527.ソフィVSレキ3
※加筆修正を行いました。
「おいおい、あれのどこがダメージを負っているんだよ。あれはまるで無傷じゃねぇか。いや、これはやっちまったか? こんな身体で挑んでいい相手じゃねぇな。アイツは間違いなく、かつての俺の側近と同等か、もしくはそれ以上の大魔王だ。これは潮時だな……」
レキは予想を越える相手どころか、想像を遥かに越えたソフィに、苦笑いを浮かべながら溜息を吐くのだった。
「『無限の空間、無限の時間、無限の理に住みし魔神よ。悠久の時を経て、契約者たる大魔王の声に応じよ、我が名はソフィ』」。
ソフィは『アレルバレル』の世界で、数々の大魔王達を絶望させた『詠唱』を始める。
――その詠唱こそは『魔神』をこの世に出現させる為の『詠唱』である。
そして『リラリオ』の世界の空間に亀裂が入ったかと思うと、見目麗しい『力の魔神』が『世界』に体現を果たすのだった。
「あ、あれは……、まさか……!?」
現れた『力の魔神』にレキは目を奪われる。
「さぁ、再開といこうか」
魔神を従えたソフィは再び戦闘態勢に入り、魔神の方を見つめ続けるレキに告げる。
「まさかもう一度会えるとは思っていなかったぞ。再び俺の前に姿を見せた事を後悔させてやるぞ! クソッタレの魔神めぇっ!」
「――?」(あいつは何を言っているの?)
「我にも分からぬがアイツは、お前を見た瞬間に先程より更に『力』が上がっているようだ。どうやらお主に並々ならぬ思いがあるようだが……」
「――」(愚かな……。矮小な塵芥が誰に向けて気分の悪い視線を向けておる)
そう言って『力の魔神』は神格を有する神に向かって、殺意を向けているレキを睨み返した。
「クックック! 悪いがあやつとは先に我が戦っていたのだ。お主であっても手を出す事は許さぬぞ? さあ、そんな事よりも我の『魔力』を返してくれ!」
ソフィはそう言うと、再び『三色併用』を纏い始めたレキを見て、再び笑い始めるのだった。
……
……
……
その頃『ラルグ』の塔の会議室で『ディアトロス』と『イリーガル』は『レヴトン』にヴェルマー大陸の各国の情勢を教えてもらっていた。しかしそこでソフィが急激に魔力を上昇させて、魔神を出現させたことを感知をするのだった。
「ディアトロス殿! 流石にこれは異常事態だ。俺達もすぐに向かいましょう」
「うむ。直ぐに『リーシャ』と『ブラスト』に……。いや、リーシャに『念話』を送り向かうとしよう」
「ブラストはリーネ様の傍を離れさせるわけには参りませんからね」
「その通りじゃ!」
イリーガルはすぐにレアと一緒に、キーリの看病を続けるリーシャに事情を『念話』で説明をする。
そしてディアトロスは、自分達がソフィの元へ向かうという旨をブラストに話そうとしていたが、あの聡明なブラストであれば、これ程の異常事態であれば自分が何をなすべきかという事に思い至ってこちらの事は任せて、自身はソフィの妃となった『リーネ』様の護衛をするように動くだろうと彼はブラストを信頼するのだった。
「あの……。一体どうしたのでしょうか?」
レヴトンだけがこの場で何が起きたのか分からず『念話』で話していたディアトロスに話しかけるのだった。
「すまぬレヴトン殿。ワシ達は少し緊急の用事が出来てしまった。こちらから頼んでおいて誠に勝手なのじゃが、話はまた別の機会にじっくりと聞かせてもらえるだろうか?」
「は……? あ、ええ。それはもちろん構いませんが……」
「こちらから押し掛けておいてすまぬな! では悪いが本当に急ぎなのでな。失礼する」
「わ、わかりました……っ! えっ!?」
レヴトンが返事をしたと同時に『ディアトロス』と『イリーガル』はその場から一瞬で『転移』していくのだった。
「き、消えた……!?」
