373.レアの世界の理に関心を寄せるバルド長老
※加筆修正を行いました。
レアは集落にある長老の家で歓待を受けていた。当初こそは『金色の目』を掛け合うという事態が引き起こされていたが、その後はレアも満更では無い程に楽しい食事会が行われていた。
現在長老の家では『レア』『バルド』『エイネ』『リーシャ』の四人で話し合いが行われており、日が暮れるまで話は盛り上がっていた。
すでに子供であるリーシャは疲れからか、エイネの腕の中でウトウトと半分は寝ている様子である。
その様子を見たエイネはリーシャを寝かしつける準備を始めていた。それはつまり大人達の楽しみの酒盛りの時間が迫っているという事であった。
「レアさんは、お酒は呑まれますかな?」
バルドがそう言うとレアはどう答えようかと考えていたが断る事にした。
「私はまだ九歳だからね。お酒は飲めないわぁ」
数千年という長い年月を生きるレアは、自らが決めた設定上の年齢を盾にそう断った。
「これは驚きましたな。それだけの実力があってまだ九歳ですか!」
はははと笑いながら『レア』の設定に乗っかってくれた『バルド』は、自分できつそうなお酒をグラスに注いでいく。
柑橘系の匂いが部屋に充満し始める。どうやらこのアレルバレルの世界のお酒らしいが、レアはその酒の色に目を奪われる。
見た目はどんよりとした暗い色だが、匂いはさっぱりとしているようでレアはその酒に興味をそそられる。
レアの視線を浴びながらもバルドは、一度飲まないと告げられたために自分だけその酒を呷る。
その様子を眺めていたレアたちの元に、リーシャを隣の部屋で寝かしつけたエイネが戻ってきた。
「ああ! 村長だけずるい。私にもくださいよ」
エイネが戻ってきて開口一番にそう告げると、こくりと頷きながらバルドは立ち上がり、グラスを二つ持って戻ってきた。
そして一つをエイネに渡した後にレアの前にも差し出す。
「わ、私は……!」
断ろうとするが氷が入ったグラスに先程の酒を注いでいく。
「別に飲みたくなければ、そのまま置いておくとよろしい」
そう言って笑顔を向けられたために仕方なくレアはされるがまま、注がれていくグラスに目を落とした。
「これは『ビーリブ』というお酒でしてね? この大陸ではよく好まれているお酒なんですよ」
エイネはそう言うと村長に注いでもらったお酒をこくりと喉に流し込んでいく。
「見た目や匂いはそこまでではないですが、非常に辛口でね。それがまた良いのですよ」
バルドが酒の説明を始めると、レアも少しだけ飲んでみようかなという気にさせられるのだった。
「それでレアさん。貴方はどうしてこの集落へ寄られたのですかな?」
しかしそこでレアに村長から声がかけられて、結局レアはグラスに手を掛けられなかった。
どこから話をしたものかと悩むレアだったが、やがて口を開いた。
「私はねぇ、ある魔族を追ってこの大陸に辿り着いたの」
結局別の世界から来たという事を伏せながら、遠い所から『フルーフ』を探しに来たという事を話し始める。
「それはそれは。よろしければ話せる事情であれば、お聞かせ願いますかな?」
どうやらお酒の摘まみにでもしようというのだろう。村長がそう告げるとレアはこくりと頷いた。
レアの親代わりであるフルーフがこの大陸で行方知れずになったことや、ヴァルテンが持っていた映像を二人に見せるレアであった。その映像を見ていたバルド長老は、エイネと顔を見合わせるだった。
「先日の話なのですがね。この大陸で我らが魔族の王である『ソフィ』様に反旗を翻して数多くの魔族を扇動した愚か者がおりましてな? 結果的にその愚か者はソフィ様の魔王軍の前に敗れ去り、この世界から姿を消したと言われておるのですが、どうやらこの映像に映っている場所はその愚か者の拠点に似通っておりますな」
バルド長老がそう言うと、すぐにレアは立ち上がった。
「ほ、本当!? そ、その場所分かるかしら? 分かるのなら私に教えてくれないかしらぁ!」
「わ、分かりました。明日その場所へ案内しますから、少し落ち着きなされ!」
レアの剣幕に押されるように体を少し後ろへ引きながら、バルドはそう告げるのだった。
その言葉にレアは冷静になり、謝罪の言葉を一言残してバルドから離れて元の場所へ戻り、酒の入ったグラスを一気に飲み干すのだった。
その様子に苦笑いを浮かべるバルドとエイネであった。
「それで、さっきから出てくるソフィという名前の魔族が、この世界の支配者で間違いないのかしらぁ?」
