330.同胞の魔族の為に悩むレア
※加筆修正を行いました。
レアはエリスをラルグ魔国に建設させた訓練場に連れて行った。
訓練場に着くとすぐにレアは、ある程度の魔法に耐えられる結界を訓練場全体に張り、そこでエリスにこの世界の精霊を介しない別の『理』を用いた魔法を発動させて見せる。
――神域魔法、『天空の雷』。
無詠唱で放たれた雷光は結界で守られた訓練場の屋根を一瞬で貫きながら、目の前に用意した訓練人形を粉々にした。
「これが私たちの使う『旧四大元素』と呼ばれる土属性。そしてその『理』の魔法よ」
そう言いながら自らで破壊した屋根と訓練人形をレアは、魔法で修復させながら説明を行う。
「……す、凄い威力ですわね!」
エリスはこの時代ではレアに次ぐ『魔』を探求せし魔族と言える。あらゆる精霊を用いた『理』の中で魔法のスペシャリストとなったエリスだが、目の前で発動されたレアの『理』の魔法を見て愕然とする。
「出来ればこの私の使う『理』を貴方達にも覚えてもらいたいのよねぇ」
レアは口ではそう言うが、今後数百年は難しいだろうなと内心思っている。
レアの使う『理』の魔法は、天才『フルーフ』が編み出した物である。それを使えというのはいわば何千年や何万年とかけて、この世界の『理』を作り出した精霊の自己同一性を魔族達にすぐに体現せよと言っているようなものなのである。
しかしレアが精霊族を滅ぼしたとなれば、この世界の種族たちは『四元素』の『理』の魔法を使えなくなる可能性が高い。
そうなればせっかく前を進む事を覚えたばかりである魔族達の持つ、モチベーションを無駄にしてしまうかもしれない。
そう考えたレアは精霊族の使う『理』の代替として、こうしてエリスの前で『レパート』の『理』を扱った魔法を見せたのであった。
レアがこの世界に来てから自己研鑽を毎日励んでいるエリスは、ようやく『最上位魔族の最上位』として恥じない程の力を身につけた。
レアがいなければ到達することは出来なかったであろう『覚醒した真なる魔王』の領域へと一番近い場所にいる魔族となったのである。
この世界の魔族であるエリスがその領域へ到達すれば、つまりこのリラリオの世界の純粋なる『魔王』の誕生という事である。
しかしそのエリスであっても先程のレアが使った『理』を今は理解が及んでいない。
今のエリスは単に、レア女王が恐ろしい魔法を発動させたという認識でしかないのである。
――『理』は、魔法を発動させる為の原理である。
『解』を出す為に『数式』を用いた数学のようなモノであり、その『理』を理解出来なければ、魔法という答えを出す事は出来ない。
そしてその『理』を教える為には、膨大な『知識』と体で覚える『研鑽』が必要となる。しかしレアは目の前で呆けているエリスが、この世界で一番適正があると思っている。
――そのエリスを試金石にして、この世界の魔族はどれ程の理解が出来るかを確かめようというのであった。
このリラリオの世界ではすでに魔族の最高峰に立つエリス女王だが、レパートの世界では『フルーフ』の持つ魔王軍の中の魔法部隊。現在はユファが編成している『魔法部隊』の一兵士と同等程でしかない。
本来この神域魔法は『真なる魔王』の領域に立つ者がようやく扱える『理』の一つであり、体現して覚えてしまえばそこまで難しくは無いのだが、その体現するのが難しいのである。
それを魔力で劣る『最上位魔族』程度のエリスでは、知識では理解出来たとしても魔力が追い付かないだろう。
レアはそこまで分かっていて尚、この『理』をエリスに理解させようというのである。
現在は扱えなかったとしても、今後数千年後にこの『理』を世界に流布させたいと考えているのだ。
――何故ならレアはすでに、精霊族を滅ぼすと決めているからである。
「レア様、申し訳ありません。私では扱えそうにありません……」
自分の今の知識の限界を越える『理』に、素直に無理だと白状するエリス女王であった。
「そうよねぇ。ひとまず知識として覚えて欲しいから、初歩的な『理』から覚えてもらえるかしらぁ?」
レアの言葉にエリスは頷き、この日から自己研鑽の中にレパートの『理』も入れ始めるエリス女王であった。
そして自室に戻ったレアは独白する。
「やっぱり精霊を滅ぼすのは不味いわねぇ。私の見立てだと才あるエリスちゃんでも私がこの世界に残っている間に会得するのは難しく思えるわぁ」
――それは決してエリスがレアの期待を下回ったという訳ではない。
無からレアの扱う『理』に着手していれば、エリスはあっさりと近い内に新たな『理』を使った『終焉の炎』や『終焉の雷』を扱えていたことであろう。
だが、すでに魔法を使う上で常識化となっている精霊の『理』がそれを妨害している。
本来この場面では、この『数式』を使って『解』を出すのが正着。
そういった常識が新たな『数式』を覚えるのに、邪魔をしているという理由である。
一つ一つ常識を変えていき、こちらが正しい『理』だと理解させるのに凡そ数千年。下手をすればエリスが、生きている間には無理かもしれない。
そこまで考えたレアは精霊を滅ぼす案を一旦保留として、新たな代替案を模索し始めるのであった。
「エリスちゃんの世代で無理なら、その次の世代に懸けるしかないかしらぁ?」
そう呟きながらもレアは自己研鑽に励む。
左手で『青』2.9のオーラを具現化させながら、右手で『紅』1.2を混ぜずに別々で発動させた状態で固定する。
そしてその状態で『金色の目』を使って、わざと自身の魔力に負荷をかけ始める。
今のレアでは『二色の併用』は、MAXの調子の中でしか使えない。だからこそ魔力を減らした状態でも常に『二色の併用』を発動させられるように、自身の体に馴染ませているのである。
フルーフの教えをしっかりと守り、予習だけではなく復習も欠かさない。他の者に『理』や『研鑽』を押し付ける以上は、自身の研鑽はそれ以上に行わなければいけない。
説得力を持たせるためには、教える事の何倍も自身で理解をしなければいけないからだ。
――今日もまたレアは自己研鑽を続ける。
その研鑽が実を結ぶまで――。
否――。
フルーフに認めてもらうまでこの先レアは永遠に行い続けるであろう。
超がつく天才から教わった天才は、努力を経て超がつく天才への道程を歩み続けるのだった。
※この作品に出て来る『理』は本来精霊が生み出す物で、一介の魔族や人間では生み出せません(魔法という物を使う上で必要なものは魔力や発動羅列など多く存在しますが、まずこの『理』を理解出来なければいけない為に、魔法を使うのに一番最初に必要なのが『理』となります)。
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