『転移』という『魔王』階級以上が使う高等技術を見た事も聞いた事もない『レヴトン』は、その場から突然に姿が消えた『ディアトロス』達を見て、驚きの声をあげるのだった。
………
……
…
トウジンの医務室では、イリーガルから事情を聞かされたリーシャがレア達に説明をして、そのまま廊下を出て行った。リーシャの説明を聞いていたラルフはベッドから降りて、ユファ達と顔を合わせて頷きリーシャの後を追いかけ始める。
そしてラルフが医務室を出ようとした瞬間。ラルフの首に恐ろしく早い手刀を落とされて、一瞬で気を失わされるのだった。
「あんた……。これはどういうつもり?」
ラルフの背後に居たユファは、崩れ落ち掛けたラルフの身体を必死に支えながら、リディアを睨みつけて怒りの声をあげる。
「今アイツの元へ向かうのは止めておけ。俺やお前であっても危ないと思える程なんだ。そんな容体の奴が、あんな死地に向かったところで死ぬだけだぞ」
リディアがラルフの身を本気で案じている様子を感じ取って、一体何が起きているのだと眉を寄せ始める。
「アンタがこの子の事を案じたのは分かった。でも何が起きているのか分からない以上、私はこの子に手を上げたアンタに納得が出来ない。全てを詳しく説明しなさい」
「ちっ! 仕方あるまい」
リディアは舌打ちをしながら、ユファに事情を説明するために医務室の中へ入るのだった。
……
……
……
レキは先程の魔法でかなりの魔力を失った。そしてソフィの魔力が膨れ上がったのを見て、この場から離れようと考えていたが、ソフィが魔神を呼び出したのを見た瞬間に、魔神への私怨を優先して戦う事を選んだのだった。
再び『紅』と『金色』の目に変えながら『レキ』は、魔力コントロールを完全に行う為の精神統一を始める。
――どうやら先程と同じ戦術をもう一度使うつもりのようだった。
(次だな。次にこの形態で我が押し切られるようであれば、アレを使う……)
ソフィはレキの力を試金石にして、自分の普段抑えている『本当の力』を開放する覚悟を持つのであった。
ソフィが思案を続ける横で『力の魔神』はずっとレキを睨みつけている。
この世界の『ミールガルド』大陸で、ソフィと戦ったゴスロリ服を着ていた『スフィア』や、龍族の王『キーリ』と戦った時のような表情ではなく『レキ』を見る魔神の目は真剣そのものだった。
…………
力の魔神はソフィを通してでしか『リラリオ』の世界に姿を見せた事はないため、自分を恨むような視線を向けてきた『レキ』の存在などは本当に知らない。
しかし魔神はこの何やら勘違いをしている魔族に対して、どこか侮ってはいけない存在なのだと認識をするのだった。
――そう。それは何処かで自身の主となった『大魔王ソフィ』に近しいモノをあの魔族から感じていたからであった。
そしてそれを認識した事で更に『魔神』は不機嫌を露にするのだった。
「――!」(これは勘違いよ! 全く忌々しい……! 下界の単なる塵芥の存在の癖に!)
どうやら完全に準備が整ったであろうレキが『魔力』を増幅させながら軸足に力を入れ始める。あと数秒でソフィの元へと攻撃を仕掛けるであろう。
魔神はソフィに手を出すなと命令をされたために、今すぐにあの魔族の相手をするつもりはない。そもそもソフィの楽しみの邪魔をする事は、ソフィの命令の有無度外視してでも避けたいと考えていて、ソフィが喜ぶ事を最優先にと考えている魔神が、このソフィの嬉しそうな顔を見ていて手を出す筈もなかった。
――しかしこの『レキ』とかいう魔族に対して、どこか嫌な予感を覚えた魔神は、万が一の場合は命令に背いてでも『ソフィの盾』となろうと決意するのだった。
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