585.唐突な出来事
※加筆修正を行いました。
「どうやら上手くいったようだな」
ミラはこの場に現れたヌーと、ルビリスの二人の顔を見ながらそう呟いた。
「既に魔神はこの世界から去っていますので、どうやら作戦は成功でしょう。彼は本当に良くやってくれました」
ルビリスは首を縦に振りながら、役目を終えた大魔王『ラテール』に感謝をする。
「それでどうなんだ? 上手く行ったんだろうな」
ギロリと鋭い目をしてミラを睨みつけながら、ヌーはドスの利いた低い声で言った。
「ああ『時魔法』の無力化までは得る事が出来なかったが、今の私は十分にエルシスを越えたと確信が出来る。いくら化け物が、魔神と渡り合える力を持っていたとしてもこの私も同じ『魔神の力』を得たのだ。このまま戦っても問題は何も無いだろう」
ミラの言い分では、まだ自らを高められると、そう言っているように聞こえるヌーであった。
「チッ! まあいいだろう、信用してやる」
もしこれで何も成果を得られなかったとミラが言っていたならば、先程の裏切りと呼べるような行為を行ったミラに対して不満をぶつけていただろうが、成果を得られたと自信をもって告げられた以上は信用する事にしたヌーだった。
「それではミラ様。このまま『アレルバレル』の世界へ向かいますか?」
ミラとヌーの会話が一区切りしたのを確認した『ルビリス』は主に向けて口を開く。
「そうだな『ユーミル』からあの『化け物』の事に関しての知らせがないという事は、まだ元の世界へは戻っては来ていないのだろう。一度ユーミル達と合流しておくとしようか」
「分かりました。それでは『概念跳躍』の準備を始めます」
すでにもう大賢者『ユーミル』がやられてしまったという事を知らないミラは、大魔王ソフィがすでに戻ってきている『アレルバレル』の世界へと、向かおうとするのだった。
――しかしそこで、イレギュラーの事態が起きるのであった。
「むっ!?」
何と操られていた筈のフルーフが、突如意識を取り戻したのである。
「!?」
流石にルビリスだけではなく、ミラやヌー達ですら驚きで苦しみ始めた『フルーフ』に目を奪われて注目させられる。
「おいミラ! どういう事だ、説明しろ」
まだ自我を完全には取り戻してはいないが、フルーフの虚ろな目に光が灯り始めている。このままでは数秒程で、本来のフルーフが目を覚まして意識が戻るだろう。
すぐにミラの目が金色になり、再び『フルーフ』を支配下に置くために操ろうとするが、魔瞳『金色の目』を使ってみても『フルーフ』には、効いているようには見えなかった。
まるで『魔神』に『時魔法』を無力化されているような印象を受けるミラであった。
「私にも分からん。何故いきなりこうなった? 抵抗力が増したというのか? それとも魔神の影響なのか?」
ブツブツと独り言へと変わったミラを見て、ヌーは苛立ちを隠し切れない。
「おい! どうするつもりだ。もうこいつは用なしなんだろう。今の内に消し飛ばすか?」
金色のオーラを纏わせながら、ヌーは膨大な魔力を使った『スタック』を始める。どうやら『極大魔法』を放つ準備をしたのだろう。
「いや待て、ヌーよ! こいつはまだ消すな。魔神から得た力から更に『新魔法』を創らせる必要が出来た!」
フルーフを消し飛ばそうとしていたヌーは、その言葉に舌打ちをしながら『スタック』をキャンセルする。
「だったらどうするつもりだ? このままだとコイツは、意識を戻してしまうぞ」
「……」
冷静にミラは思考を始めるのだった。
「おい!」
しかしヌーは急に黙り込んだミラを見て、再度苛立ちをぶつけるのであった。
「ルビリスよ『アレルバレル』の世界へ向かうための『概念跳躍』だが、ひとまずは中止しろ」
「え!? は、はい!」
ルビリスはミラの命令により『概念跳躍』の準備をキャンセルするのだった。
――神聖魔法、『聖動捕縛』。
ミラは意識が戻りつつあるフルーフに向けて、完全に無力化させる魔法を放った。
「これでひとまずは、こいつの今後の動きは封じられた筈だ。一度イザベラ城へ戻るぞ」
ルビリスは直ぐにミラの命令に従い、意識を失っているリベイルを担ぎ上げる。
青筋を立てながらヌーはミラを睨みつけたが、他にどうする事も出来ないと考えて押し黙るのであった。
こうして突然の出来事によって『アレルバレル』の世界へと戻ろうとしていたミラ達は、生物が少なくなった『ダール』の世界に留まる事となった。
――しかし苦しくも『フルーフ』が意識を取り戻そうとした事により、ミラ達は準備を整える前に、大魔王ソフィがすでにいる世界へと向かわずにすむというある種の幸運を手にするのだった。
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