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最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。  作者: 羽海汐遠
愛娘を探して編

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636.突然の通達

※加筆修正を行いました。

「む? 襲撃に向かった筈の『ヴァルーザ』龍王から『念話(テレパシー)』だと?」


 スベイキア大国に居るイーサ龍王は、先陣を切って魔人達の大陸に向かっている筈のヴァルーザ龍王から唐突な連絡が入り、訝し気に眉を寄せた。


(イーサ龍王。貴方に緊急に伝える事があります)


 ヴァルーザ龍王は何か焦っているような様子であった。


(お前達は魔人達の大陸に向かった筈だろう。何かあったのか?)


(あと少しで大陸に到着する予定でしたが、向かう途中に一体の魔族に足を止められまして、現在その魔族に貴方の元へ案内するように脅迫をされているところなのです)


「ヴァルーザは一体何を言っているのだ。魔族に足止めされている? 更にはその魔族に脅迫を受けている? 精霊族よりも魔力が弱い上に、人間どもより知恵がない筈の魔族に一体何が出来るというのだ……」


 ヴァルーザからの報告に信じられないとばかりに『イーサ』は独り言ちるのだった。


(イーサ龍王! 信じられないでしょうがこの魔族には、我々イルベキアの龍族が束になっても勝てそうにありません。どうか私を信じて言う通りにして頂けないでしょうか!)


 ヴァルーザが冗談を言っているようには思えなかった。そもそもこれから魔人達と全面戦争が行われるという時にヴァルーザ龍王がそんな冗談を言う筈がない。


 ――信じられない事だが、本当に起きている事なのだろう。


(お前がそこまで言うのならば分かった。その魔族はワシに会いたいと言っているのだな? それで他に何か要望を伝えてはきてはいないのか?)


(そ、それが……。せ、戦争を行うのは自由だが、魔人達に従っている魔族には手を出すなと……)


『ヴァルーザ』龍王からの言葉に『イーサ』龍王は、再び首を捻る事となった。


(全くその魔族の意図している事が分からぬ。ヴァルーザ龍王程の者が手も足も出ない程の強さを持つ魔族だというのならば、魔人族と龍族の戦争が始まる前に自分達の仲間達を連れて、別の大陸にでも向かえばよいだろう)


 魔人に従う魔族の今の立場は我らのように同盟というわけではない。完全に魔人達に支配されて、隷属されている状態の筈である。しかしヴァルーザ龍王が本気になれば並の魔人達では束になってもどうしようも無い筈。そのヴァルーザ龍王が勝てない相手だと言ってきている以上は、その魔族は魔人達より強いのではないのかとイーサ龍王は考えるのだった。


 そしてヴァルーザの『念話(テレパシー)』だけでは、全く要領を得ないイーサは龍王はひとまず、その魔族から話をきいておかねばならないだろうと決断するのだった。


(分かった。まだ魔人族と交戦状態にはなっていないんだな? 一度イルベキア軍を連れて戻ってきてくれるか?)


(ははっ! 分かりました。そのように伝えます)


 そこでヴァルーザからの『念話(テレパシー)』がきれた。


「まぁ慌てずとも魔人族とはいつでも戦争は出来るが……」


 そして『イーサ』龍王は別動隊として行動しているハイウルキア軍の『ガウル』龍王に、すぐに侵攻を中止するように念話を送るのであった。


 イーサ龍王は突然の出来事に首を捻りながらも『ヴァルーザ』達の侵攻をたった一人で止めたという()()()()に興味を持つのであった。


 ……

 ……

 ……


 イルベキア軍とは違う方角から魔人達を侵攻する為に進軍していたガウル龍王は、突然のイーサ龍王からの直ぐに帰還しろという通達を受けて、海の上で唖然とした表情を浮かべていた。


「い、一体何だと言うのだ! 事情もろくに説明せずに……! 進軍を命令しておいて戻ってこいだと!?」


 ガウル龍王はすでに魔人族を相手に派手に暴れまわるつもりだった為に、突然のイーサ龍王の命令であっても苛立ちを隠し切れなかった。更に言えば事情を説明せずに戻ってこいとの一言だけだったのである。


「馬鹿にするのもいい加減にしやがれ!!」


 ガウル龍王は他の種族たちの上に立つ種族として矜持を持ち、他の龍族たちよりもその事に固執しているといっても良かった。


 確かにイーサ龍王は自分達ブルードラゴンよりも優れた龍種『コープパルス・ドラゴン』である。まともに相手をして勝てる相手ではない事なのは分かってはいるが、それでも同じ『龍族』なのである。


 それをこんな他者を馬鹿にするような扱いを受けた事で『ガウル』龍王は黙っていられなかった。


「くそっ! 今にみておれよ。ヴァルーザだけではなく、イーサにもいつか……」


 そこまで声に出して口を閉じた『ガウル』龍王は、忌々しそうに海を眺めていたが、やがては仕方なく『ハイウルキア』全軍に撤退を指示するのであった。

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