410.大魔王領域同士の真っ向勝負
※加筆修正を行いました。
「いきますよ! レアさん!」
エイネにはレアの攻撃を封じる手立てが二種類ある。汎用性に優れている『金色の目』と、自身の武器である『武魔吸鎖』である。
前者である魔瞳『金色の目』は、相手の行動自体を止めさせるだけではなく、相手の詠唱有の魔法を遅延させたり、逸らさせたりとあらゆる局面で役に立つ技法である。
そしてもう一つの封じる手立てである『武魔吸鎖』は、レアの魔力をそっくりそのまま吸収することが出来る上に『理』の違う魔法すらも跳ね返す事が可能なのであった。
つまりレアの身体に鎖を巻き付けられてしまえば、この試合ではもうレアに勝ち目はないとみてもいい。しかし今までの演習で、自身の魔力の使い方や、戦い方といった事を学んできたレアも負けてはいない。
今のレアには『大魔王』の戦い方が可能となっており、更には『金色のオーラ』という他者には真似しようにも真似出来ない力が備わっている。後はどれだけエイネとレアの間で『巧い』好戦仕合が行われるかである。
「きなさぁい!」
前回あっさりと接近を許して自身の魔力を封じられたレアは、すでにあらゆる対策を考案済みである。
迫りくるエイネに対して、レアは詠唱を唱え始める。
「前回のように『炎帝』すら立てずに、そのまま無防備に詠唱とは舐められたものですね!」
一気にレアの間合いにまで入り込んだエイネは、鎖を具現化しレアを封じようとする。
そこで詠唱していた口を閉ざしたレアは、無詠唱で『万物の爆発』をその場で起こして自身は『高速転移』で一気に距離を取り始める。
大魔王同士であれば本来、超越魔法程度であれば命を奪うことなどは出来ず、更には詠唱のない『万物の爆発』では威力は心許ない。
単に目晦まし程度の効果しか期待できない筈の魔法だが、それでもエイネは無視出来ない程にその目晦ましに障壁を張らされて、僅か数秒程度だが足止めさせられてしまう。
(数日前まで何ともなかった彼女の魔法が、こんな威力にまでなるのね!)
戦い方を覚え始めた『大魔王』階級のレアだが、それでも紛う事なく『金色の体現者』である。
既に戦力値が『30億』を越えていて、更には『4億』を越える『魔力』から放たれる魔法は、超越魔法程度と侮る事など許されない。
魔王レアはすでに始祖龍キーリと戦っていた頃の魔族ではない。
――そしてレアの持ち前の強さはここからである。
今まで戦術を知らずに戦闘の才能だけで戦ってきたレアが、戦術を覚え始めたことで、これまでよりその恐ろしさは幾重にも跳ね上がる。
遠くまで一気に離れたレアは、先程の詠唱有の魔法を一気に展開。
――神域魔法、『凶炎』。
いきなりレアは自身の持ちうる最高魔法をエイネに放ち始めた。流石にこの距離でそんな大技を放ったところで、エイネに当たる筈がないと思われた。
「な、なんて速度!!」
黒き炎は今までとは比べ物にならない速度で迫ってくる。それでも躱す事自体は、エイネにしてみればそれほど難しくはない。
エイネは『高速転移』を用いて一気に大きく跳躍した。そして大技を詠唱有で放った後のレアの『ディレイ硬直』を狙って彼女の後ろへ回り込んだ。
(※ディレイ硬直とは魔力が込められた回路が空になった直後で、次の魔法が放つ事が出来ない状態)。
そしてエイネは再び鎖で一気に魔力を封じてしまおうと企むのだった。
――しかし。
「待っていたわよぉ?」
「え!?」
ディレイ硬直のせいで魔法が放てない筈のレアの前を守るように『炎帝』が控えていた。
炎の球が次々と姿を現したエイネの元へと次々飛んでくる。
「ちぃっ!」
――絶技、『当身』。
前回と同じく『炎帝』の火球を次々と跳ね返そうと『当身』を展開するエイネだが、レアはそんなエイネの更に背後から『ディレイ硬直』がなくなった魔力回路に一気に魔力を灯す。
――神域魔法、『凶炎』。
今度は無詠唱の『凶炎』であった。レアはこの魔法でエイネがどういう行動に出るかを見極めるために『金色の目』を用いて相手の行動に合わせるために控える。
(エイネちゃんのあの跳ね返す技は、一つの魔法に対して効果を発揮するものなのか、それとも技が発動をしている間中の全てに効果があるのかどっちなのかしらねぇ……?)
