436.クッケの街、冒険者ギルドへ
※加筆修正を行いました。
クッケの街に入ると門の入り口で揉めていたのを見ていたのだろう者達が、じっとソフィ達を見ていた。
「まずいわね。騒ぎが大きくなると面倒よ」
「ふーむ。そうだな。ラルフ達を待たせておるし、仕方が無いか」
ソフィがそう言うとソフィの目が『金色』に変わる。
――それは魔瞳である『金色の目』であった。
次の瞬間にはソフィ達に声を掛けようとしていた者達が、一斉にソフィ達が見えなくなったかの如く、そのまま通り過ぎていく。
「え? ソフィ、一体何をしたの?」
「少しばかり精神を操って我らを認識出来ないようにしたのだ。これで大丈夫だろう」
「そ、そう。それは、その……、便利なのね?」
まぁソフィなら何を起こしても不思議じゃないと、思う事にするリーネであった。
……
……
……
ソフィ達を一目で『破壊神』と気づく者はそれ以降は現れず、入り口の揉め事を見ていた者達以外は、操らずに済んだ。
そしてようやくソフィ達は『冒険者ギルド』のマークが見える建物の前まで到着するのだった。
ギルドの中に入ると、受付のお姉さんが目聡くこちらを見つけ声を掛けてきた。
「いらっしゃいませ」
ソフィ達は周りを確認するがどうやら今は暇な時間のようで、受付に並んでいる者もいなかった。
「あまり人は居ないようだな」
「そうね。まぁ『サシス』のような大きなギルドじゃなければ、平常時のギルドはこんな感じよ」
「まぁちょうどいい。早速報告を済ませようか」
リーネがこくりと頷くと、ソフィ達は受付窓口へと向かう。ソフィ達を見ていた受付嬢が、にこりと感じのいい笑みを浮かべて口を開いた。
「ようこそ当ギルドへ。本日はどのようなご用件でしょうか」
「うむ。我らは頼まれた依頼を終わらせたのだが、報告はここでよいだろうか?」
「はい、構いません。頼まれたという事は、どなたかの指名依頼だったのでしょうか?」
「うむ『エイル』から『ギルド指定A討伐依頼』を受けたのだが、討伐というか『トータル』山脈にはもう出現はせぬから、一応の報告をしておこうとな」
そこまでソフィが話したが、生憎と受付嬢はきょとんとした表情を浮かべるのだった。そして何一つ分からないと言った様子だったが、ソフィが『ギルド指定A討伐依頼』と言った事で、ギルドでも御触れを出していた『ベイル・タイガー』の存在を思い出して、その受付嬢はようやく理解をしたようだった。
「え……? 当ギルドで現在討伐、依頼を出している『指定Aの魔物』は『ベイル・タイガー』ですが、そちらでお間違いはないでしょうか?」
「うむ。その『ベイル・タイガ』であっておるよ」
受付嬢は目を丸くしながら、ソフィとリーネを交互に見る。
「そ、その誠に失礼なのですが『冒険者ライセンス』を提示して頂いても宜しいでしょうか?」
ソフィ達は頷きを見せると『リーネ』が先に受付嬢に提示する。そして先程探ったローブの中をもう一度漁り、ようやく目当ての『ライセンス』を発見したソフィは満足顔を浮かべて提示するのだった。
「こ、これは!? しょ、少々お待ちくださいませ!!」
そう言い残してギルドの受付嬢は、慌てて窓口から奥へと引っ込んでいった。
「ねぇソフィ。誰から受けた指名依頼かを話すのはいいと思うのだけど『エイル』と伝えるだけじゃ、誰の事か分からないんじゃないかしら?」
「そうか『ルードリヒ』国王と呼んだ方がよかったか?」
「まぁ、ギルド長か誰かを呼んでくるでしょうから、そこで改めて伝えればいいわね」
「そうだな。しかし『ベイル』達を移住させるのを討伐依頼としては成功なのだろうか?」
「どうなんだろうね? その辺もしっかりと聞いておいた方がよさそう」
「うむ」
そんな事をソフィ達が窓口で話していると、受付嬢が誰かを連れて戻ってきた。
「お待たせ致しました。どうぞこちらへお入りください」
出てきた男はギルドの窓口の横の天板を上げて、ギルドの奥へと入るようにソフィ達を促す。
「うむ。失礼する」
ソフィとリーネが奥へと入っていくのを唖然とした表情で見送る受付嬢だった。
(ほ、本物の『破壊神』だわ! さ、サインとかもらえないかしら!)
