619.女帝エイネ
※加筆修正を行いました。
龍達は空を旋回するようにクルクルと周りながら、入れ替わり立ち代わりエイネに攻撃をし続ける。どうやら先程エイネに『同胞』をやられた事で龍族達は相当に苛立っている様子であった。余程に魔族程度に仲間がやられた事は許せなかったのだろう。
既にこのアサの世界の魔族であれば、何度やられているか分からない程の攻撃密度である。ようやく気がすんだようで龍族達は攻撃をやめた。
魔族達の駐屯地であった場所は、燃やし尽くされて何もなくなっていた。
空を飛んで眺めていた龍たちは笑みを浮かべる。
その顔は『魔族如き』が龍族に刃向かうと、こうなるのだといわんばかりであった。
だが、その勝ち誇った顔を浮かべていた龍は徐々に表情を変えていく。ゆっくりと地上から浮上してくる存在を見たからである。
エイネは無表情のまま、驚いた様子で居る一体の龍族と同じ空の高さまで上がってくると、静かに口を開いた。
「中々激しい攻撃だったわね。同胞をやられた怒りが込められているようだったわ」
エイネがそう言うとどうやら魔族の言葉を理解しているのか、その龍は唸り声をあげる。どうやらエイネの言葉に再び怒っている様子だった。
「でもね。同胞をやられて腹が立つという感情は、貴方たち龍族だけじゃない」
キィイインという音と共に、エイネの両の目が金色へと変貌していく。
エイネの纏う『二色の併用』のオーラは、コンマ数秒で最大値まで上昇し終える。全ての『魔力』を外には向けずに能力向上を果たすエイネには『漏出』を使っていない龍族達は彼女の変化に気づかないだろう。
しかしそれでもエイネの言葉に、苛立つ様子を見せていた龍はどうやらエイネは手を出してはいけない存在だったのだとようやく気付いたのだろう。
そしてそんな龍族の周囲には続々と他の龍達が近づいてくる。
様子がおかしい同胞を心配して、そして憎き魔族を葬ろうと集まってきたのだろう。
「貴方たちに戦争をやめろというつもりはないわ。これまで通り龍族共はこれからも魔人たちと争っていればいい」
エイネは魔力を『スタック』させていく。次に『発動羅列』を高速で書き出した後に詠唱を開始した。
――次の瞬間。
エイネの身体から次々と具現化された鎖が浮かび上がり、エイネの目が瞬いた瞬間にその空に居る『全ての龍達』に向かって鎖は伸びて行った。
その空に居る『全て』の龍族に鎖が巻き付いたかと思うと、ガチリという音と共に、ロックされる音が鳴り響いた。
「でもね? この私の前で同胞を殺せば、お前達はいとも容易くその命を落とすという事を理解させてあげる」
龍達は自分が捕食される生物の立場だとようやく理解して、慌ててその場から飛び立とうと必死になって暴れ始める。しかし数百という龍族達はその誰もが一歩も動く事が出来ない。
龍の姿をした巨大な体を縛るたった一つの細い鎖は、龍達が動く事を拒絶している。
――彼女はこのアサの世界の魔族ではない。
大魔王ソフィが選んだ『アレルバレル』の世界で、たった九人しか居ない最高幹部にして『大魔王最上位』領域に生きる存在。
――『九大魔王』にして『女帝』の異名を持つ大魔王『エイネ』。
たかだか戦力値数億前後の龍族が、戦力値にして1000億を優に越える『大魔王』を相手に勝てる道理はなかった。
――絶技、『生命吸鎖』。
次の瞬間には、この場に居る全ての龍に絡みついている鎖が発光したかと思うとあっさりと鎖は消えた。
自由の身になった筈の龍達は白目を剥き、そのまま次々と空からバタバタと地に落ちて行った。その様子を冷酷な目で見つめ続ける『女帝』だったが、魔瞳『金色の目』を解いた後に一度だけ駐屯地があった場所を見る。そして溜息を一つ吐いて同胞達を想い、悲しそうな表情を浮かべるのだった。
龍族の手によってその命を奪われた魔族達は『魔王』領域ですら無い為に『代替身体』など用意できる魔力はない。
つまりこの場に居たエイネを除く魔族は、全員が例外なく命を落としたのだった。
「さて、これからどうしようかしら……」
やがてそう呟いたエイネは、フルーフの眠るコテージに向かうのだった。
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