無理だよ」
ブツブツと独り言で盛り上がっていたルビリスは、エルシスの言葉に反応する。
「キミは世界そのものを統治するという事の本質を理解していない」
「何ですって?」
気分良くペラペラと喋っていたルビリスは、エルシスの言葉に眉を寄せた。
「キミに言っても理解できないだろうけど、ソフィだからこそあの世界を数千年間治めてこれたんだ。キミはソフィが圧倒的な力を示す事で、あの世界に生きる者達を強引に支配したと言っていたね? そんな事を、真顔で宣っているキミは実に滑稽だね」
「我が主では世界を束ねられないと言いたいのでしょうか。そんな事はやってみない事には分からないでしょう? 現に我が教団には多かれ少なかれ、世界を支配している者は多く居ました。彼らに出来た事を我が主が出来ない理由がありますか?」
「それこそ語るに落ちるよ『世界を統治する』という事と『世界を支配する』事は全く違う事だ。アレルバレルの世界ような大魔王連中が蔓延っている世界で『魔族』と『人間』と『精霊』を少なからず共存させながら数千年間君臨しているソフィが、どれ程難しい事をしているか、キミは理解していない。断言できるよ? 大賢者ミラに『アレルバレル』の世界を統治させたら毎日が戦争の世界に逆戻る。いやそれだけに留まらない。人間界に魔界が入り込んで世界そのものが混沌と化すだろう」
「はぁ……。やれやれ。話になりませんねぇ? ミラ様と同じ大賢者と呼ばれる者として、もう少し聡明な方だと思っていたのですが、どうやら私の認識が間違っていたようです。しかしまぁよいでしょう。どちらにせよ貴方はこの場で死ぬことになるのですから、あの化け物に理想と願望を抱いたまま、あの世に行きなさい」
ルビリスがそう言うと『金色』を纏い始めた。
「やれやれ……。ようやく支配だの統治だのと些細な話し合いはすんだようじゃな? 相手の主張が気に入らぬのであれば『アレルバレル』の世界の者らしく力で押し切ってしまえばよいのだ」
ルビリスの横に居るバルドもそう口にすると『力』を開放し始めた。そしてそれを皮切りにその場にいる数多くの本隊の大魔王達が戦闘準備を開始する。
この場に居る魔族はそれぞれが戦力値にして500億を優に超える存在達である。
一体一体がこの世界の調停者としての役割を担っていた始祖龍キーリを屠れる程の強さを持っており、そんな者達が数十万という規模の数で揃っているのである。
対するエルシスは確かにかつての『アレルバレル』の世界では、最強に近い大賢者と評されてきたが、時代が違う『アレルバレル』の世界の魔族達を相手に『エルシス』はたった一人で戦わなくてはならないのである。
エルシスは一度目を閉じた後に全身に魔力を行渡らせる。そしてゆっくりと目を開けると同時に一気に百を越える『スタック』を展開する。
周囲には白い兜や甲冑を身につけた聖騎士達。そして自身の周囲一帯、あらゆる場所に魔法を展開する『スタック』。
目を金色にしながらエルシスはたった一人で『煌聖の教団』と戦争を始めるのであった。
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