618.九大魔王であるという矜持
※加筆修正を行いました。
『アサ』の世界にある魔人族の大陸でフルーフの看病を続けるエイネは、今後どうフルーフを匿うかで悩んでいた。
今居るこの場所は魔人族の軍のとある駐屯地から少し離れた場所にある。本来は魔族であるエイネは、このように自由に一人だけ離れて生活は出来ない。魔人族の幹部であるならばまだしも彼女は『魔族』である為である。
しかし女帝は必要な時だけ『金色の目』を使い、上手く軍の中を立ち回って生活を続けていた。今後も元の世界へ戻る手立てを見つけるまでは、余り目立たずに居なければならない。
だが、フルーフを匿いながらとなると今まで通りというワケには行かないだろう。
その都度『金色の目』を乱用しなければならなくなるだろうし、そうなればどこかで確実に綻びが生じる。隠蔽や作戦の成功の秘訣とは、ここぞという時に秘密を用いるからこそ、長期に渡って誤魔化す事が出来るのである。
常に『金色の目』という秘密を使っていれば、それはもう秘密でも何でもない。そして粗が目立てば綻びは大きくなり、最後は全てがバレてしまうだろう。
もしそうなればこの世界を相手に戦う必要が出てくるかもしれない。最悪のケースを想定すれば『エイネ』が『アサ』という世界を束ねる事になるかもしれないのだ。
『アレルバレル』の世界へ戻る方法が見つかれば、すぐにでもこの世界を出ようと考えているエイネに『世界を支配する者』を務める事は出来ない。
それに世界を荒らしまわって、何の責任も取らずに出ていくような真似をすれば、それはソフィの魔王軍の『敵』である『煌聖の教団』と何も変わらない。忠誠を誓った彼女の主である『大魔王ソフィ』を裏切る事と同義となるだろう。そんな事は誰よりも自分が許せない。
女帝エイネは『九大魔王』である。
今の彼女の生きる意味。その存在意義は、忠誠を誓った大魔王ソフィや尊敬する他の九大魔王と共に在る事。一つの世界で暴れて荒らしたまま、責任をとらずに去るような真似をするくらいならば、彼女は自らの首を跳ね落とす事を喜んで選ぶ。
「全く困った事になったわね。でも彼はソフィ様の大切な友人だし、見捨てるわけにはいかないわね」
エイネはフルーフの顔を見ながらブツブツと独り言つのだった。
そこに遠くない場所から爆音が鳴り響き、コテージ全体がユラユラと揺れる。
「!」
エイネは走って窓のある場所まで向かい『金色の目』を使いながら外の様子を見る。すると魔族達の駐屯地があった場所が、轟轟と燃えているのが見えた。
そして空には数百を越える龍族達の姿があり、次々と上空から火を吐いている。
「ちっ! こんな時に面倒ね……」
次々と魔族達が空に居る龍族達に中規模の『超越魔法』を放っているのが見える。しかしこの世界で魔族と比べて上位種族である龍族と魔族では戦力値に開きがありすぎる。
このままであればエイネが所属する班の魔族は全滅となり、エイネが戦争に参加せずに傍観を続ければ、魔人族からどんな事をいわれるか分からない。そうなると下手をすれば彼女は生き残る為に、仲間である魔人族を滅ぼす未来を手にしてしまう事になるだろう。
「仕方ない……。私が戻るまで目を覚まさないでね。フルーフ様」
エイネはそう言い残すと、顔をあげてコテージの外へと駆け出していった。
……
……
……
エイネが魔族達の駐屯地まで辿り着くと、この拠点の魔族達はほぼ壊滅していた。
恐らく魔族側は龍族達に攻撃を受けた事で速やかに魔人族達に連絡はとったであろうが、魔人達はこの場にただの一体も姿を見せてはいない。
――この拠点に居る魔族達は、魔人達に切り捨てられたのだ。
この世界の魔人達にとって魔族達は、同胞でも仲間でも何でもない。所詮は使い捨ての駒のようなもので、弾除けにでもなれば御の字程度にしか思っていないだろう。
私はこの世界に跳ばされてきたばかりであり、この世界の魔族達とは親しくはなかった。しかしそれでも私は彼らの笑顔を知っている。魔人達にいいように扱われているというのに、いつか戦争で龍族を倒した暁には魔族達の住める土地を譲り渡すと告げられて彼らは喜んでいた。
どうせ口先だけの言葉だろうが、その言葉を信じて希望を抱き笑いあっていた魔族達。
襲撃されても健気に戦い、必死に魔人達に連絡を取り、加勢に来る事を望んでいたのだろう。しかし全滅しているというのに、魔人達はただの一体も姿を見せはしなかった。
戦争である以上は数には限りがあるのだから勝ち目のない拠点を切り捨てるのは作戦上、当然かもしれない。
だから別に私は魔人族に対して、思う事はあれども手を出すつもりもない。これも戦争であれば、当然の事だからだ。
そして更にいえばここでエイネは、今も駐屯地を燃やしている龍族達に手を出すべきではないだろう。当初の予定通り、元の世界へ戻る為の算段を見つけるには目立つわけには行かない。
魔族しか居ないこの場所で数百の龍族達が死滅してしまえば、否応にも龍族達にも魔人族達にも露呈してしまう。
だからエイネはここで魔族を見捨てて、フルーフの居るコテージへ戻る事が一番なのだ。
この場に居た魔族は龍族達に全滅させられた。
――ただそれだけの事である。
同じ魔族とはいっても違う世界なのだから、彼女はここは見て見ぬふりすればいい。戦争に犠牲はつきものなのだから。
――そこまで考えて『女帝エイネ』は笑った。
「同胞が殺されて無視なんて出来るワケないわよね」
エイネはそう言うと『青』と『紅』のオーラを同時に纏い始める。
空を飛んでいた一体の龍は、駐屯地で光に包まれた『魔族』を見つける。そしてその龍は『エイネ』に向けて火を吹いた。最上位魔族であっても骨も残らない程の灼熱の炎がエイネの身体を襲う。
この世界の龍族達にとっては『魔族』など敵ではなく塵のような存在である。自身の放った火で確実に仕留めたと確信して『エイネ』の死体の確認などをせずに、そのまま飛び立とうとするが――。
――神域魔法、『天雷一閃』。
まさにそれは一瞬の閃光。
エイネに向けて火を吹いた龍族は、空で雷に撃ち抜かれてやられた事に気づく間もなく消し炭となった。空を飛翔していた龍族達は、一斉に同胞がやられた事に気づき、その原因となった存在を探し始めたかと思うと、やがてエイネをその目に捉える。
そして数百と居る龍達は、照らし合わせるかのように、一斉に目下のエイネの元に火を吹くのだった。
……
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