627.全面戦争の前に
※加筆修正を行いました。
「実は私は龍族というのは今日初めてみたのですが、フルーフ様はこれまでに『龍族』を見たことはありますか?」
「ん? いや……。ワシも実は現物を見たことはないな。一番最初に『レパート』から移動した世界が『アレルバレル』の世界だったのでな。ワシの世界では『龍族』はもうおらぬし、それに『精霊族』などもみたことはないな」
「そうなのですね。成程……。しかし『龍族』を束ねる王とやらは、攻めてきた龍よりもっと大きいのでしょうか……」
これから一戦を交える事になるだろう龍族を相手にエイネからは、一切怯えというものは感じられない。むしろ初めて『龍族の実物』を見られたという事で子供のようにワクワクしており、興味津々の様子であった。
目をキラキラさせているエイネを見たフルーフは、レアに『魔』を説いている時を思い出していた。
フルーフがレアを家に迎え入れた時、誰にも心を開かないレアに苦労をした。
幼いながらに自分が両親に捨てられたというのを理解していたのだろう。
誰が声を掛けても無表情でこの世に信じられるものはないといった様子だった。
今思えばそれはレアなりに自分を守るための行動だったのかもしれない。
――『信用すれば必ず裏切られる』。
それならば誰も信用せずに近づかなければ傷つけられることは無い。そう考えていたのかもしれない。物心がつく前の幼き子供がその心理に至ったのである。一体どれ程の苦しみだっただろうか。
少しでも親から捨てられたという事を忘れさせてやりたい一心で、フルーフはレアを拾った時から必死に彼女を可愛がった。それなりに時間を要したが、彼女はようやくフルーフに心を許してくれるようになり、笑顔を見せてくれる機会も増えていった。
――フルーフは嬉しかった。
『魔』の研究に明け暮れてきたフルーフにとって、妻と呼べる女性や子供は居らず、レアを自分の本当の娘のように思えるようになったのだ。
魔法を教えた時のレアの表情は、今もフルーフは聡明に覚えている。その表情は今のエイネが見せている表情とよく似ていた。
――『フルーフ様、魔法ってすごいですね!』
そう告げた時のレアの表情は、出会った時の胸が締め付けられるような無表情ではなく、年相応の子供が気に入った玩具を手にして目をキラキラさせて喜んでいるような笑顔だった。
フルーフは嬉しくなってしまい、ついつい自分の知り得る『魔』の知識を次々レアに教えて行った。飽きる素振りも見せずにフルーフに教えられたことをレアは、一生懸命覚えようと努力を続けていた。魔法を使うのに失敗してもめげず、毎日繰り返して練習を続けて出来るようになっていく。
フルーフはそんなレアを褒めようと何度も考えたが、何度も喉から出かかっている『よくやった』という言葉を出すのを堪えた。
どうせならばレアが自分の力でもっと大きなことを成し遂げた時、フルーフは最大の賛辞を送ってあげたいと考えたのである。そしてフルーフはそんなレアに、サプライズを仕掛ける準備を始めた。
元々別世界というモノに興味があったフルーフだが『概念跳躍』という一つの魔法を『レアの為だけに』完成させたいと思ったのである。
そしてレアにその魔法で別世界へ行かせて世界を統治させて、自分だけで生きていける力を身につけさせた上で、これまでの全てを褒めてあげようと考えたのである。
世界はとても素晴らしいものだと分かってもらいたい。閉じこもっているだけでは手にする事が出来なかった世界を理解してもらいたい。そして最後には、よくやったと褒めてあげたいとフルーフは考えていた。
――ただ、それだけだったのである。
しかし現実は再びレアに『親』に捨てられた気分を思い起こさせてしまっている。
フルーフはどれだけ後悔をしてもしきれない。
「フルーフ様……?」
フルーフは目の前で龍族の事を想像してワクワクしているエイネの姿を見て、自分が無意識にボロボロと涙を流している事に気づいた。
ごしごしと袖で涙を拭き必死に誤魔化そうとするフルーフを見たエイネは、慌てて持っていた布を差し出した。
「む……。すまぬ……、すまぬな……」
フルーフはエイネから布を受け取り、再び涙を拭うのだった。
エイネはそんなフルーフの様子を見て、自分だけが辛い目にあっているのではないと改めて自覚する。
――そうなのだ。
リーシャと引き離されて悲しい思いをしているのは自分だけではなく、目の前で泣いているフルーフやレアも同じなのである。
エイネは一刻も早くこの世界でやり残したことを終わらせて、二人を会わせてあげたいと強く決心するのだった。
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