……
……
……
その頃『クッケ』と『トータル』山脈の間にある森でソフィ達の帰りを待つラルフは、ベイル達が大人しく座っているのを確認しながらレアに話しかけるのだった。
「それにしてもレアさんは『代替身体』の状態らしいですが、本物の身体とはやっぱり違う感じなのですか?」
「ん? そうなのよぉ。何をするにしてもこの身体とは全然感覚が違うわねぇ」
そう言ってレアは立ち上がり『青』を纏い始めるのだった。
恐ろしくスムーズに使われた事で隣に居たラルフは、ぎょっとしながらレアを見る。
「力の使い方は変わらないんだけどね? 『魔』のコントロールに少しだけ違和感を感じるというか。無意識に前の体に合わせた魔力コントロールを行ってしまうから、この身体の総魔力が少ないせいで齟齬が生じて、使いたい力が少しずれちゃうのよねぇ」
「成程。それでは確かに馴染むまでは、戦闘などを行う時に手加減といったモノが難しそうですね」
レアはそう呟くラルフの顔をじっと見る。そのレアの視線に気づいたラルフは顔を上げる。
「どうかなさいましたか?」
「あなた……? もしかしてレパートの世界にある『理』を使っている?」
「どうしてそう思われたのですか?」
レアは何かを観察するかのように、ラルフの顔を見たまま口を開かない。
「使えますよ。貴方と同郷であらせられるユファさんに弟子入りしましたので」
ラルフがそう言うとレアはようやく、合点が言ったとばかりに嬉しそうに頷いた。
「ああ……! それでなのねぇ。貴方が無意識に身体に纏わせている『障壁』があるじゃない? それは私達の世界の『理』の魔法なのよぉ! 貴方凄いわねぇ? 簡単な魔法とはいっても、別世界の『理』の基本魔法を会得出来るのはとても凄い事なのよぉ?」
レアは過去のレイズ魔国の女王『エリス』に『理』を教えた時でも、今ラルフが纏っている障壁一つでさえ相当な時間を要した。
世界の違う『理』は、扱う魔法が難しければ難しい程時間が掛かるが、たかが初級の魔法であっても、簡単に覚えられるモノではないのである。
「誇っていいのよぉ? あの『魔』に対して異常に厳しいユファが、他人に『魔』を教えるという事は、それ相応の期待を寄せている証拠だからねぇ」
「そ、そうなのですか?」
ラルフはレアの言葉に驚く。
「あの先輩はね? 今でこそだいぶ柔らかくなったけど、フルーフ様の魔王軍に居た頃は、それはそれはこわぁい鬼みたいな魔女だったのよぉ?」
両手を頭の上に持っていき、鬼の真似をした後に手を口元に持っていったかと思えば、クスクスと子供が悪戯などを成功した時に見せるような笑いをする。
「宜しければその時のユファさんの話を聞かせていただいても構いませんか?」
どうやらラルフもユファの過去に興味を持ったのだろう。前のめりになってそう口にする。
「何よぉ、アンタも話が分かるわねぇ? 勿論いいわよぉ? あの先輩はねぇ……」
レアとラルフが雑談をしている横で、ベイルは犬がするような伏せの態勢で欠伸をするのだった。
……
……
……
『ブックマークの登録』や『いいね』また、ページの一番下から『評価点』を付けていただけると作者のモチベーションが上がります。宜しければお願いします!




