420.感謝の言葉
「ところでレルバノンさん? 私も冒険者になれるかしらぁ?」
お腹を擦りながらようやく『ユファ』に殴られた痛みが和らいできたところで、レアがレルバノンに尋ねるのだった。
「冒険者に? ええ、もちろん直ぐにでも書類等々はご用意させていただきますが、冒険者になって何かなさりたい事が?」
「私はソフィ様にこのヴェルマー大陸の発展に尽力するようにと命令されているのだけど、まずは自分が仕掛けた戦争によってこの町にも多大な迷惑をかけてしまったようだから、せめて建物の修繕くらいはさせて欲しいのよぉ」
先程ユファと話をしていた事をレアは再び口にする。
「成程。この町への復興支援及び、大陸の繁栄の為ですね。分かりました、すぐに冒険者への手続きを行わせていただきましょう」
「ええ、お願いねぇ」
「詳しい事は書類事項の記載の際にお話しさせていただきますが『トウジン』魔国には『闘技場』という施設がありましてね。冒険者ギルドに所属している冒険者のランクが一定以上あれば参加できますので、もしレアさんもご興味がございましたらですが、一度『闘技場』へのご参加もご検討下さい」
レルバノンの『闘技場』の説明に興味を惹かれたレアは、行ってみたいなと思うのだった。
しかしそこで横に居るユファが、レアの肩に手を置く。
「さて、闘技場はまた今度ね? 今から貴方はシスの元へ行くんだからね」
「わ、分かってるわよぉ、でも一度行ってみたいなぁ」
「はいはい。どうせ今は復興作業で開いていないからさ。また今度ね?」
ユファは余計な事を言うなとばかりにレルバノンを睨む。レルバノンはその視線に両手をあげて首を振った。
どうやらユファが闘技場のボスをやっている事をレアに知られたくはなかったのだろう。
闘技場には報酬があるために『レア』がそれに気が付けば、また何か悪巧みでも考えそうだと『ユファ』は考えたのだった。
「それじゃ私達は『レイズ城』の方へ行くわね? 忙しいところに悪かったわね」
「いえいえ。私達はもう『仲間』なのですから、いつでも気兼ねなくお越しください」
レルバノンがそう言うとユファは数秒ほどレルバノンの顔を見ていたが、やがて薄く笑って頷くのだった。
「ええそうね。また来るわね。ありがとう『レルバノン・フィクス』」
ユファがそう言うと『レルバノン』はニヒルな笑みをユファに向けた後に出口まで歩いていき、ドアの取っ手を持ちながら頭を下げるのだった。
「それではまたのお越しを。ユファ様、レア様」
どうやらそう挨拶する今は、ギルド長としてのレルバノンという事なのだろう。
二人はそれを理解した上で、何も言わずにギルドルームを出ていった。
誰も居なくなったギルドルームで、ぽつりとレルバノンは呟く。
「この世界の伝説の魔王が、生きる伝説であるソフィさんの配下ですか。また何か起こりそうな気がするのは、私だけでしょうか?」
レルバノンはその言葉を最後に、再びギルドの業務へと戻るのだった。
……
……
……
「さて、それじゃあレイズ城へ向かうわよ」
「セレスちゃんの娘のシス。だったわよね?」
「ええそうよ。そういえば貴方にとっては『シス』より『セレス』女王の方が親しかったのよね?」
「うん、そうね」
「?」
唐突にレアが落ち込むような素振りを見せたが、何も言わずレアを見つめるユファであった。
(セレスちゃんを頼むように告げたラクスちゃんはどうやらもう、この世界には居ないようねぇ)
魔人の寿命は人間とは比較にならない程長いために、当然この時代でもまだ生きていても可笑しくはない。しかし、その魔人ラクスの姿がないと言う事は、すでに寿命ではない他の理由で、この世界から去ってしまっていると言う事である。
レアは最後にラクスにキスをして、別れた時の言葉を思い出す。
――セレスちゃんをお願いね?
レアがラクスに言い残した言葉を『ラクス』はしっかりと守ってくれたのだろう。何が原因でラクスが居なくなってしまったかそこまでは分からないが、あの子は私と同じ目をして、そして健気で必ず約束を守ってくれるいい男だった。
この時代にセレスの子が生きていて、そしてユファがこの時代に訪れていた時には、セレスはしっかりとこの国の女王となって生きていたと言っていた。
――あの子は私の約束を果たしてくれたに違いないのだろう。
(※356話『魔王レアのファーストキス』)。
「レア、行きましょう?」
「うん……」
(ラクスちゃん……。ありがとねぇ?)
心の中でそう告げて、魔人ラクスに感謝をする魔王レアであった。
※ラクスに修行をつけてあげていた時の事を思い出して、少しだけレアは当時の『リラリオ』の世界を思い出して寂しさと感謝を覚えるのでした。
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