レアがそう言うと、二人は頷く。
「うむ。ワシらが若い頃、今よりもっと多くの魔族が、この世界をわが物にしようと立ち上がり、この大陸だけではなくあらゆる場所で大小多くの戦争が行われたのですがね。その全ての争いを止めたソフィ様がこの『魔界』の全ての国の王となられたのです」
「そのソフィという魔族はそこまで強いの?」
レアの質問にバルドもエイネも笑う。
「ワシらが束になってもソフィ様が本気になれば、指一本触れられないでしょうなぁ」
(本当にあのローブを纏った男が、こいつらの言うソフィとやらと同一人物なのかしら……)
「そう言えばここに来る前にレアさんは、ソフィ様達にお会いしたそうですよ」
その言葉に乗っかるようにレアは言葉を繋げる。
「ええ。この大陸に渡った一番最初にローブを纏った男と、大きな刀を背負った男と後は……、目がやばそうな男とお爺さんがいたわねぇ」
レアの言葉に長老は、間違いなくソフィ様達だと断言して見せた。
「成程。ソフィ様達がこの辺に来られるのは珍しいですな」
「私もお会いしたかった。いえ、一目見るだけでもいいから見たかったなぁ」
どうやらエイネは余程ソフィという支配者を尊敬しているようにレアは見えた。
「それにしてもレアさんは本当にお若く見えますが、実年齢はどれくらいなのですか?」
横に居たエイネがレアに尋ねるがレア自身自分の本当の年齢は、途中から数えなくなって分からない。だからこそフルーフに拾われた時の年齢が、レアの年齢と自身で設定したのである。
「まぁフルーフ様に鍛えられた期間を数えれば、三千歳は優に超えているでしょうねぇ」
レアがそう言うとエイネが、私より年上だというような表情を浮かべて驚いていた。
「どうやら肉体の老化防止の魔法がかけられているようじゃが、それは自分でかけられたのですかな?」
「違うわよぉ。これは戦闘をする上で老化は邪魔にしかならないと、フルーフ様にかけていただいてねぇ。まぁ寿命自体はあるからその時が来たら、この姿のままで死ぬかもしれないわねぇ」
レアはバルドの質問に包み隠さずケタケタと笑いながら答えるのだった。
「ろ、老化を防ぐ魔法……?」
そんな魔法はアレルバレルでは見たことも聞いたこともない魔法であり、この世界で長く生きるバルドはこのレアという魔族が、この世界の魔族では無いと薄々と気付き始めるのだった。
バルドがそれに気づくのも無理はなく『理』はこの世界の物とは違うというのも拍車をかけた。
そうして些細な質問などを重ねていく内に徐々に夜は更けていき、そろそろお開きを考え始めた時にバルド長老が口を開くのだった。
「宜しければ今日はここに泊っていきませんか? エイネも一緒に泊まっていくといい」
バルドがそう言うとエイネとレアは互いに顔を見合わせる。
「そうねぇ。旅人の私としては、ここに泊めてもらえるならありがたいわぁ」
レアの言葉にエイネは考え始める。
「そうですねぇ。リーシャを起こすのも可哀想だしそうしますか」
「ではリーシャの寝ている部屋を使うとよい。ワシはここでもう少し酒を呑むのでな」
バルドの言葉に頷き、エイネはレアに部屋を案内しようと立ち上がった。
「あんまり深酒はやめて下さいよ? 明日レアさんにあの大魔王の元領地を案内するんですから」
「分かっておるわ。まだまだ儂は酒に溺れる年でもないわい」
二人の会話を聞きながらレアは、聞き捨てならない単語を耳にする。
(あの大魔王……? それがこの大陸に戦争を仕掛けた魔族なのかしらぁ)
「それじゃレアさん。こっちですよ」
レアはバルドに挨拶をしたあと、エイネの後についていった。
…………
誰も居なくなった部屋でバルドは、グラスに入った酒を胃に流し込む。
「老化を防ぐ魔法か、自由に扱う事が出来れば色々と新しい景色を見れるのじゃろうなぁ?」
どうやら本心では使うつもりでは無さそうだったが、バルドは浪漫めいた不老の魔法を酒の肴に、心躍る気分で酒を流し込む。
「しかしそれにしても。あの子が言っていたのは十中八九、大魔王『フルーフ』のことじゃろうな」
バルドはそう言うと、胸の古傷がずきりと疼いた。
「これ以上は何事も起きねばよいのだが……」
……
……
……
※バルド長老も長く生きている魔族であり、変わったものを見てみたいという欲求を持っているようです。
『ブックマークの登録』や『いいね』また、ページの一番下から『評価点』を付けていただけると作者のモチベーションが上がります。宜しければお願いします!