コンマ数秒の中でのやりとりだが、すでにレアはこうして次の行動を予測している。エイネはそれを理解したことで恐れを抱いたが、同時に嬉しさもまたこみ上げていく。
そしてエイネの『当身』が『炎帝』の火球のみを跳ね返して『凶炎』に対しては跳ね返せない事を示す行動に出る。
――神域『時』魔法、『次元防壁』。
完全なる防衛策に出たエイネは、レアの神域魔法を防ぎきる。だがエイネはこれで二つ以上の魔法を使われた場合『当身』で跳ね返せない事をレアに知られてしまった事を悟る。
しかしそれでもレアが放った無詠唱の神域魔法は、とても無視が出来るものではなかったのである。
だがそれでもエイネは『レア』が類まれなる戦闘センスを持っていた事に対して、絶対に軽視してはいけなかった。
大ダメージと引き換えにでも『当身』の真実を隠し通す事が重要だったのである。
レアはコンマ数秒のやりとりの間に『当身』が万全な魔法対策の役割を果たせない事を知り、頭の中をフル回転させながら幾多の魔法の組み合わせて幾重の行動パターンや、幾応の対策を考え始める。
頭の回路が焼き切れる程の計算で、あらゆるパターンの対応試行回数を脳内で考えた結果。レアは再び『凶炎』を無詠唱で放ったかと思えば、口では何かの魔法の詠唱を始めるのだった。
「ま、またその魔法を!?」
無詠唱と言えども放っている魔法は『神域魔法』なのである。
いくら威力が少ないからといってこれ程の魔法を連発して魔力が尽きないワケがない。その筈だというのに更に口で詠唱をしているのを見て、エイネは次々と余裕がなくなっていく。
――神域『時』魔法、『次元防壁』。
『凶炎』を再び無効化して、自身は『当身』を展開。レアにまだ魔法が控えていたとしても、万全の態勢を喫する事が出来たとエイネは考えた。
(あなたがもう侮ってはいけない相手だと言う事は、重々承知しているわ!)
エイネは『当身』を展開させたまま『高速転移』で距離をとろうとする。
これで何があっても一度は跳ね返す事が出来る上に、他に何かあったとしても対応が可能になる筈である。
予測通り『炎帝』が火球を放ち始めて、エイネの『当身』によって、魔法がレアに向かって跳ね返されていく。
この後直ぐに『レア』が何かをしてくるだろうと考えていたエイネは『高速転移』を使う。
そしてレアの先程の詠唱していた『天雷一閃』が、エイネの向かおうとしていた先に放たれているのであった。
「なっ!?」
エイネは『高速転移』をしようとした先に、雨雲が集まってきたのを見てギリギリのタイミングで『転移』を中止させていた。そのおかげで何とか雷に打たれずにんだ。
『高速転移』は一度使用すると止めることは絶対に出来ないために、本当に間一髪の判断であった。
「ふーむ。どうしてバレたのかしらぁ?」
エイネの背後からレアの声が聞こえる。
「そ、それはこちらのセリフですよレアさん!」
百歩譲って『当身』を展開させたまま『高速転移』をしようとしていた事を予測されていたとしよう。しかしそれでも何故エイネが移動しようとしていた場所を、的確に攻撃出来たというのであろうか?
この前のエイネのように博打のつもりだったとしても、周囲全体を巻き込む結界とは違って今の神域魔法である『天雷一閃』はそれ程範囲がある魔法ではない。
確実にエイネがそこへ移動するという確証がなければ撃たない魔法である。
「何故私が転移しようとした場所を当てられたのですかレアさん!」
エイネがそう言うと『レア』はにやりと笑った。
「ようやく貴方に一泡吹かせられたようねぇ? 私は今とっても気分がいいわぁ!」
しかしエイネの言葉に答えるつもりがないのか、こんなことをレアは言い始めた。
「うふふ。私を倒せたなら、素直に白状してあげるわよぉ?」
そう言って再びレアは金色のオーラを纏い始めて、周囲に魔力の余波を放ち始める。
「どうやらレアさんは私の思う以上に強くなられているようですね? このままでも十分いけるかと思いましたが気が変わりました」
そう言うとエイネの周囲に『青』以外の色が混ざり始めた。
――『青』5.0 『紅』1.2からなる ――『二色の併用』。
レアの目が見開かれたかと思うと、一気にその場から距離をとった。
「ふっ、ふふ、あっははぁ! やったわよぉ!」
レアはようやくこの世界で初めてエイネに『二色の併用』を使わせることに成功したのだった。
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