326.魔王レアの魔力を見誤る精霊ジウ
※加筆修正を行いました。
結界の内側を見るきっかけが出来たジウだが、結局重鎮の魔族を操る機会が訪れず魔族を操った事は無駄足だったように感じられた。しかしジウは魔族とラクスが揉めた際に、一つ保険を仕掛けていた。
――それは魔人のラクスに『誘操風可』をかけることに成功していたのである。
現在のラクスは自分が『ジウ』に魔法をかけられている事など気づいておらず、操られていない時の普段の状態では、何事もない為に知る由もなかった。
だがジウがひとたび操れば、直ぐにラクスは意識を操られてしまうだろう。これがジウの言う『保険』なのであった。
しかし出来れば魔人を操るというのは、あまりしたくはなかったジウである。この魔人はレアと仲がいい関係にあることを知っている為に、少しでもボロを出せば直ぐに気づかれてしまい、操るにしても相当なリスクを背負うことになるからであった。
しかしもうそんな事を言っている余裕はない。結界の内側にいるレアの情報を得続ける為には、近しい者を操る他にはない。
――すでに魔人へは楔を打っている。多少操ったところで結界の外側ならば、気づく危険性は少ないだろう。
そう考えたジウはレアから出来るだけ離れているときを見計らって、魔人を操ろうと魔法を発動させた。
しかしこの行動こそが『ジウ』の首を絞める事となったのである。既にレアは新たな『結界』によって『ヴェルマー』大陸中に罠を仕掛けていたのであった。
もしあの時にジウがレアから目を離さず、もう数時間水晶玉で観察を続けていれば、このような失策を取らずに済んだであろう。
しかしそれを願うのは酷というものだったのかもしれない。
遅かれ早かれ『レア』という魔王の居る大陸に手を出そうという以上、ジウ並びに精霊族には未来がなかったのだから。
「見つけた……！」
ジウがラクスに放った根源魔法『映見接続』。
その魔法の魔力を感じ取ったレアは、直ぐにその場から転移を始めた。
何も知らないジウは水晶玉を通して魔人の目を共有しようとした矢先、宿の一室にいる彼の前に『魔王』レアが出現するのであった。
「なっ！？」
結界の外側。レアから離れているときを狙ったにも拘わらず、あっさりとレアに魔力を感知された事に驚きを隠し切れない精霊族の『ジウ』。
「んぅ？ 貴方魔族でも魔人でもないわねぇ……？ さては貴方が私の可愛い配下達を操った悪者かしらぁ？」
レアは怒っている風でもなく、単純に好奇心のようなモノを目に浮かべながらジウに問いかける。
「……」
驚き目を丸くしているジウは、口を閉ざしたままレアを見つめる。
「言葉が通じないのかしらぁ？」
そしてレアがニヤリと笑った瞬間。ジウは危険を感じ取りそのまま一目散に逃げ出す。
精霊族のジウの膨大な魔力から放たれた転移で一気に距離を稼ぐ。あっという間に宿から『ヴェルマー』大陸の大空へと転移するのだった。
一般的な魔族とは比べ物にならない魔力で転移したジウは、レアが追ってきていないかを確認しようと背後を振り返る。
「よし！ 一度『トーリエ』へ戻ろう。ここに長居は危険だ」
逃げ切れたと判断したジウは再び前を向く。
――しかしそこには『魔王』が腕を組んで空で仁王立ちをしていた。
「んげぇっ！？」
――考えられない光景であった。
精霊族の中でも『風』の精霊ジウの魔力は膨大であり、次代の『風』の長老と囁かれる程の力の持ち主である。
そんなジウが本気で転移したにも拘らず、それを上回る程の魔力でジウの前に現れたのである。驚かない筈がなかった。
「私の質問に答えてくれないのかしらぁ？ どうやら言葉は通じるみたいだけど？」
レアからは逃げられないと判断したジウは、言葉が通じないとばかりにとぼけはじめる。
「――？」
精霊の言語を用いてとぼけてこの場を乗り切ろうとするジウだったが『魔王』レアはそんなに甘くはないという事を直ぐに理解させられてしまうのだった。
「うーん。何を言っているか分からないわねぇ？ 演技をしているのか、それとも本当に言葉を通じないのか分からないわねぇ？」
上手くいったとばかりにジウは内心ほくそ笑むが、次の瞬間ジウは恐ろしい言葉を耳にする。
「別にどっちでもいいんだけどねぇ？ とりあえず怪しい者は殺しましょうかぁ」
「！？」
そう言うとレアは『青のオーラ』を纏い始める。
通常形態のレアでさえ『ジウ』には恐ろしく高い戦力値を感じ取っていたが、今のレアの魔力や戦力値はそれを遥かに上回っている。
――万が一にもジウ程度が勝てる相手ではないと悟らされてしまった。
「ま、待ってくれ！ 殺さないでくれ！」
このまま黙っていると冗談でも何でもなく、あっさりと殺されると理解したジウは、レアにも分かる言葉を口にし始めるのであった。
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